オーケストレーションの分析の仕方
レッスンでワーグナーのタンホイザー序曲をスコアリーディング・分析することになり、勉強しています。その過程でスコアリーディングの方法論というか、オーケストレーションの見方について少し自分なりの発見があったので書き留めておきます。
よく言われるのは、オーケストラの音響は「前景・中景・後景」と3つのレイヤーからなっているということです。Samuel Adlerの『The Study of Orchestraion』にもそう書いてあったと記憶しています。
この箇所なんかはまさにそうで、前景にTbの旋律、後景にCbからFlまでの広域にわたる和音群、中景にVnによる対旋律が配置されています。
ここでは低音から高音にいたるまで和音群が背景を作っているので、中音域のTbも高音域のVn対旋律もそれらの和音群と、音域的には重なっていますが、前景・中景・後景の「レイヤー」が異なっているので、問題なく聴き分けられます。
こうしたことからも、このレイヤー(=位相)の捉え方は、オーケストラやアンサンブルを見る際に有用な見方であるようです。
ですが、冒頭のコラールを見ると、これらは、ごく普通の4声体コラール書法なので、当然音域もかぶっていないですし、4声全体で一つに溶け合っているので、レイヤーを分けて考えることも妥当でないように思われます。
といっても、4声体の中でもさらに、Fgはバス、Cl1は旋律、他は和声の補充と、機能的にはしっかり異なる3つの要素から成っています。つまり、レイヤーを分けて考える以外にも、オーケストレーションの分類方法があるのでは?と疑問に思いました。
それからタンホイザー序曲を見ていくうち、およそ次のような分類が可能ではないか、という仮説を立てるに至りました。(もちろんこの曲だけでなく、これまで見たいろいろな曲から総合して考えると、ということですが。)
Formation/構造的要素(空間的要素)
:複数のコンポーネント間の配置や関係を決定し、全体の構造的特徴を決定づける要素。スポーツでいうところのフォーメーション
Layer/位相
⇒前景・中景・後景からなり、聴覚的知覚の容易性が異なる
Range/音域
⇒Sop・Alt・Ten・Bassとその間の音域からなり、機能が異なる
Component/機能的要素
:個別のコンポーネントの構造的特徴やその機能を決定づける要素。スポーツでいうところのディフェンスやフォワードなど
Function(Role)/機能(役割)
⇒旋律、伴奏、対旋律などコンポーネントの認知的特徴を決定づける要素
Object/音響構造
⇒線、和音、音階、ペダル、トレモロなどコンポーネントの音響的特徴を
決定づける要素
Instrumentation/楽器法的要素
:コンポーネントを構成する楽器とその用法に関する要素。コンポーネントの性格を決定づける。スポーツでいうところの身体的特徴や選手の技術に相当する
Instrument/楽器
⇒アサインされている楽器
Expression/奏法
⇒各種奏法や強弱、アーティキュレーションなど
上記のように、大きく3つの分類(Formation/Component/Instrument)からなる6種類の要素が、オーケストレーションの様々な特徴を決定づけていると考えました。
ここで、コンポーネントとフォーメーションは、以下のような意味で使っています。
フォーメーション:複数のコンポーネントの配置
コンポーネント:1つ以上の楽器が作る1つの音響構造
上記の2つの譜例でいえば、
フォーメーションは
・譜例1:異なるレイヤーを重ね合わせた構造
・譜例2:異なる音域を積み重ねた4声体構造
コンポーネントは
・譜例1:Vnの対旋律、Tbの旋律、広域のTutti和音
・譜例2:Cl1, Hn1の旋律、Fgのバス、Cl2, Hn2の内声
のように記述することができます。
このフレームワークを適応してオーケストレーションを見ていけば、
各楽器が何のためにどんなことをしているのか、またそれによって全体がどのような構造や効果を作っているのか、ということが、明瞭にわかりやすくなるのではないか、と思います。
今後の自分自身の分析で使いながら、オーケストレーションの勉強を進めていけたらと思っています。