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サマソニ2025第一弾発表ともう1組のヘッドライナー

サマーソニック2025の第一弾ラインナップが発表された。


今回発表されたのは二組。ヘッドライナーとしてアメリカのエモバンド・FALL OUT BOY、そして日本国内からOfficial髭男dismがラインナップされている。
今回の第一弾ラインナップを受けてソーシャルでは早速賛否両論が巻き起こっている状況だが、オフィシャルからは翌週には追加のアーティスト発表がアナウンスされており、FALL OUT BOYに続くもう1組のヘッドライナーも近日中に発表されるものと思われる。ヘッドライナーを予想するラストチャンスとして、今回の第一弾ラインナップや近年のサマソニのブッキング、海外フェスの動向なども踏まえてもう1組のヘッドライナーを考えてみる。


コロナ禍以降のサマソニ

もう1組のヘッドライナーを考えるにあたって、近年のサマソニの動向を振り返りたい。
コロナ禍以降のサマソニはヘッドライナー選びにあたり、二日間の開催日程のうち、片方にロックバンド、もう片方にポップ・ヒップホップ文脈のアーティストを招聘するという大方針を置いているように見受けられる。
新型コロナウィルスの感染拡大による中止を挟み、3年ぶりの開催となった2022年には、東京初日のヘッドライナーにTHE 1975を、二日目にはPOST MALONEPOST MALONEをヒップホップアクトと呼ぶかについては諸説あるが…)をそれぞれ迎えているし、翌年2023年には、東京初日にBLURを、二日目にはKENDRICK LAMARをおき、ヘッドライナーだけでいえば過去もっとも強力なラインナップの一つとなった。
昨年2024年については(ロッキングオンなど複数の媒体で語られている話ではあるが)、元々1日をMÅNESKINBRING ME THE HORIZONをダブルヘッドライナーとし、もう1日のヘッドライナーにTRAVIS SCOTTを迎えるはずが、TRAVIS SCOTTとの交渉がうまくまとまらず、結果的に東京初日にMÅNESKIN、二日目にBRING ME THE HORIZONがそれぞれ出演することになった。
上記アクシンデントもあり、2024年だけが例外的ではあったが、ヘッドライナーを務められるロックバンドが不足しがちな昨今、基本的には二日間の日程のうち、片方の日程にロックバンドを、もう片方にポップ・ヒップホップ文脈のアーティストをヘッドライナーとして招聘するという大方針は今年も維持されるのではないだろうか。

ヘッドライナーとしてのFALL OUT BOY

ところで、今回1組目のヘッドライナーとしてアナウンスされたFALL OUT BOYだが、ソーシャルでは賛否両論が巻き起こっている。

ポジティブな意見の一つとしては、順当なヘッドライナー昇格、というものだ。
サマソニ公式も謳っているように、FALL OUT BOYはことあるごとにクリエイティブマンが招聘し、サマソニにも複数回出演、2023年にはBLURの前でセカンドヘッドライナーを務めている。
これまでのサマソニの歴史の中でも、早い時期にサマソニに出演し、キャリアとともにポジションをあげ、ヘッドライナー昇格を果たしたアーティストは数多い。COLDPLAYMUSELINKIN PARKARCTIC MONKEYSなどは今となっては押しも押されぬヘッドライナークラスだが、デビュー当初は早い時間帯に出演していたし、国内アーティストでもサカナクションなどはかつてはオープニンアクトとして出演していた。
近年でもTHE 1975MÅNESKINBRING ME THE HORIZONはキャリアの早い時期からサマソニが招聘し、ヘッドライナーに上り詰めたアーティストといえるし、今回のFALL OUT BOYも同様の文脈で語ることができる。

もうひとつのポジティブな意見としては、今年複数の海外フェスでFALL OUT BOYがヘッドライナーとしてラインナップされていることだ。


アメリカのイニングスフェスでは昨年フジロックに出演したTHE KILLERSと日を分ける形でヘッドライナーとしてラインナップされている
ボストン・コーリングではAVRIL LAVIGNEとともに土曜日のヘッドライナーとしてアナウンスされている
オーシャンズ・コーリングではWEEZERとのダブルヘッドライナーを務める


もちろん海外と日本国内のおけるアーティスト人気には差があって当然だが、世界のフェスの中でのサマソニと考えれば今回のヘッドライナーとしてのラインナップは妥当といえる。

他方、否定的な意見も多数見られる。
ひとつにはやはりヘッドライナーとしては弱いのでは?というものだ。FALL OUT BOYは2000年代のロックシーンを牽引し、エモ・パンクというジャンルの代表格ではあったが、「ロックシーンを代表する」というにはあと一歩という印象がある。
これはロックバンド全般にいえることではあるが、ヒップホップが音楽やポップカルチャーの中核を担うようになった2010年代以降、ロックの市場そのものがシュリンクした印象がある。そのため、2000年代にデビューし、1stアルバムや2nd~3rdアルバムで評価を得たロックバンドにとっては、その評価を確立し、「ロックシーンを代表する」バンドとなるための4th、5thアルバムが市場に受け入れられる機会に恵まれなかったのではないだろうか。私自身、いまだにFALL OUT BOYといえば2ndの『From Under the Cork Tree』、3rdの『Infinity on High』の印象が強い。

特にエモやパンクというジャンルについてはその影響が大きかったと思う。というのも、エモやパンクはどうしても若年層向けの所謂「キッズロック」という側面が否めない。若年層を音楽マーケットに呼び込む役割は非常に重要だったが、そのポジションを現在では完全にヒップホップが担ってしまっているのだ。こうして2000年代デビュー組のロックバンドが中堅の位置で足踏みを続けている間に、ヒップホップ・ポップスからは新たなシーンの顔役がどんどん輩出されフェスのヘッドライナーでは収まらない位置にまでジャンプアップしてしまう。結果的にフェスのヘッドライナーを担えるアーティストのポジションが空席になってしまっている。

もうひとつはFALL OUT BOYが2023年のサマソニで来日していることもあり、希少性が感じられづらいことだろう。やはりサマソニやフジロックなど大型フェスのヘッドライナーというと、通常なかなか日本では見る機会のないアーティストの来日を期待しがちになる。そこに数年前に来日しているアーティストがあてがわれることで、貴重なひと枠が埋められてしまうような感覚になるのは致し方ない。実際、昨年のヘッドライナーであるMÅNESKINBRING ME THE HORIZONについてもソーシャルでは同様の反応が見られた。

とはいえ、FALL OUT BOYの楽曲のキャッチーさ、陽性のパフォーマンスは間違いなく楽しい。昨年のBRING ME THE HORIZONが、ポップな要素も持ちつつも基本的にはメタルコアという一般には馴染みづらいジャンルに軸足を置きながら、これまで積み上げてきたサマソニオーディエンスとの関係性も相まってサマソニヘッドライナーを務め上げたことを考えれば、むしろ今年のFALL OUT BOYの方が盛り上がるのでは、という気もする。なんだかんだサマソニヘッドライナーとしての役割は十分に果たすだろう。おそらくFALL OUT BOYは今年の夏を契機に、名実ともに世界のヘッドライナーに上り詰めるだろうし、このタイミングでFALL OUT BOYを観るというのは案外悪くないのでは?

海外フェスの動向

もう一つのヘッドライナーを予想する前に、海外フェスの動向も確認しておきたい。
近年のサマソニのラインナップを語る上で欠かせない海外フェスとして二つあげたい。一つはアメリカ・カリフォルニア州で行われるコーチェラ・フェスティバル、もう一つはスペイン・バルセロナのプリマヴェーラ・サウンドだ。
ここ数年はこの二つのフェスの傾向がサマソニともリンクする部分がある。コーチェラは近年世界のフェスのトレンドセッターという見方ができるとともに、ポップスも含めたマスにアピールできるラインナップという点でもサマソニと通じる部分は大きい。また、プリマヴェーラはロック・ポップ・ヒップホップというジャンル的な部分と新旧という世代的な部分でもバランスの良さがウリであるが、特に2023年には、同年のサマソニでもヘッドライナーを務めたBLURKENDRICK LAMARがラインナップされ、話題となった。

Primavera Sound 2023では、同年のサマソニでもヘッドライナーを務めたBLURとKENDRICK LAMARがラインナップされていた

2025年についてはすでに両フェスともラインナップが発表されており、サマソニ(あるいはフジロック)のラインナップを予想する上で参考になる。

コーチェラはGREEN DAYを土曜日のヘッドライナーに置き、これまでのトレンドセッター的なポジションとは少し異なった動きをしている(2023年のBLINK-182の出演が成功を収めるなど、パンク復権の兆しを受けてのラインナップだろうか)
プリマヴェーラはポップス系でヘッドライナー3組(CHARLI XCX、SABRINA CARPENTER、CHAPPELL ROAN)を押さえつつ、二段目以降にはロック、R&B、HIP HOPのアクトをバランスよく配置し今年も隙のないラインナップになっている


もう1組のヘッドライナーは?

では、今年のサマソニのもう1組のヘッドライナーは誰になるのか。
コロナ禍以降のサマソニのブッキング傾向を踏まえると1日がロック系、もう1日がポップス・HIP HOP系のアクトがヘッドライナーを務める可能性が高い。第一弾で発表されたFALL OUT BOYをロック系ヘッドライナーと考えると、もう1組はポップス・HIP HOP系のアクトとなる可能性が高いだろう。
さらに、海外フェスの動向も踏まえ、可能性の高いアーティストを考えてみる。

CHARLI XCX

まずは、昨年リリースされたアルバム『BRAT』が高く評価されたCHARLI XCX。『BRAT』はハイパーポップの文脈を持ちながら耳馴染みもいいアルバムであるとともに、CHARLI XCX自身が、大統領選に出馬したカマラ・ハリスを指し、「kamala IS brat」とポストしたことで『BRAT』が昨年最大のバズワードとして広まった。

CHARLI XCXは2014年のサマソニで初来日を果たし、2017年にも出演を予定していたが喉の不調により出演キャンセルとなった経緯がある。

2022年には自身のTONAL TOKYOへの出演に加え、サマソニ出演のために来日した恋人・THE 1975のドラマーであるジョージ・ダニエルに同行して来日している。
タイムリーなアーティストをフェスで観る、という意味で、今年サマソニにCHARLI XCXを期待したい。

SABRINA CARPENTER

Espressoで大ブレイクを果たしたSABRINA CARPENTERはCHARLI XCXと同様に昨年の音楽シーンの顔役の一人だった。

Espressoはフィルターのかかったイントロから展開される軽快なポップソングでありながら、ひたすらループする構造はHIP HOPの要素も感じられる。
昨年のコーチェラでも披露され、青いモーテルを模したセットの前で歌う演出がこの曲にバッチリハマっていた。
昨年のサマソニの会場でもEspressoはかかりまくっていたし、昨年の開催期間中からすでにブッキングに向けて動いているのでは?と思わされるほどだった。

BILLIE EILISH

サマソニでのヘッドライナー出演が待たれているアーティストの代表としてはやはりBILLIE EILISHだろう。
こちらも昨年リリースした通算3作目となるアルバム『HIT ME HARD AND SOFT』が2024年を代表する作品となった。

2024年にはアルバムプロモーションのために来日はしたものの、ライブなどはなし。2022年に単独公演で来日しているものの、フェス出演は2018年のサマソニのみ(この時はまだSonicステージだった)。
なお、昨年のサマソニ主催者インタビューではBILLIE EILISHにオファーをしたが、ライブは2025年以降ということで断られたという発言もあった。今年もし動くのであれば、ぜひサマソニでの来日を期待したい。

以上、サマソニ2025のもう一組のヘッドライナーについて考えてきたが、ここ数年のサマソニはヘッドライナーに対するオーディエンスの期待値と運営の実情とを擦り合わせる時期なのかもしれない。今回あげた3組のいずれかに決まれば万々歳といえるし、年始早々の第一弾発表がアナウンスされながら結局2月後半にずれ込み、ヘッドライナーが1組しか発表されなかったことを考えれば、昨年のTRAVIS SCOTTのようにブッキングの状況が芳しくない可能性は十二分に考えられる。無邪気に予想できるラストチャンスを楽しみつつ、過度に期待しすぎることなく正式発表を待ちたい。

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