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テクニカルライティンググループの標語の舞台裏(後編)

ウイングアーク1stでテクニカルライターをしている、ishikawamです。
この記事では「テクニカルライティンググループの標語の舞台裏(前編)」の続きをお話しします。


標語の洗練

四苦八苦しながら、ようやく本題の標語作成までたどり着いた私たち。まずは、各自の考えた標語と補足説明に投票しました。ここからは、最多の得票数の標語と補足説明を洗練していきます。

たとえば、インタビュー力の標語「相手が伝えたいことや言葉の奥にある思いを120%引き出します」の補足説明を決めるときは、このような感じで進めました。以下は初期の案です。

都度感想やまとめを伝えて聞き手に理解を与え、心地よく話せる土台を作り続けます。

「都度」が硬い、という意見が出ました。そこで、

感想やまとめを相手に伝えながら、心地よく話せる土台を作り続けます。

「ながら」に置き換えて柔らかくしました。
ですが、インタビュー中にこまめに伝え続ける印象が薄れます。そこで以下の案が出ました。

感想やまとめを挟みながら、心地よく話せる土台を作り続けます。

「挟みながら」はインタビューされている人が邪魔されている印象があるため、却下。やはり、「伝えながら」か?と思われましたが、以下の案が出ました。

感想やまとめを相手に伝えつつ、心地よく話せる土台を作り続けます。

「ながら」を「つつ」に置き換えています。
「ながら」と「つつ」は類語で2つの動作や状態が並行して行われることを表しますが、「つつ」にはある動作・作用が繰り返し行われることを表す意味もあるため、より適切だと考えました。

このように、標語の補足説明の1つを決めるだけでもかなり言葉にこだわって話し合ったためとても時間がかかりましたが、すべての「○○力」について標語と補足説明が完成しました。

やっと完成、と思いきや……

ところが、私たちのミッションである「テクニカルライティングスキルを生かして、製品のあらゆることに貢献する」に必要な「製品理解力」が足りない、という指摘を統括部長からいただきました。

確かに、どこにも製品知識に関する要素がありません。あって当然のものなので触れませんでしたが、部外向けに公言する標語なので、暗黙の前提は避けるべきです。

ですが、私たちの考えるテクニカルライター像を5つの力から成るものにすると、頭に残りにくくなる懸念がありました。初めて見るものは、3つまたは4つまでが把握しやすく覚えやすいためです(「マジカルナンバー4」と呼ばれています)。
かといって、「製品理解力」を増やすために、時間をかけて考えた他の4つのどれかを削ることもしたくありませんでした。

今度こそ完成!

そこで、5つを並列に並べるのではなく、「製品理解力」は他の4つの力の土台にあるものという位置づけにしました。それが前編の冒頭にも載せた、以下の図です。これが最終形となりました。

その後

作成した標語が作りっぱなしで終わらないよう、毎月のグループミーティングで再確認しています。
自分のしたことがこの標語に沿った行動になっているか照らし合わせ、羅針盤としているメンバーもいるようです。
ただし、人によって得意不得意があるので、全員が全方向にスキルを伸ばすのではなく、得意分野を伸ばしてお互いを補い合えたらいいなと考えています。

おわりに

2024年1月、ISO 24183(テクニカルコミュニケーションに関する用語定義)が発行されました。
そこでは、製品の使用情報を作成する人という意味での「テクニカルライター」は非推奨の用語となり、「テクニカルコミュニケーター」を使うよう推奨されています。

私たちの業務の目的は「ユーザーが製品を安全、効果的かつ効率的に使用できるような情報を提供すること」から変わりませんが、テクニカルコミュニケーターは「製品サポート情報の開発者」と位置づけられています。単に書くだけの執筆者ではなく、誰がいつどのようにターゲットに届けるか?というデリバリーまで含めて設計・実現する開発者になったのです。

世の中の動きに合わせて、私たちの担う役割も「わかりやすく書く」から「ユーザーが必要なタイミングで適切な情報を届ける」に変わってきています。製品上で操作をサポートするデジタルガイドやAIアシスタントの台頭により、製品を使用するために必要な情報はマニュアルという形態ではなくなるかもしれません。実際、コンシューマー向けの製品にはマニュアルが存在しないものも増えてきました。

ただ、「わかりやすく書くこと」がテクニカルコミュニケーターの役割からなくなったわけではありません。どのような形で情報を提供するとしても、必ず言葉は存在するためです。言葉を大切にする基本は抑えつつ、従来の役割にとらわれない柔軟な情報の提供方法を探っていきたいと思います。


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