[読書ログ]「りぼんちゃん」
著: 村上 雅郁
出版社: フレーベル館
あらすじ
感想 ※ネタバレあり
昔からハードカバーの本ってなかなか読めない。
読むのが遅いので、時間がかかってすぐに図書館の返却期日になってしまう。文庫になっても短編集とかアンソロジーとかが多い。
だけど、たまたま図書館で手に取った。
作者は村上雅郁さん。
本の名前と表紙絵はTwitterで見たことがあったが、読んでいなかった。
先日、ある人に、「フレーベル館に新人賞なるものがある。村上雅郁さんという方が受賞している。読みなされ」と言われた。
そこでたまたま、フレーベル館出版の本作を図書館で見つけたので手に取った。(ちなみに受賞作は、『あの子の秘密』であり、本作ではない。)
※ここからが感想です。ネタバレあります。
いろんな要素が盛りだくさんのお話。
よくこれだけ詰め込んで、破綻や違和感がなく書けるなあと驚く。
書いていると、あれもこれも書きたくなって、足し算になっていきたくなるが、そうなると「これいる?」みたいなことが起きて、ノイズが増えやすい。
この作品はそのノイズがまったくない。
人によってどこに注目して読むのか、いろんな考察、価値観、考え方で読める話になっていると感じた。
主人公の朱理は、ごく一般的な家庭で育つ、体の小さな文学少女。
クラスメイトからは、あかちゃんとバカにされ、家族からも「朱理だから」と話を聞いてまともに取り合ってもらえない。
そこに転校生の理緒が現れる。
理緒の父親は暴力こそしないが、罵詈雑言を吐き、物に当たるトラブルメーカー。理緒を愛するがゆえに、理緒は嫌がりつつも、キスしたり、くすぐったりもする。
朱理は、赤ずきんとおばあちゃんがいる空想の世界に入り、物語を書く。序盤はこの空想世界と、現実世界を行ったり来たりする。
そうしてこの世界のわざわいを意味する「オオカミ」にどう立ち向かっていくか、考えて実行していく過程で、朱理も理緒も成長していく話。
理緒の父親の虐待の話が表紙絵に比べて結構ヘビー、という声がレビューに多かったが、自分はあまりヘビーさは感じなかった。
むしろ、いい意味でヘビーにならないように気を付けて表現を抑えている感じがした。
物語としては、すべてがまるくおさまる展開で、現実にはこんなにうまくいかないだろうとは思うが、それはおそらくこれを読む小学生だって、分かっていると思う。
だけど、物語くらいはせめてハッピーエンドで、と思うし、ハッピーエンドのおかげで読後感も良く、安心して読める。
朱理の性格がとても子供らしくて、可愛らしく、これは作者の才能だと感じた。
この物語に一貫して流れている朱理の可愛らしさ、いじらしさが、物語を不穏で暗くなりすぎない絶妙なバランスを保っている。
何よりこの性格だからこそ、友達とはいえ、他人の理緒をここまで助けたいと必死になれたという理由付けが成り立つように思う。
朱理はどうしてここまで理緒を助ける気になって、行動に移せたのか。
その理由が最初、分かりづらかった。
友達とはいえ、オオカミは理緒の父親で大人だ。理緒が苦しんでいたとしても、それほど踏み込めるものだろうか。
意気地なしだったり、普段言いたいことを我慢しているような子なら言えない。当然、朱理との関係性が悪化するだろうとも考えたら余計できないだろう。でも突き進める原動力はどこにあるのか。
それは、朱理が悩みこそあれど、大好きなおばあちゃんとの思い出や、父母姉と不自由なく暮らす、家庭環境で育った子どもであること。
現実を理解するために必要な世界として、あるいは現実逃避のための空想世界を持っていることが、ある意味で精神的に安心できる環境下で生きてきたバックボーンがあるからではないか、と感じた。
そのためには、朱理の性格は重要だ。ただ明るいヒーローではなく、モヤモヤを抱えながら生きている”普通の”女の子だからこそ、理緒を助けようと動けたのだろう。
この朱理のキャラクター設定って、どうやって作り込んだのだろう。
どの段階から、このキャラクターでいこうと決めたのだろうか。
気になる。
あとは、物語のなかで作者のメッセージがあちこちに感じられて、とてもよかった。
書き手がこういう文章を入れ込むのは、結構な決意や覚悟が必要だし、自分が自分と戦った結果に生まれるものだから、書き手はしんどかっただろうなと思うが、わたしはこういう書き手の意志を感じる文章が大好物だ。
好きなシーンを一部抜粋する。
いろんなものを抱えて、でも吐き出せないでいる人たちに、そしてそのうちの一人である朱理が、心の内側を吐き出すシーン。
この、登場人物の心情がこれでもかって前に出てくる感じ。
こういうのが、個人的にはとても好き。
小さい頃、こういった感情の揺れや、意志を読みたくって読書していたことを思い出す。
小6以上をターゲットにするにしては、やっぱり重めのテーマなのかもしれないが、意志のある力強い作品でとてもよかった。
村上さんは1991年生まれ。
年齢は関係ないけれど、それでも20代最後にこんな物語が書けるなんて本当にすごいなあと、ため息が出る。