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ストラングラーズ、結成50年後の「Toiler On The Sea」

<ストラングラーズの最新ライヴ・アルバム『Fifty Years In Black』、その日本盤が12月に発売されます。それを記念して、しばらくストラングラーズについてのコラムを連投します>

結成50周年を迎えたストラングラーズが今年3月からスタートさせたツアー「Fifty Years In Black」も、10月をもってヨーロッパを周る2ndラウンドを終えた。14公演を行なった2ndラウンドは、イギリス/アイルランドを周った1stラウンドとはセットリストもことなり、ライヴの雰囲気も大きく変化した。定番ともいえる曲が外され、結成50周年というタイトルのツアーにしては非常に特異な選曲もあった1stラウンドは、長年のファンであっても困惑したのではないだろうか。ところがその後、ヨーロッパ各地の夏フェスに出演してから、そのセットリストも少しずつ馴染みのあるものに変わっていった。

2ndラウンドのセットリストは、1stラウンド以前のそれへと戻ったように見える。しかし、ただ曲が替わっただけではない。ライヴの序盤の選曲は恐ろしいほどにアグレッシヴなものへと変貌を遂げていたのだ。ネットにあがっている動画をみるかぎり、「Toiler On The Sea」「Grip」「Duchess」と畳みかけるスタートダッシュは息を呑むほどスリリングだ。そのあまりにパワフルな序盤は、結成50周年を迎えるバンドとは思えないほど若々しく、衝動的。まるでデビューして間もない若いバンドが嬉々として演奏しているかのようだ。

特に、ライヴのスターターとなる「Toiler On The Sea」の凄まじさには度肝を抜かれる。メンバーがステージに登場するなりぶちまけられるジャン=ジャック・バーネル(以下、JJ)の激しいベースはあまりに挑戦的で、切っ先鋭い太刀のようなそのリフは観客の衝動を煽りたてる。JJのすぐ後に続くバンドがそろって演奏を始めると、そのスピードが異様に速いことに気づかされる。単純に、スタジオレコーディングされた原曲と比べても1分以上も早く終わってしまう速さだ。もともと、この曲はリズムが速く疾走感あるものだが、この曲をこれだけの速さで演奏することは過去になかったはずだ。彼らは安定したドラマー、ジェット・ブラックがバンドの舵取りをしていたこともあって、ライヴでの演奏が先走ったり、前のめりになることなど一切なかった。が、この2ndラウンドでのこの曲はかなり前のめりな演奏となっている。リズムが乱れているのではない。メンバー全員が前傾姿勢で、次に出す音を満を持して発しているのが明確にわかる演奏なのである。つまりこの異様な速さはバンドの意図であるということだ。

そんな超攻撃的なスターターから始まるライヴは、これまたスタミナを必要とする激しい曲の連発へとつながっていく。これは結成50周年を迎えたストラングラーズが仕掛けたファンへの決意表明なのか。"おれたちは半世紀も演奏してるが、まだまだ枯れちゃいないし、これからもアグレッシヴにいくからな、まあこれからの活きのいい演奏も触れてみてくれ"、そんなメッセージが聞こえてくるようだ。ジム・マッコーリィ、トビー・ハウンシャムの新メンバーは、バンドに可燃性の高い燃料を注ぎ込み、無尽蔵とも思えるスタミナを呼び込んでいる。その新しいエネルギーがバンドを確実に活性化しているのが如実にわかる、そんな演奏を初っ端にもってくるのだからおそれいる。

デイヴ・グリーンフィールドが亡くなったあと、2021年末から彼らのライヴのスターターは「Toiler On The Sea」で固まっているようだ。今回のツアー、1stラウンドでこの曲は外されていた。1stラウンドがどこか厳かなムードの特別なセットリストだったゆえに、そのテーマに沿わない曲とされたのだろうか?

1stラウンドの特別な祝祭感がなくなった2ndラウンド。セットリストに復帰する定番曲もいくつかあって、より躍動的な演奏を繰り広げている。新生ストラングラーズのポテンシャルは、このツアーでの「Toiler On The Sea」の格別なスピードに象徴されている。

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石井達也
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