【コラム】柔道整復師とエコーと関係法規
関係法規という言葉は現場に出ているとあまり聞き馴染みが無くなってくる言葉です。
養成校で学んだ以来教科書は開いていないかもしれません。笑
法律やルールというのはとっつきにくく、後回しにされがちです。
ですが人の体を触る以上、何をやっても良いわけではありませんから、法律などで取締られているわけです。
柔道整復師は医師ではありません。日頃の業務においてやって良いこと、やってはいけないことの線引きがたくさんあります。
先日もTwitter上で議論されていましたが、柔道整復師ができること、やっても良いことがあまり認知されておらず、違う業界から何かと意見をされがちです。
今回は、特に現場において誤解されやすいこと、多くの方が勘違いされている『超音波観察装置:エコー』を中心にまとめてみようと思います。
私もそれなりにフォロワー数がいるので、発信すれば多くの方の目につくと思います。だからこそ正しいこと、他職種に対して柔道整復師が出来る事などを若輩者ながらアピールして発信していかなければ、という義務感からこのnoteを書きます。
手と手を取り合えるようになるために柔道整復師としてアピールしなくてはと。他人事ではダメだと。
拙い文章ですが無料ですので、ぜひ最後までお付き合い頂けたら幸いです。
※このnoteの内容に対して、不適切なものや誤った表現などがありましたら、ぜひご指摘ご指導の程、よろしくお願い致します。
1、『柔道整復師がエコー使うのは違法?』
柔道整復師がいつ頃からエコーを業務に使い出したのかは不明ですが、5年、10年前ではないと思います。
ですがこれは未だに言われます。
調べればすぐに分かることですから、これを言ってくる人は基本的に勉強不足だと思います。というよりは『興味無いから知らない』が正しい。
また攻撃的な目的で言ってくる人もいます。
では柔道整復師がエコーを取り扱うことについて過去の意見や通知をご紹介していきます。
柔道整復師の施術現場における超音波観察についての変遷
↓
平成15年9月9日 厚生労働省医政局医事課長通知
『柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査については、柔道整復の業務の中で行われることもある』との見解を示す
平成22年12月15日 厚生労働省医政局医事課事務連絡
『柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査は施術所で実施しても関係法令に反するものではない』
平成27年12月〜平成28年9月 厚生労働省にて柔道整復師学校養成施設カリキュラム等改善検討会の開催されカリキュラムに『柔道整復術適応の臨床的判定(医用画像の理解を含む)』が追加される。詳細は、
→2単位30時間を使い、柔道整復術の適応で得た知識を活用し、臨床所見から判断して施術に適するケガと適さないケガを的確に判断できる能力を身につけ、また、安全に柔道整復術を提供するために医用画像を理解するためのカリキュラム
このように、柔道整復師が超音波観察装置(以下エコーとする)を使うことは違法でもなんでもなく、厚生労働省も認めています。
※厳密に『使用してもいい』とは明記していないですが…
養成校でもエコー観察による患者への不利益や危険性を減らすべくカリキュラムが新設され、今の学生は『接骨院にはエコーがあるものだ』と理解して教育を受けています。
※ここでよく噛みつかれるのは『柔道整復師がエコーを使って「診断」「検査」する』という点ですが、これに関しては次項にて解説します。
ここで覚えておいてほしいエコーが違法となるケースをご紹介します。
↓
柔道整復師がエコーの使用を認められたのは『検査自体に人体に対する危険性がなく』という安全性が前提です。
使用してもいいエコーについては薬機法における医療機器の認証を受けたエコーであることが条件です。医療機器としての認証を得るには、人体の安全性の担保と計測精度、品質保証が確保されていることが保証される必要があります。
『非医療機器』や『超音波画像計測機器』などと表記されている、医療機器として未承認のエコーを使用したり販売する場合は、厚生労働省医政局からの連絡に反することとなり、超音波画像診断装置と同様に施術の判断として使用していることが明らかになった場合は『違法』となります。
承認、認証、許可のない医療機器の販売等(法第55条第2項違反)「最高3年以下の懲役若しくは300万以下の罰金に処し、又はこれを併科」「法人の場合は1億円以下の罰金」
承認前の医療機器の広告(法68条違反)「最高2年以下の懲役若しくは200万以下の罰金に処し、又はこれを併科」
引用)「薬機法の承認を得ていないエコー装置の販売についての違反と罰金についてー「薬機法」:医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律ー」
これらのことを踏まえても、使用するエコーが医療機器として認証を受けたものを使用することに関しては問題無いということです。
しかし扱う先生の技術、技量によってこんな注意喚起もされています。
平成29年9月29日 厚生労働省医政局医事課より各都道府県医政関係主管部局担当者あてた注意喚起『柔道整復師による超音波画像診断装置の使用について(注意喚起)』より一部抜粋↓
『柔道整復師が超音波画像診断装置に関する画像の読影力不足などにより、施術に関する適切な判断がなされず、患者に健康被害が生じたと思われる情報が寄せられた』
このような注意喚起とともに骨折、アキレス腱断裂、脱臼の見逃しと思われる事例が紹介されています。これは柔道整復師がエコーを使うことが悪いのではなく、見逃し誤診をしたその『柔道整復師』の問題です。
ですがこういったネガティブな通達は一斉に業界内外に広まり、柔道整復師がエコーを取り扱うことに対して否定的な意見が言われるようになりました。
法律的にOK、というよりは医療としてダメだろ、扱えるレベルにいないだろ、といった意見ですね。
繰り返しますが、厚生労働省より、『柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査は施術所で実施しても関係法令に反するものではない』とされていますので、
柔道整復師がエコーを使うことは問題ありません。
ここでもう一つ、言葉狩りに遭うのが『診断』と『判断』です。
2、柔道整復師が『診断』するな
これは柔道整復師が非常に気をつけていることです。
「エコー観察を行い、疑われる外傷を患者に説明し、適切な処置を行なった。」柔道整復師からすれば全く問題の無い理想的な流れですが、医師からすればこれは『診断行為だろ』と。
超音波「検査」を行い、少なくとも「検査」結果を患者さんに説明することは、「診断行為」に他ならず、医師にしか許されない医行為であるから、という理論です。
実はこれは平成26年に公益社団法人日本整形外科学会から医師向けに発表された『医師のための保険診療基礎知識 医業類似行為関連Q&A』の中にそっくりそのまま記載されています。上記の文に続いて以下のようにも記載されています。
『「柔道整復師が施術できるのは急性期の打撲・捻挫」とされているのは、問診と視診と触診で施術の判断が可能であるという解釈であって、それ以上の検査は医師の判断で行うべきである。』と。
このような否定的な質問に対して前述した平成15年9月9日通知の厚生労働省医政局医事課長の回答が、
「検査自体に人体に対する危険性がなく、かつ柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査については、柔道整復の業務の中で行われていることもある。ただし、診療の補助として超音波検査を行うことについては、柔道整復の業務の範囲を超えるものである」
読みながら結局どっちなん?となるような文章ですが、そのように思ってしまう理由は、この文章に使われている2つの『単語』にあります。
『診療』『検査』
それぞれ言葉の意味は、
診療:医師または歯科医師による診察と治療。獣医師にも用いる。
出典)精選版 日本国語大辞典
※今回は「臨床検査」という意味合いでの「検査」とする
検査:臨床検査とは、診療目的で行われる患者、傷病の状態を評価するための検査である。
出典)Wikipedia
このように定義されており、医師が使う言葉です。これを元に先ほどの文章をもう一度見てみると、
(柔道整復師が、)『診療』の補助として超音波『検査』を行うことについては、柔道整復の業務範囲を超えるものである
この文章であれば柔道整復師がエコーを扱うことが業務範囲を超えているのは納得できます。
この言葉を用いたことが誤解を生む発端になったのではと個人的には思っています。
では柔道整復師はどのようにエコーを用いることを公にしているのでしょうか。
柔道整復師は医師ではないため『診断』することができず、問診、視診、触診などによって得られた所見から疑われる外傷や疾患を『判断』し施術を行います。
さらにエコーは超音波『観察』装置とされ、施術に関わる『判断』の補助、または参考にして差し支えないとしています。
エコー観察によって『骨折している』『靭帯が切れている』という発言は診断行為となるため、柔道整復師は問診、視診、触診等の所見に加えてエコー観察によって得られた画像から『〇〇が疑われる』と患者に説明します。
ここは診断行為をしていると誤解されないように、少なくとも当院ではかなり厳しくスタッフ教育しています。恐らく全国でもエコーを取り扱っている柔道整復師は強く意識しているでしょう。
仮にエコーを用いなかったとしても、問診、視診、触診で得られた所見から疑われる外傷を『判断』するため、〇〇が疑われるという説明は日頃の業務において一般的に行われています。
公益社団法人日本柔道整復師会により監修された『柔道整復師による超音波観察装置の使用に関するガイドライン』ではこのようにも記されています。
『超音波観察の結果については告知の義務があり、観察後、速やかな説明を必要とする』
観察を行なった結果を説明するのは至極当然のことで、患者さんからすればエコーを撮った後に何も言われなかったら『結局どうだったの?』と疑問が残り心配になりますからね。つまり、
エコー「観察」によって得られた結果をその他の所見と併せて疑われる外傷を「判断」し、その結果を患者さんに説明する。
という柔道整復師が日頃の業務の一環で行なっていることと何も変わりません。
エコーはあくまで判断の参考程度に過ぎず、これを用いて観察及び説明をすることが診断行為だから柔道整復師が診断するのは違法、とするのはそのように指摘する方の個人的見解が大きく含まれた暴論です。
柔道整復師が、
エコーを使う=診断行為
とはならないということを知って頂きたいと思います。
3、柔道整復師の業務範囲をおさらい
『外傷性が明らかな原因によって発生する骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷』
※骨折、脱臼の応急処置を除く施術をする場合には医師の同意が必要で、打撲、捻挫、挫傷などは医師の同意は必要ない
私たち柔道整復師は当然のように理解していますが、他職種の方は知りません。
ましてや医師は柔道整復師の業務範囲に興味がある方なんてごく僅かでしょう。
『アキレス腱断裂は医師の診断が必要』
『MCL損傷は医師の診断が必要』
『腓腹筋の肉離れは医師の診断が必要』
このような指摘は概ね医師によるもので、法的にというよりは、柔道整復師による見立てでは不十分だ、という指摘される方の見解が含まれています。
骨折脱臼以外の損傷に関して必ずしも医師が診断を行う必要はなく、柔道整復師が保存的に施術することは問題ではありません。
柔道整復師が『これはアキレス腱断裂だ』と言い切って治療すれば診断行為になります。
得られた所見から総合的に判断してアキレス腱断裂の可能性がある、として患者さんが納得の上で施術を行うのであれば問題ありません。
外傷の知識があれば『これは医師に診てもらった方がいいな』とか『この外傷は手術になる可能性が高い』という判断もできるようになり、また、医師に診てもらいたいという患者さんのニーズがあれば紹介状を作成して適切に連携を行います。
その柔道整復師の技術、経験不足により自分では対応できないと判断すれば対応出来るところに紹介するでしょう。
ここで念押ししたいのは、骨折脱臼は必ず医師に対診を行なっているということです。
応急処置として骨折脱臼の整復固定は医師以外に柔道整復師が唯一認められています。その後の後療法については医師の同意(診断)が必要だというのは、厳しく教育されており、保険請求も医師同意が明確に記載できないと請求できないようになっています。
きっと『医師の診断が必要』と指摘する医師は過去に、柔道整復師との間に何らかの出来事があり、それによって柔道整復師の見立てでは不十分だ、という想いになっているんだと思います。
総じて、
柔道整復師の業務範囲において骨折脱臼を除く外傷で医師の診断を仰ぐ必要があるかどうかの判断は『個人の柔道整復師』の能力の問題で、柔道整復師としては問題無い。
ということを知っておいて頂きたいと思います。
4、最後に
これからの時代、医師と柔道整復師、他職種は互いに連携協力しあい、患者さんを救っていくべきだと私は考えています。
私だけではなく、業界としてもそのように変わってきています。
医師も柔道整復師に理解を示し、連携していこうと仰っていただける方も増えてきているように感じます。
そういった時代の流れに柔道整復師全体が乗っていけるように、外傷知識や固定技術、エコー観察による鑑別や医師連携など、医療としての信頼を得ていかないといけないと思います。
地域の方や医師から『柔道整復師がいてよかった』『柔道整復師に治療を受けてもらって』などのようにもっと認知されていかなければと、私も柔道整復師の端くれとして襟を正す出来事でした。
青二才が一丁前なことをズラズラと書き連ねてしまいました。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。