なぜ必要?まずはWebアクセシビリティについて知ろう 前編
1. Webアクセシビリティとは?
Webアクセシビリティ(Web Accessibility)とは「年齢・身体条件にかかわらず、Web上で提供されている情報に誰もがアクセスでき、利用できること」またはその「アクセス・利用のしやすさ」を指します。
* 以下、本章1ではWebアクセシビリティをアクセシビリティと表記します
現在(2019年)、デスクトップ/ノートPCだけでなく、スマートフォンやタブレット、ウェアラブル端末など持ち運び容易なスマートデバイスの発達と普及により、WebサイトやWebアプリの利用者数・年代や利用場面は増え、その社会的役割も広がっています。
(参考:総務省 情報通信白書 平成30年版、平成29年版)
こうした状況から、Webコンテンツ制作者側でもアクセシビリティ対応の重要性が増し、より強く意識されるようになってきました。
なかには「アクセシビリティはおもに目が見えない人など障害者のための対応で、その人たちをターゲットにしなければ関係ないこと」「それほど優先すべきではないこと」と認識している人がいるかもしれません。ですが、そうではありません。
冒頭で「誰もが〜」の部分を強調しました。これはアクセシビリティが一部の人を対象とするのではなく、どのような条件・場面であっても、またいつでもどのような人にもあてはまることを示しています。
Webプロダクトには、使いやすさを表す「ユーザビリティ」や、ユーザーが製品・サービスを通じて得られる体験を意味する「ユーザーエクスペリエンス(UX)」という言葉/概念があります。それぞれの詳しい解説は省きますが、これらの考え方とアクセシビリティは無関係ではありません。
たとえば、UXの考え方の1つにUXピラミッドと呼ばれるものがあります。簡単に説明すると、アクセシビリティとは“最低限利用(アクセス)できること/機能が存在すること”でもあり、それはUXピラミッドの土台・基礎部分にあたります。土台・基礎であるということは、それがないとそもそも何も始まらないということです。
そして、その土台の上に「使いやすさ(ユーザビリティ)」が載ります。さらにその上に「便利である」や「価値がある」といった感情的な要素が載ることで、ユーザーが得られる体験 = UXピラミッドが構成されるのです。
つまりアクセシビリティとは、Webにおけるインフラストラクチャー(下支え)のことです。
また、似た例としてバリアフリーやユニバーサルデザインといった用語がよく挙がります。これらは言葉や使われる分野・場面が違っても「誰でも使えるようにする」という意味を持つ点で共通しています。
以上のことからWebを利用する人、制作者サイドとして携わる人のどちらもアクセシビリティについて知っておくことはとても大切だと結論できます。
特に、制作者サイドがきちんとした知識を持たずに制作を進めてしまうとどうなるでしょうか。
(この場合の制作者サイドには、実制作・構築はしないけども管理・運用はするWeb担当者の立場も含みます)
せっかく作ったプロダクトやコンテンツが、特定の使い方をする人やその使い方しかできない人には利用できず、結果として入り口で排除・除外してしまうおそれがあります。
もしかしたら「そういう少数派は切り捨ててもいい」「クライアントの要請さえ満たせていればいい」という考えの人もいるかもしれません。ですが、基本Webは「誰にでも開かれたもの」であり、そうして発展してきたからこそ今日我々が利用できているともいえます。それを無視することにつながらないでしょうか。
「コストがかかる」「めんどう」といった理由で一部の人が使えないことを見過ごすよりも、ほんの少しプラスアルファを知って意識するだけで、それまで使えなかった人が使えるようになるのであれば、そちらの方がより良いことだと思えます。
また、ありそうな誤解として挙げますが、アクセシビリティは表面的な見た目の問題だけを解消すればいいというものではありません。見た目(UI/デザイン/ライティング)と中身(コード/システム)、企画〜運用といったあらゆる視点・フェーズからアプローチする必要があります。
本記事はWebの制作に少しでも携わる人で「これまであまりアクセシビリティを意識したことがない人」をメインターゲットとして書いています。
「今すぐにすべてのアクセシビリティ要件を絶対クリアすべき」などと言うつもりはありません。なぜなら、できることは案件によって常に変わってくる、それこそケースバイケースだからです。
それと本格的に取り組もうとすると、やるべきことが多く技術面でけっこう大変になる、という背景もあります(参考:JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン(達成基準チェックリストの例)、WCAG 2.1)。
ただ、そのなかで最低限これくらいは知っておきたい、クリアしたいというポイントも存在します。そうした意味で制作者サイドが率先して取り組んでいきたい課題でもあります。
今後少しずつできること、手をつけられることから始めて、対応範囲をじょじょに広げたり、応用力を磨いたりしていくことを提案したいと思います(筆者自身まだまだ知らないこと、できていないことが多いです)。
何よりアクセシビリティについて知ることは、WebサイトやWebアプリを設計・実装する際にセマンティクス(意味付け)およびユーザー利用の本質について考えるための足がかり・礎になりえます。
以下の引用文はWebの産みの親であり、創始者とも呼ぶべきTim Berners-Lee(ティム・バーナーズ・リー)氏による言葉の抜粋です(アクセシビリティの説明記事でよく見かけるあるあるですがw)。
− The power of the Web is in its universality. Access by everyone regardless of disability is an essential aspect.
“ Webの力はその普遍性にあります。障害に関係なく誰もがアクセスできることが不可欠です。 ”
引用元:
https://www.w3.org/Press/IPO-announce、https://www.w3.org/standards/webdesign/accessibility
World Wide Web(WWW)は「誰のものでもなく、みんなが自由に使えるもの」という考えから1991年に無料公開されました。Webはその始まりや存在がすでにアクセシビリティの考えを体現しているといえるのではないでしょうか。
氏は現在「Solid」という彼の理念に基づいた個人データ管理についてのWebプロジェクトを立ち上げています。興味がある方はのぞいてみてください。
2. Webアクセシビリティのざっくりとした歴史
そもそも「Webアクセシビリティ」とはいつ頃から出回り始めた言葉なのでしょうか。Web関連の仕事をしている人で「そういえば最近よく耳にするようになったな」という人やWebの仕事に最近ジョインして聞いた、という人も多いかもしれません。
筆者がこの言葉を知ったのは仕事で少しWebと関わるようになった2008年とかそのくらいの頃で、それ以前から割とトピックにはなっていたようです。
個人的に意識するようになったきっかけは、ある企業で開催されたアクセシビリティについての実演講習会に訪れたことでした。内容は、全盲など視覚障害を持つ方が音声ブラウザ(確かスクリーンリーダーではなかった)を使ってどのようにWebから情報収集をするのかというもの。
その講習会を受けて「そうか、どんな人でもきちんとアクセスできるようにしなくてはいけないよね。これがWebアクセシビリティか」と思ったことを覚えています。
日本では、WebアクセシビリティのJIS規格である「JIS X 8341-3」が制定された2004、5年あたりから取り組みが始まり出したようで、そこそこの歴史があるものです。
ちなみに「JIS X 8341-3」の規格番号は、人に"やさしい(8341)"という語呂合わせからきているそうです。「ジス エックス やさしい-さん」と読むと覚えやすいですね(思いつき)。
また、Webアクセシビリティ対応をする際にほぼチェック必須となるレベルA、レベルAA、レベルAAAといった3つの適合レベルは、この「JIS X 8341-3」(またはその策定のおおもととなっているWCAG)の達成基準に定められています。
ちょっとアバウトで恐縮ですが、以下に日本国内のWebアクセシビリティの動きについて超ざっくり過ぎる年表をまとめました。
Webアクセシビリティ関連 ざっくり早見年表
●2004年6月「JIS X 8341-3」が初めて制定
※「JIS X 8341-3」とは国内外のアクセシビリティガイドラインを参考に、日本語特有の事例も加えてまとめ上げられたウェブコンテンツの独自指針・規格
●2008年12月「WCAG 2.0」がW3C勧告となる
※「WCAG 2.0」とはインターネットのための主要な国際標準化機構であるW3CのWAIによって策定・公開されたガイドライン。正式名称はWeb Content Accessibility Guidelines(ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン)
●2010年8月「JIS X 8341-3」改定
●2012年10月「WCAG 2.0」がISO/IEC規格に
●2016年3月「JIS X 8341-3」2回目の改定
●2016年4月 障害者差別解消法 施行
●2018年6月「WCAG 2.1」勧告
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前編まとめ
長くなってしまったので、本記事は導入である前編と、中つなぎの中編、実用部の後編に分けたいと思います。
最終的にはアクセシビリティを実制作に落とし込んで考え、最低限これだけは知っておきたいポイント、クリアしたいラインなどをまとめます。
おもにWebのデザイナーや開発者がメインにはなりますが、やはりWebに携わる人、関わる人全体にも知っておいてもらいたい内容のため、できるだけ噛み砕いて説明できればと考えています。
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参照記事:
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中編へつづく