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ジャン・ジャック・バーネルとヤードバーズの関係

JJによると、彼が生まれて初めて聴いた曲はヤードバーズの「Heart Full of Soul」だという。この曲が発表されたのは1965年。チャートの2位まで上がったヒット曲だが、このとき彼は13歳。その年齢になるまでラジオなどで頻繁にかかるヒット曲に触れなかったということは考えにくいが、彼が言う"生まれて初めて"というのはおそらく、彼が"音楽に開眼した初めて"の曲という意味だろう。だとすれば、彼は巷に流れている最新の曲を自分から興味をもって聴き始めたのは、この曲がヒットした1965年からと見ることができる。少年時代の彼はもともと"No Music No Life"な音楽好きだったわけではないので、「Heart Full of Soul」がJJの音楽の原点といえるのかもしれない。

 彼の音楽遍歴が始まったとき、イギリスはいわゆるビート・バンドが台頭してきた時期だった。「Heart Full of Soul」以降、音楽に興味をもち、いろいろなバンドの生の演奏を観て刺激を受けていたJJは、特にフリートウッド・マックのライヴでのピーター・グリーンの演奏に感銘を受けたという。ただ、少年時代の彼はバイクと空手に執心していて、自分自身が音楽を本格的にやろうという意識はなかったようだ。そこまで熱心な音楽ファンでもなかった彼だが、それにしても、ライヴも含め、多感な少年時代のBGMとして聴いてきた当時の音楽に特別な感情をもつのは自然なことだ。その後、ミュージシャンとして音楽にのめり込んでいった彼のバンド志向の音楽性はこのころに芽生えていったのだろう。

 JJはかつて、ストラングラーズとは別の野外活動としてパープル・ヘルメッツというバンドをつくったことがある。自身がティーンエイジャーだったころに馴れ親しんだ音楽を演奏するカヴァーバンドがパープル・ヘルメッツだったのだが、それとは別に、いまも継続して参加しているカヴァーバンドがある。Strange Bird(ストレンジ・バード)なる名前のバンドがそれだ。熱烈なストラングラーズファンであればその名前くらいは聞いたことがあるかもしれない。

 ストレンジ・バードの中心人物はヤードバーズのドラマー、ジム・マッカーティ。JJは少年時代に聴いていたサウンドを鳴らしていた当の本人と、そのときに聴いていた曲をカヴァーしているのだ。ジムの自宅はJJの家からそれほど離れていないところにあるそうで、古いブルーズを演奏するジムのバンドにJJが加入を申し出たのだとか。バンド名の由来も、StranglersとYardbirdsの半分ずつを分け合っていて、親密な二人のコラボレーションは父子鷹のバンドといってもいいのではないか。メンバーは他にフランス人のギターが二人、イギリス人のヴォーカルが一人という五人編成。JJは時間があるときは週一回のペースでセッションしているようで、片手間にやっているバンドにしてはスタジオに集まる回数は多い。バンドは時折ライヴもやっていて、わずかながらその映像もネットで見ることができる。ジムに付き従うようなJJの姿は少年のようで微笑ましい。

 ヤードバーズはJJのお気に入りバンドのひとつであり、その音楽は彼の音楽的基盤になっているようだ。彼と同じように、ジムもバンド志向のとても強いミュージシャンで、さらに音楽についての豊かな知識や経験もJJの学びの場となっているように思える。ストラングラーズを半世紀もやってきたJJだが、音楽を学ぼうとする探求心はいまも貪欲なのだろう。

 ストレンジ・バードについてはネット上でも情報がとても少なく、その動向を追うことは非常に困難だ。彼らに音源を残す意思はないだろうし、その音楽に触れられるのは数少ないライヴの場と、それを撮影した動画だけ。ジムとJJの師弟関係を間近で観てみたいというファンも少なくないだろうが、日本でそんな機会はまず望めない。ネットの片隅でブルーズを鳴らしている幻のバンドとしてしかこのバンドを紹介できない歯がゆさよ……。

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石井達也
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