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【物語】月の案内人③
こんにちは
いしいうさぎです
今日、三日ぶりに外出しました
知らないうちにこんなに寒くなったんですね
スターバックスに来たらエプロンのお姉さんが
寒い中来てくださってありがとうございます😊と
言ってくださり嬉しくなりました
テリたちの世界はこんなに寒くないでしょうね
では続きをお話ししましょう…
__街の中は複雑に入り組んでいて
くねくねとヘビのような道ばかり
道端にはみたこともない草花が咲いている
まるでおとぎの国に迷い込んでしまった
ような気分になった
お役所を離れて少し歩いたところに
鮮やかな花でいっぱいの建物がある
ほのかに香る懐かしいにおい
草原を走って息を切らし、大きく深呼吸した
あのとき身体いっぱいに吸い込んだ草の香り
お母さんが作ってくれた花かんむりは
たからものだった
懐かしい花の香りに包まれて
テリは幸せだった
店の前でうっとりしていると
聞き覚えのある声が後ろのほうから飛んできた
『ジャック〜!テリ!もう済んだのか?』
声の主は数時間前に出会ったばかりのボブだった
ボブは今朝と同じみどり色のつなぎを着て
泥だらけの長靴に、手にはスコップをにぎっていた
『えぇ!お花屋さんしてるの?』
びっくりしたテリは声を上げた
『いやぁ、お花屋さんというか、植物屋さんだな』
ボブはあたまをぽりぽりかいて照れくさそうにした
店の前には色とりどりの花や
道端でみた植物と同じものが綺麗に咲いていて
花びらが閉じたり、開いたりしている
今朝、騒々しい音をさせていたあの台車も
ダンボールをつんで店先に置いてあった
[welcome]と書かれた玄関マット
壁は優しいグリーンとクリーム色で
小窓からは店内が見えた
薬品のようなものが並んだ棚と
ボブの背よりも高くつまれたダンボール
その横には木でできた長い脚立
『ボブが育てている植物たちは
生きていた頃、途中で枯れてしまったり
捨てられてしまった子たちなんだ。
またきれいに咲く事ができるように
世話をしてるんだよ』
ジャックはくるくるとうずを巻き
壁をつたって天井へのびるツルに触れながら
言った。
『せっかく来てくれたから、
きれいに咲いたものを
ひとつプレゼントするよ!』
ボブが近くの花カゴから一輪の花を手に取った
無数に集まった白い小さなベルが
ころころと音を立てて揺れた
『こいつはもともと、ひとつしかつぼみが無くて
捨てられた花だったんだ。
おれが丁寧に世話して、毎日声をかけてたら
今じゃこんなに花を咲かせてる。
もう心配ないさ、大事にしてやってくれ』
ボブはあわいピンク色の布切れで
花を包んでくれた
『ありがとう、ボブ。大切にするね』
テリは花の香りを身体いっぱいに吸い込んで
しっぽをブルブルと震わせた。
『それはスズランだね。
花言葉は"幸福が訪れる"だったかな。』
鼻をピクッとさせながらジャックが得意げに言った。
ふたりはボブの店をあとにして
また歩き出した
テリの手にはくしゃくしゃになった
ふせんと、丁寧に布で包まれたスズランの花
が握られている
この街は確かに入り組んでいて
すぐに迷子になってしまいそうだけど
今歩いてる道には見覚えがあったが
すぐにどこだかわかった
進む先には【cappuccino】と書かれたかんばんと
おいしそうなコーヒーの絵が飾られていた
店内にはたくさんのダンボールがあったけど
中身はなんだろう
ボブがお店でどんなふうに
植物の世話をしているのか気になります
ジャックとテリはあちこち歩き回って
とても疲れているみたい
ここって今朝みたコーヒー屋さん…?