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頭山興助「祖父・頭山満の教え─『中国にも米国にも一歩も譲るな』」(『維新と興亜』第6号、令和3年4月)

 玄洋社の中心人物・頭山満翁は、「アジア主義者の巨頭」として絶大な影響力を持っていた。しかし、戦後は否定的な評価が続いてきた。頭山翁が目指したものとは何だったのか。今、我々が頭山翁から学ぶべきものは何か。頭山翁のご令孫の頭山興助先生に、知られざる頭山翁の一面を語っていただいた。

「尊皇家は右でも左でもなくセンターです」
── 頭山翁は、祖国の独立を願うアジアからの亡命者や革命家たちを捨て身で支援しました。それは、日本人が誇るべき歴史です。頭山翁の思想と行動の根底にあったものは、何だったのでしょうか。
頭山 尊皇・敬神が祖父の全てだったと思います。祖父は、神社に参拝する度に石畳に正座して拝みました。自然にそういう気持ちになるのでしょうね。昭和四年に諏訪神社に参詣した時には、土下座をし、額を社頭の砂利にすりつけんばかりにして拝み続け、周囲の人たちは固唾を飲んで見守ったと伝えられています。
 俗に黒田節と呼ばれる筑前今様に、

  皇御国の武士は いかなる事をか勤むべき
  只身にもてる赤心を 君と親とに尽くすまで

とあります。祖父には、それしかなかったのでしょう。
 当時、国家を憂える国士たちには、現在では想像もできないほど強烈な危機意識がありました。イギリスをはじめとする西洋列強はアジア諸国を植民地とし、虎視眈々と日本を狙っていました。祖父は、こうした危険を排除するためには、日本が本来の姿、つまり天皇陛下と国民が一丸となって事に当たらなければならないと強く思っていました。
 東日本大震災の時にも示されたように、大御心と国民の尊皇の心がマッチした時、日本はあらゆる災難に立ち向かうことができるのです。日本の皇室は外国の王室とは根本的に違います。二千六百年以上にわたって皇室は連綿として継続してきましたが、どの時代の歴史を見ても、天皇が国を私したことはありません。天皇と国民は、親子のように互いに支え合う、すがすがしい関係です。
 フランス革命以来、右翼、左翼という言葉が定着し、日本でも共産主義思想を信奉する左翼に対して右翼が登場しました。祖父は「右翼の巨頭」と表現されますが、本来尊皇家は右でも左でもなく、センターです。

日本の良さを分かち合う
── 「神ながらの道義国家を建設した後には、それを世界に広げる」というのが肇国の理想であり、頭山翁らのアジア主義者の考え方にもそうした発想があったように思います。
頭山 かつての日本人には、日本の良さを分け与えることによって、外国の困っている人たちを助けるという発想がありました。祖父は朝鮮の金玉均、中国の孫文、インドのラス・ビハリ・ボース、ベトナムのファン・ボイ・チャウらを助けました。
 戦後の歴史観では、玄洋社は日本の侵略主義の片棒を担いだなどと言われてきましたが、そもそもアジア主義は欧米によるアジア侵略に対抗するために生まれた考え方です。玄洋社の志士たちは、民間人が外国と腹を割って話せば解決できるという思いで、積極的に対外的な問題に取り組んだのです。アジア主義運動に挺身した人たちは、世界のことを非常によく知っていました。語学もできたし、海外の豊富な情報や知識も持っていました。
── 頭山翁は、どのような思いで孫文を支援したのでしょうか。
頭山 当時は、横暴な清国をどう倒すかということが課題でした。孫文は、一八九五年に広州での武装蜂起を企てましたが、失敗して日本に亡命、祖父と出会いました。一九一一年、ついに孫文は辛亥革命に成功しました。しかし、結局祖父たちは孫文に騙された側面があったのかもしれません。孫文としては日本を騙さなければ、国を維持できなかったのでしょう。
 それでも祖父は、昭和四(一九二九)年に行われた孫文の英霊奉安祭に、犬養毅さんとともに日本を代表して出席しています。
 祖父は、日中両国の抗争をアジア全体にとっての一大恨事として痛嘆し、その早期講和を願っていました。日中の戦争が拡大する中で、祖父は「日本と中国は兄弟同士だ」と語っていましたが、その顔は寂しそうだったと言います。
── 頭山翁には、薩長藩閥政府を震撼させる力があったと言われています。例えば、ビハリ・ボースを匿ったときには、政府は頭山邸には踏み込めませんでした。頭山翁でなければ、政府の弾圧を受けていたかもしれません。
頭山 実際、戦前には政府に危険視された団体は容赦なく弾圧されました。大本教なども厳しい弾圧を受けました。玄洋社の来島恒喜先生が大隈重信暗殺を試みた記憶もあったでしょうし、維新運動が祖父の影響下にあると考える人も多かったのでしょうね。夢野久作は、祖父について「上は代々の総理から、下は日本中の生命知らずの壮士や無頼漢からまでも恐れ、敬はれ…」と書いています。

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