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[読書ログ]「ゆかいな床井くん」

「ゆかいな床井くん」
著:戸森 しるこ

あらすじ

六年二組の四月から卒業までのかけがえのない一年間。
主人公は三ケ田磨(みけた・こよみ)というまじめな女の子。となりの席の床井(とこい)くんは、ユーモアがあって、考えかたのセンスがよくて、ちょっと変わっている、クラスの人気者。みんなの本当の気持ちを気付かせてくれる。
「しゃべるのを我慢できない遠矢(とおや)くん」「ゴキブリをかっていると噂になっている後田(うしろだ)さん」「教室で一言も話さない鈴木さん」……いつもの学校生活の中で、床井くんがこんなクラスメイトたちを少しずつ変えていく。
大人になってもきっと覚えている、特別な時間が流れている物語。

講談社HPより引用


感想

「ゆかいなゆかいくん」と読みそうになるが、読んだ人だけが「ゆかいなとこいくん」と読める本書。

うまい。物語がうまい。
するするっと、そうめんをすするようにさらりと読める文章。それでいてなんだか可愛らしさが同居する雰囲気がある。野間児童文学賞、そりゃそうだという感じだ。

床井くんが何か事件を起こすわけでも、それに振り回されるわけでも、不思議な転校生枠でもない。
淡々と流れる学校生活のなかで、主人公から見た床井くんの姿が描かれる。
主人公の名前は、暦(こよみ)。本書の登場人物は、みんなかわいくてちょっと変わった名前だが、その軽妙さも物語の良いスパイスになっている。

最初、地の文が三人称なのか、一人称なのか分かりづらく感じたが、同級生にさまざまな呼ばれ方をすることもあり、こういった書き方になったのかなと推測した。

この物語って、嫌いな人いるのだろうか。
プラスはあっても、マイナス評価をつけるところが見当たらないモチーフのチョイスと、人物描写、物語構成。
 
気にかかるところがひとつもない。しいて言えば、ドロドロしていない分、その軽さを好きになれるかどうかだけれど、圧倒的に多くの人に支持されるような物語だよなあと思う。(わたしも支持するひとりです)

装丁のイラストの可愛さも、物語の質を押し上げている。
早川世詩男さんのかわいらしい男の子の絵が物語にぴったりだ。

戸森しるこさん、うまいなあ。他にもいくつか読んできているが、どれもこれも描き方が絶妙で、深すぎず、でもちょうどいいテーマ観と距離感がある。そう、距離感。適切な距離感とバランス。このさじ加減が極まっている。この表現がぴったりだと思う。
 
いいなあ。いいなあ。すてきだなあと思いながら読了。
推し作家がまたひとり増えた。
 


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