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石岡の記憶

映画「すずめの戸締り」で、主人公すずめが、宮崎から愛媛、神戸、東京……と次の行先がわからない旅を続けていました。
東京から東北へ向かう車のナビに日本橋から仙台まで走る国道6号線が見え、
物語とは全く関係ない僕だけの記憶が頭を過ります。
 
子どもショーをしていた時期、茨城県石岡市へ伺った時、上野から最終の特急に飛び乗った時のこと。
絶対、乗り過ごしてはいけないと思いながら。

上野から石岡まで約1時間。
案の定、寝落ちしました。

ふと扉が閉まる音で目覚めると、
窓の外にホームの「石岡」の文字が動き始め、
次の停車駅は友部駅のアナウンスが流れます。
 
友部駅が石岡駅とどれくらい離れているのか、
石岡まで戻る在来線はあるのか、
友部駅にホテルはあるのかなど、
スマホどころか携帯電話も持っていない頃なので調べようがありません。
様々な選択肢と共に不安だけが大きくなっていきます。
 
友部駅を降りて愕然としました。
上りの電車はありません。
小さな駅舎(今は建て替えられているようですが)の前に一台だけ停まっていたタクシーに、子どもショーで使用する大きな荷物をトランクに入れて乗り込みます。
 
「石岡市の○○ホテルまで」
 そう告げると、
「かしこまりましたぁ!」
 夜中と釣り合わない元気な声が車内に響き渡ります。
遠距離の客で、上機嫌になったのかもしれません。
 
「この辺りは初めてですか?」
 と国道6号線の説明から始まり、周辺の案内を始めました。
「今は夜だから見えないけどね」
 説明の最後に、この言葉を添えて笑いながら。
 
途中で、ハッとして、財布を取り出します。
案の定、3千円ほどしか入っていません。

「石岡まで、いくらくらいかかりますか?」
「7千円くらいですかねぇ」
「クレジットカードは使えますか?」
「使えません」
 のやりとりから運転手のテンションが下がり、車内の空気は重くなっていきました。
当時、コンビニのATMも普及していません。
 
「ホテルで借りてきます」
「荷物は置いていってくださいね!」
 「石岡まで」を告げた直後に見せた顔とは別人の顔だったなぁ。
 
本来、ホテルでお金は借りられないのですが、「個人として、お借しします」とフロントの男性が貸してくださり、事なきを得ました。
 
今、映画「すずめの戸締り」のサントラを聴きながら、映画の感想を綴ろうと思い、結局、6号線の記憶に。

写真は茨城県常陸太田市にて。
確か特急に「ひたち」という名前がついていたかと。

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