中央集権型組織と自律分散型組織

中央集権型組織は、株主資本主義との相性がいいのです。

株主資本主義は「株主の利益」という目的が一つであり、ハッキリしています。その目的達成のために「手段として組織をつくる」場合には、これはもう中央集権型組織一択だという感じになります。

中央集権型組織は、明確なヒエラルキー構造を持ちます。

株主が一番偉いのです。所有権、命令権を持っています。株主は、自分の意にそぐわない経営者を即解雇することができます。経営者、従業員に「命令」をすることができます。異動の命令、出向の命令、業務の命令ができると法律的になっています。明確な上下関係があります。

経営者の意に沿う行動をすれば評価され昇給します。それが評価制度です。アメとムチによる管理をします。意に沿う行動をしない、期待する成果を出せない場合には「いつまで経っても給料が上がらない」といった罰(ムチ)を与えられることになります。場合によっては減給、解雇ということもあるでしょう。ダニエルピンクの「モチベーション3.0」における、モチベーション2.0の世界で駆動しているのが、中央集権型組織です。

中央集権型組織では、社員をコントロールしようとします。会社の目的達成のために、効率的に社員が動くようにとコントロールします。教育制度も、評価制度も、社員をコントロールするためのツールです。

給与においては「相場」が重要になります。「●●ができる」というスキルを持った人材が必要だとして、その人材を雇うのに、年収300万円では無理だが、年収400万円でなら雇える。年収500万円を払うと払い過ぎで、相場よりも高い。これが、中央集権型組織における給与の決まり方の基本です。

能力主義や成果主義といった「評価制度の考え方」「賃金制度の考え方」といったものが企業において導入されていますが、もっとそれ以前に「相場主義」が根底にあります。

実際に「この地域で、この職種ならいくらくらい」という相場を超える給与を得ることはまずありません。もし、その相場を超える給与が欲しいなら「もっと給料の高い会社に転職すれば?」と言われることになります。
社内での努力も成果も無駄ではありませんが、相場を超えた給料を得ることはできない仕組みになっています。あくまで相場の範囲の中での賃金アップが得られる、ということです。株主資本主義の観点からすれば「相場に見合った労働力の確保」ということが大前提だからです。

■中央集権型組織のメリットと限界

中央集権型組織のメリットは上意下達を徹底しやすいことです。特にWhat「何をするべきか」「何に取り組むのか」ということを明確に命令することができます。

How「どう取り組むか」については、権限移譲、裁量を渡すこともありますがWhat「何をするべきか」については、上の指示に従わせることになります。「売上高を伸ばすことに取り組みなさい」「利益を増やすことに取り組みなさい」「海外売上高の比率を高めることに取り組みなさい」というように、何をするか命令することができます。

経営陣が戦略を立て、現場がその戦略を遂行する。そういう形をとります。経営陣が市場の分析力が高く「このセグメントを攻めていこう」という大きな戦略を立て、現場の営業力や行動力が高く「実際にこのセグメントの人々にたくさん会う」というように行動をすることで、ビジネスの成果が出るわけです。

これは、明確な役割分担です。軍師と武将という比喩でいけば、大きな作戦を立てることが得意な軍師がいますが、実際の戦闘では役に立たない。武将は、実際の戦闘では部類の強さを誇るが、大きな作戦を立てるような思考力はない。そういうようなことがあります。

これが上手くいけば「強い軍隊」でいることができます。実際に、ビジネスでは比喩的に「軍事用語」が使われることが多々あります。戦略、戦術、命令・・・などなど、「敵に勝利する」という感覚を持たせる用語はたくさんあります。

中央集権型組織の限界は、中央集権型組織の特徴である「上意下達」に内包されています。

つまり命令する側と命令される側、やらせる側とやらされる側という構造を持っていることそのものに限界があります。

日本語で「やらされ感で仕事をする」という表現がありますが、組織の大多数の人間が「やらされ感」になるような構造をそもそも持っているのが中央集権型組織です。

主体性を発揮して欲しい、自分事に思って仕事をして欲しい、創意工夫をして欲しい・・・というような要望が出てくるのは、そもそも中央集権型組織が、参加メンバーの主体性を損ない、自分事に思わせず、創意工夫させない構造を持っているからです。

この根本的課題に取り組むのではなく、対症療法として発明されてきたものはたくさんあります。権限移譲、目安箱の設置、上司のコーチングスキル獲得、ビジョン共有プロジェクト・・・などなど。これらのアクションには一定の効果があり、メンバーのやらされ感を緩和してくれます。しかし根本解決に至らないのは、そもそも株主資本主義という思想が根底にあり、中央集権型組織という構造を持っているということです。

現代の労働観は、株主資本主義の考え方が染みわたっているため、多くの人が「会社員になる」「会社員になるということは、会社の指示に対応して、給料を得る」と思っています。「自分の時間を切り売りして、対価としてお金を得る」という労働観です。

しかし、このような労働観で働かなければいけないわけではありません。他にも選択肢はあるのです。株主資本主義の考え方にそって、中央集権型組織で、「言われたことをやる」という働き方をするだけが選択肢ではないのです。

■自律分散型組織

中央集権型組織に対して、自律分散型組織というものがあります。「奇跡の経営」のような書籍もありましたが、日本で自律分散型組織が一躍注目されるようになったのは「Teal組織」のヒットであったと思います。他にも「ホラクラシー」などの書籍も出版されました。

中央集権型組織が、トップダウンだとすると、自律分散型組織はセルフマネジメントということになります。(ボトムアップではありません)【セルフマネジメント】

この時に「組織」であるためには、組織としての紐帯が必要になります。組織としての求心力が必要になります。

自律分散型組織が「組織」であるためには、共通の目的は必要です。ですから「このビジョンに共感して」というような組織の形成のされ方になります。共感・共鳴によって組織に参加しています。「労働力を提供する」「対価を払う」というような契約関係とは違います。ビジョン(もしくはミッション、もしくはパーパス)に共鳴・共感していますから、そもそも「ビジョン実現のためにどうしたらよいだろうか?自分にできることは何だろうか?」と主体的に考えています。【ビジョンドリブン】

専門性と効率性を高めるために各部署に分かれて仕事をしたときに、部署間の連携の悪さやトラブルが起こることがあります。その時に中央集権型組織では「分かれた二部署を統括するポジションの上長に解決を依頼する」ということになります。一方、自律分散型組織においては「関係者が集まって自分たちで話し合って解決する」ということになります。【チームワーク/対話】

もう一つ、自律分散型組織の特徴を上げるとすると【透明性】になります。売上や利益、コストなどの会計情報の透明性が高いということです。中央集権型組織では、売上は分かっていても、会社の利益については経営陣しか把握していないというようなことはよくあります。そのようなブラックボックスがあると、各社員が自律的に判断するということは難しくなりますので、自律分散型組織としては透明性の高さは必須と言えます。

しかし何よりの特徴は、組織の構成員であるメンバー一人一人の意志や主体性を尊重するというところにあります。一人一人が、自分の実現したい状態の実現に向けて、自律的に活動をしていく、それが自律分散型組織です。


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