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【物語】月の案内人④

お久しぶりです
1週間も経っていました
暖かくなったり寒かったり
風邪をひいてしまいますね
皆さんはクリスマスの準備をしてるのでしょうか
我が家にはもうサンタはきませんが
みかんとココアがテーブルに並ぶと
冬になったんだな、とほっこりしています
変な組み合わせでしょう?


マリーのコーヒーショップ

【スズランの花言葉】

『疲れただろう、ここでひと休みしようか』

かなり変わった外装だなあ
まるで本物のコーヒーカップみたいだ
テイクアウト用の小窓からは女性の鼻歌が
聞こえてきた
歪んだ形の扉に丸いステンドグラスが
散りばめられている

カラン、コロン。

ドアを開けるとぶら下がったつみきが
心地よい音を鳴らした

『いらっしゃいませ』

優しい声とともにつぶれないよう
ぎゅっと握っていたスズランの花の
ひとつひとつがコロコロと揺れた

『…お おかあさん?…』

生きていた頃の記憶は
どんどん消えていってる
自分がどうやって雲の上に来たのかも
覚えていない
でもはっきり覚えているのは
肌寒い冬の空の下で一緒に見たキラキラ輝く
無数の星と眠りを誘うあの優しい声

『テリちゃん…!』

エプロンの裾で手をぬぐいすぐに駆け寄って
テリのほほをあたたかい両手で包んだ

ジャックは2人の様子を見ながら
お気に入りの席に腰を下ろした

『ジャック、娘を連れてきてくれてありがとう』

ジャックは返事をする代わりに
ヘタクソなウインクを得意げに返した

店内はボブの店には劣るが、植物で溢れていた
天井からつるされたライトは
ワイングラスでできてるみたい
カウンターには手作りクッキーがあり
まあるいガラスの蓋がされてる
うしろではコーヒーマシンがシューシューと
音を立てている

店内にはまだ人はいなかった
ふたりは並んでカウンター席に座ると
目の前にあたたかいホットチョコレートが
運ばれてきた。

『マリーさんのホットチョコレートは絶品なんだ』

ジャックはカップに顔を近づけて
香りを感じていた
テリは熱いものが苦手なので少し待つことにした

少し冷めたホットチョコレートを飲みながら
三人はお互いの話をした

『この世界に来ると生きていた頃のつらい記憶やトラウマはすっかり消されてしまうんだよ』

確かに、さっきお母さんと再会した時
最後の記憶を思い出そうとしたができなかった

『まぁ、もうここでは必要ないからね。だから僕たちは安心して暮らせるんだ、このアトリエの街でね』

飲み終わったカップをそっとカウンターに置いて
さっきお役所でもらった小さいふせんを思い出した

『ねえ、ジャック、ここってどこかわかる?』

大事に握りしめていたせいでしわしわになっていた
ジャックはふせんのシワを丁寧に伸ばしながら
書いてある文字を見た

『ここからちかいね、いってみようか』

カラン、コロン。
扉を開けるとまたつみきが揺れて
心地良い音を鳴らした

窓際にはさっきまでテリが握りしめていた
スズランが、立派な花びんに入れられている
ドアの隙間から舞い込んだ風にゆれて
コロコロと笑っている

ジャックは、ごちそうさま、と言って先に
外へ出た

『またいつでもおいでね』
テリとぎゅっとハグをして
マリーはふたりの背中が見えなくなるまで
ずっと見守っていた。



次でこのお話は一旦終わります…

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