なるせゆうせい「『ようこそ、最高で最低なこの国へ。』」(『維新と興亜』令和5年7月号)
「現代の奴隷制」とも呼ばれている外国人技能実習制度は、「希望の国・日本」のイメージを深く傷つけている。
実習生に対する賃金の不払い、過重労働、暴力などが横行し、失踪する実習生は年間7000人を超えている。こうした中で、4月には政府の有識者会議が、技能実習制度を廃止し、新たな制度への移行を求める、中間報告のたたき台を示している。6月15日には、米国務省が、日本で外国人技能実習制度の参加者に対する「強制労働」が続いていると批判した。
6月30日公開の映画「縁の下のイミグレ」で技能実習制度に正面から向き合った、なるせゆうせい監督に聞いた。
「安い国日本」を支える外国人労働者
── 映画原案の『アインが見た、碧い空。:あなたの知らないベトナム技能実習生の物語』を書いた近藤秀将さんとは、もともとお知り合いだったのですね。
なるせ そうなんです。近藤君は早稲田大学時代からの友人です。彼は、若い頃は音楽を作っていたのですが、気がついたら行政書士になっていました。ひさしぶりに会った時に、外国人の就労や外国人技能実習制度の問題について聞かされました。最初はあまりピンとこなかったのですが、技能実習生の問題がニュースでも取り上げられようになって、自分でも調べはじめた結果、この問題を避けて通ってはいけないと確信するようになりました。
低賃金で働く多くの技能実習生がいる一方で、コロナ禍以降、政府は企業に対して賃上げを求めるようになりました。これは矛盾しているのではないか、と感じ、さらにこの問題に対する関心を深めました。
── 映画の中で最も訴えたかったことは何ですか。
なるせ まず、技能実習制度という制度を知ってもらい、それが遠い話ではなく、自分自身の問題だということを理解してもらうことです。
技能実習制度はとてもおかしな制度です。本来、この制度の目的は国際協力の推進です。具体的には、日本の技能や技術を開発途上地域へ移転することです。ところが、実際には企業が安い労働力を確保するために利用されています。多くの実習生は、技術の習得より仕事をしてお金を稼ぐことを目的として、技術と言えるほどのものは身につかないような仕事に就いています。これほど目的と実態が乖離した制度はありません。
また、制度自体がわかりにくいのです。実習生と企業が直接やりとりするのではなく、そこに様々な組織が介在しています。送り出し国側には送り出し機関が存在し、日本側には企業と実習生の間に監理団体が存在しています。実習生たちは、日本に来る前に、送り出し機関に多額の手数料を支払う必要があります。出国前に100万円を支払うようなケースも珍しくありません。したがって、ほとんどの場合は借金を背負って日本に来ることになります。さらに、中抜きする人たちやブローカーが存在します。
── 近藤さんは「日本が、技能実習制度を通じて、何万、何十万ものアジアの若者たちを使い捨てにしてきた」「こんなことを繰り返している日本という国は、いずれ近い将来、アジアの国々から見向きもされなくなるという危機感を、私は、強く抱いています」と書いています。
なるせ ただ、技能実習制度の全てが悪だというわけではないと私は思っています。監理団体、行政書士、この制度の監督機関である外国人技能実習機構など、様々な立場の人の話を聞きましたが、この制度の中で真剣に頑張っていらっしゃる方もいます。映画では、制度を批判するだけではなく、それぞれの立場の人の思いも描きたいと思いました。
── 近藤さんは、〈技能実習生の「真の搾取者」は、──「私」であり、「あなた」である。資本主義社会の消費者である、私たちが、「安く」て「良い」モノを求め続けるからこそ、その欲望に元請企業が、「企業努力」によって応えようとする〉と指摘しています。
なるせ 今、僕らが手にする安い服や、安い食事は、低賃金で働く外国人のおかげと言っても過言ではないでしょう。特に若い子たちのマインドは、安いものを買うことに向かっています。夢を持ってこの国に来た彼らが低賃金で働いてるから、「安い国日本」が成立しているのです。つまり、技能実習制度の問題は、消費者である日本人全員の問題でもあるのです。だからこそ、この問題に関心を持ってもらいたいのです。
若い人に考えるきっかけを与えたい
── この映画は「社会派ブラック・コメディ」と銘打っています。実際に映画を観させていただきましたが、笑いを誘う箇所も少なくありませんでした。
なるせ これまでも技能実習制度の問題を取り上げたドキュメンタリー映画はありました。例えば、2020年には日本とベトナムの共同制作で「海辺の彼女たち」というセミ・ドキュメンタリーのような映画が作られています。
僕は「縁の下のイミグレ」を通して、今の若い子たちに技能実習制度の問題を知ってもらい、考えてもらいたいと思っているのです。『君たちはまだ長いトンネルの中』のときもそうでしたけど、若い人たちに考えるきっかけを提供したいのです。
僕は常に、「この映画を見終わった後、お客さんがどういう気持ちなるのかな」ということを気にしていますが、「若い子がこの映画を観てどう思うかな」と考えた時に、重いテーマだからこそ、笑うしかないという感覚が大事なのだと思っています。若い子は、重いテーマだからといって、重たく見せても拒否反応を示してしまうのではないでしょうか。
若い人の中でも、政治や経済に興味を持っている人もいますが、興味がない人はずっと興味を持たないまま終わってしまいます。興味のない人に対して、どうやったら観てもらえるかを考えているのです。エンタメの要素を加えることによって、ストーリーとして観やすくなります。遠くのものが、実は身近なものだということを理解してもらう上で、エンタメは大きな力を発揮すると考えています。
「ようこそ、最高で最低なこの国へ。」
── なるせさんは社会派監督と呼ばれるようになっています。
なるせ いや、普段は全然エンタメなんですけど。
── これまでも、介護界に一石を投じるヒューマンドラマ「ヘルプマン!」、「食育」をテーマにした舞台「明日、君を食べるよ」、フェアトレードを扱ったコメディ映画「フェアトレードボーイ」など、様々な問題を取り上げてきました。
なるせ 「ヘルプマン!」は、「介護の問題は誰もがいずれは直面する問題であり、みんなにこの問題を考えてもらうきっかけにしてほしい」という思いで作りました。今年も上演する「明日、君を食べるよ」は、東京から田舎に引っ越して来た少年と、一頭のウシの命を巡る物語です。食べる時に、「いただきます」と言うのは、「命をいただきます」という意味であることを子供たちにも知ってもらいたいのです。フェアトレードの問題は、技能実習制の問題とも重なる部分がありますね。開発途上国の原料や製品を適正な価格で購入することが、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者のためになるわけです。貿易の在り方もそうした考えに基づくべきだと思います。次は、奨学金の問題と財務省の問題を描きたいと考えています。
── 「縁の下のイミグレ」のキャッチコピーには「ようこそ、最高で最低なこの国へ。」とありますが、外国人が、最高の国だと期待して日本に来たのに、最悪の国だと失望して日本を去ることは、非常に悲しいことです。
なるせ あのキャッチコピーは、「最高で最低な」と皮肉っているのですが、実際に日本がこのような状況に陥っていることは、それほど意識されていません。やがてアジアの人たちは、仕事を探す場所として、日本ではなく別の国を選ぶようになるかもしれません。
いまこそ若い人たちが技能実習制度の問題に関心を持ち、あるべき制度について考えていただきたいと思っています。 (聞き手・構成 坪内隆彦)
「日越国交樹立50年 日越交流史勉強会、墓前祭開催」
本年はわが国とベトナムが外交関係を樹立してから五十年の節目の年に当たる。そこで本誌は、六月三日に、都内で日越交流史勉強会を開催した。勉強会に先立ち、代々木公園で開催されたベトナム・フェスティバルに参加し、その後、雑司ケ谷霊園にあるチャン・ドン・フォン(陳東風)のお墓にお参りした。
勉強会には在日ベトナム人の方、梅田邦夫前駐ベトナム大使にも参加していただいた。また、昨年クォン・デ自伝の翻訳を『ベトナム英雄革命家 畿外候彊柢候 祖国解放に捧げた生涯』として出版した何祐子氏にはベトナムからオンラインで参加していただいた。さらに、『蘇る日越史 仏印ベトナム物語の一〇〇年』の著者・安間幸甫氏からはメッセージを頂戴した。 日越交流史勉強会では、本誌編集長の坪内隆彦が「クォン・デをめぐる日越志士の交流」と題して講演した。