ストラングラーズの新曲MV

　ストラングラーズのニュー・アルバム『Dark Matters』が9月にリリースされることが公式発表された。レコーディング自体は一昨年の来日前から進められていて、その新曲のいくつかはライヴで試しながら、長期間かけて仕上げていったようだ。JJ・バーネルも"ライヴをやり続けながらのレコーディングは時間が足りない"というようなことを言っているが、長期の制作期間も彼らにしてみれば通常の流れなのだろう。
　ただし、ことは順調に進まなかった。多くのバンド同様、彼らもまた新型コロナウィルス(Covid19)の蔓延により、すべての活動は中止、もしくは延期を余儀なくされた。そして、それだけでなく、彼らはバンド結成以来最大の悲劇に見舞われてしまう。主要メンバー、デイヴ・グリーンフィールドの命がCovid19に奪われてしまったのだ。このとき、彼らを襲った衝撃と混乱はどれほどのものだっただろうか。バンドの存続も危ぶまれるほどの激震が走るなか、彼らは倒れることなく、作りかけのアルバム制作を続行した。そして完成したのが『Dark Matters』なのだ。

　先日、アルバム・リリースに先立って新曲が1曲発表された。「And If You Should See Dave...」なるタイトルの新曲はそのタイトルと歌詞にあるとおり、バンドからデイヴに向けたトリビュートだ。ストラングラーズのサウンドを決定づける、替えのきかない重要なメンバーを亡くしてしまった悲しみ。そのどうしようもない感情にあふれたこの曲はあまりに直接的で、すべての音が寂寞の中にただよっている。当然ながらキーボードは入っておらず、デイヴの不在がバンドに落とした陰がやんわりと示される。"おそらくこの部分でデイヴの音が鳴るはず・・・・・・"といったところが何ヵ所もあるが、それらはギターで代用されるか、もしくは意図的に放置されている。静かに流れる曲調はテックス・メックス風で、雰囲気としては前アルバム『Giants』のタイトル曲に近い。メランコリックな歌唱は近年のバズが得意とするものだ。歌詞はシンプルかつストレート。デイヴへの思いが抽象的にあらわされているが、曲自体はいまのラインナップによる最高級のバラッドといっていい出来である。
　またこの新曲のミュージック・ビデオも同時に発表された。これはその曲調も相まってまるでロバート・ロドリゲスが撮る映画の1シーンのような趣きがある。ロサンゼルスを舞台に、あたかもなにか突飛な事件が起こりそうな気配。ロドリゲス作品のオマージュのようなこの映像を見ていると、これがデイヴのトリビュートとしてはたして妥当なものなのだろうか？　といった疑問が頭をもたげてくる。この映像と曲はどうリンクしているのだろうか？　と。