そもそも会社(組織)は何のために存在しているのか?

そもそも会社は何のために存在しているのでしょうか?

古くは岩井克人氏が「会社は誰のものか」という問いで、2005年に出版されています。

「株式会社は利益を創出するために存在する」と長い事考えられてきました。そしてそれは「会社を所有している株主に利益を還元するため」であり、これは株主資本主義と呼ばれたりしています。

しかしこの「株主の利益のために会社は存在する」という考え方は、時代を超えた普遍的なものではありません。世界的に見ても変化はあり、日本においては、戦後、特に1980年代のバブル崩壊後からこの考え方の傾向が強まっていったように思います。

例えば有名な、近江商人の「三方よし」という考え方があります。売り手よし、買い手よし、世間よし。これらを満たした商いがいい商いであるという考え方です。ここには株主という概念すら登場しません。

ステークホルダー資本主義という考え方もあります。世界経済フォーラム会長である、クラウス・シュワブが提唱しています。世界経済フォーラムはダボス会議で有名です。ステークホルダー資本主義においては「株主の利益”のみ”のためには会社は存在しない」ということになります。株主、従業員、経営者、顧客、地域社会、自然環境といったステークホルダー(関係者)を、全て大切に扱っていく必要がある、という考え方です。これは「三方よし」の思想と、非常に近いものを感じます。

一旦、この本においては【株主資本主義】と【ステークホルダー資本主義】というキーワードを用いて、探究を深めたいと思います。

■株主資本主義

株主資本主義では、基本的に「株主の利益」を出すことが重要です。それが目的で、その目的を達成するために会社は手段として存在しています。株主の利益が目的で、会社のノウハウも、従業員の成長も、設備投資も、それらは全て手段として存在するのです。とてもシンプルで一貫した考え方です。

株主は、基本的には利益を二つの形で受け取ります。一つは配当です。もう一つは株価の上昇です。

配当は、1年に1回というタイミングで受け取ります。1年という短期の業績がよければ、その分、株主に利益を還元します。成熟産業の大企業に投資をしている株主などは、株価の上昇よりも、この配当を目当てにしている投資家もいるでしょう。大きな成長は見込まれないが、安定した配当を毎年だしてくれればOK,ということです。

株価の上昇は、基本的には「株を売却した」ときに利益として手元に残ります。一株1万円で買った株が、一株10万円になっていたら、9万円の利益が手元に残るというわけです。

株価が上昇するためにはより多くの投資家が「この会社は未来に向けて成長する」と思う必要があります。そう思えば、より多くの投資家が、株価が高くてもその会社の株を買います。経営陣は株価が高まるような経営をする必要があります。時価総額の大きさが競われるようになったのは、まさに株主資本主義の考え方からです。

「株主の利益」が目的で、他のことは手段です。手段については「なんでもよい」ということにもなります。

一つ、分かりやすい例を挙げると「人を解雇すると、株価が上がる」というようなことが起こります。一時期、リストラ、企業のリストラクチャリングといった言葉が流行りましたが、そういうようなことです。

解雇された社員からすれば「失業」というネガティブな現象であり、社会的に見ても「失業率の上昇」というネガティブな現象であっても、株主にとっては「株価の向上」というポジティブな現象になります。

雇用の流動性を社会的にどう捉えるかという面はありますが、目的である「株主の利益」のために、手段でしかない「従業員の雇用」は切り捨てられることがある、というのが株主資本主義の思想を端的に表しています。

株主資本主義の問題点については斉藤幸平氏の「人新生の資本論」の中でも指摘されています。株主は「儲かればよい」と考えるため、環境破壊が進むようなビジネスも、積極的に推進するということがあります。例えば、貴重な熱帯雨林を切り開いて農地開拓をします。10年程度の長期スパンにおいては、その農地開拓ビジネスは魅力があり、投資が集まります。しかし、100年1000年の超長期スパンで見たときに、人類にとって取り返しのつかないことをしている可能性があります。

株主は「自分が死んだ後のことまで知らないよ」と考えているとすると、子々孫々を大切にしていきたいという超長期の視点とは対立してしまうことがあります。

なお、勿論「株主」と一言で言っても、株主も人間ですし、多様な株主は存在しています。様々な価値観、判断基準から投資をしていて、そこには多様性があります。しかし、一般的に言って株式投資は、金融商品の一つとして取り扱われることが多く、結局「いい投資だった」かどうかの判断は、配当・株価上昇による金銭的利益の多寡によってされることがほとんどであるとは思います。

株主資本主義は、突き詰めていくと「全ての企業活動を金融商品として扱う」という考え方になります。「それは極論だ」という方もいるかもしれませんが、方向性、力学としては間違っていないだろうと思います。

■ステークホルダー資本主義

ステークホルダー資本主義はまだ新しい概念であり、この考え方に則って企業経営がされているということはまだまだ少ないと思われます。

一方で、特に日本企業においては、昔からある近江商人の三方よしのような文化・価値観が受け継がれていて、地方の地場産業などではわざわざ「ステークホルダー資本主義」などという看板を持ち出さなくても「社員も、お客さんも、地域の人も、株主も、みんなにとっていい経営をしよう」と考えて経営をしている会社もたくさんあります。

非上場企業においては特に株主の思想・価値観がそのまま表れます。「株主への配当だけじゃなくて、従業員への還元や、お客様への還元も大切にしたい」と考える株主であれば、それにそった経営になるわけです。

一般的によく出てくる数式があります。

利益=売上-コスト

そして、この利益を最大化するようにしましょうということになります。そのためには売上を伸ばす、売上を伸ばすためにはもっと客単価を高くする。コストも下げる必要がある、そのためには社員の給料はできるだけ上げない、外注先への支払いも減額交渉をし続ける・・・こういう発想で動くのは、土台に株主資本主義の価値観があるからです。株主利益の視点から、経営を語るとこうなります。

これに対してステークホルダー資本主義を、数式で表わそうとすると

企業価値=顧客への提供価値+株主への支払い+従業員への支払い+取引先への支払い+未来への研究投資

というような式になります。

「利益=売上-コスト」という数式であると、コストを下げようとどうしてもなります。人件費や外注費、つまり働く人々のお給料はコストですから「給料を増やさないように増やさないようにする」という力学が働いているわけです。この時点で「株主も、労働者も、どちらも大切にする」というステークホルダー資本主義を実践していくことは難しくなります。

「企業価値=顧客への提供価値+株主への支払い+従業員への支払い+取引先への支払い+未来への研究投資」だと考えれば、従業員への支払いもまた素晴らしいことになります。社員が豊かになることは、社会が豊かになることにつながっているわけですから、素晴らしいことです。

2024年現在、ESG投資やESG経営といったキーワードも聞かれることが増えてきました。ESG投資は、ステークホルダー資本主義と基本的な考え方は近いだろうと思います。

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