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ストラングラーズが見つめる世界 : 「North Winds」と「Sweden (All Quiet On The Eastern Front)」がつながる怖さ

『Fifty Years In Black』ツアーの1stラウンド、そのセットリストはすべての曲が固定化されたパッケージ・ライヴであった。毎回、ライヴではいくつかの曲を入れ替えることが多い彼らにしては、セットリストを演奏順もあわせてまるごと固定するのは非常に珍しいことだ。おそらく、これはバンドが練りに練ったセットリストであり、そこには彼らの信念のようなものもあったのだろう。言ってみればこだわりのセットリストであったといえる。
ステージも特別なものだった。このときはステージ後方にいつも掲げられるバンドロゴがなく、シャンデリアが揺れる、いわゆる舞踏会のような上品なステージセットだった。アニヴァーサリー・ライヴというタイトルに掛けたなんらかの思惑を感じるが、はっきりとはわからない。ただ、セットリストもステージセットも、彼らにとって特別なものであることはたしかだ。

ただ不思議なのは、それだけ執着しているように見えたこのセットリストもステージセットも、2ndラウンドの初め2公演を最後に突然引っ込められてしまう。その後のセットリストは、夏フェスで演奏された内容を1stラウンドのそれと組み合わせたような改変がなされ、ステージセットもバンドロゴが復活、シャンデリアがなくなったいつものストラングラーズのライヴとなった。そしてその後のツアーではそれが定着した。

1stラウンドでのセットリストについては、来月12月に発売される『Fifty Years In Black』日本盤のライナーノーツに書いたのでここでは触れない(ぜひともお買い上げください!)が、彼らが1stラウンドで演奏した内容は、当時の世相を彼らなりにまとめた、"時代を映した音楽"であったと思える。結成50周年を迎えた彼らがいまの時代に鳴らすべき音楽という意味だ。そんなセットリストの突然の変更の理由はわからない。当初から決まっていたことなのかもしれないが、それにしても2ndラウンドが始まって2公演終えてからというおかしなタイミングでなぜ変更されたのか……。

その理由はともかく、ツアーは3月と10月とでほぼ半分の曲が入れ替わった。そんな曲の入れ替えのなかで最も背筋がゾクッとしたものがあるのだが、それについて考えてみる。

1stラウンドで演奏されていたなかに「North Winds」がある。これは、危うい社会情勢のなか、不穏な空気が近づいていることを示唆する曲だ。ヨーロッパでは北風が吹くことはなにか良からぬことが起こる前兆とみる迷信もあるようだが、この曲でうたわれる風はまさにそういった不安を掻き立てるものである。この曲が書かれた1984年当時、JJは戦争をはじめとするさまざまな社会的不安を題材にこれを書いたようだが、いまこの曲がしめしているのは明らかにウクライナに侵攻したロシアに対しての不安だ。ロシアはウクライナに核兵器をつかう可能性があることを言明していて、もやもやとした不安は広がるばかり。『風が吹くとき』という映画があるが、そのタイトルも内容も、この曲と密接にリンクしている(映画は「North Winds」よりも2年後の公開だが、原作はその2年前の出版。JJもここからインスパイアされているのかもしれない)。差し迫る核戦争の危機。「North Winds」でうたわれる不安が現実のものとして迫りくる、そんな恐怖を彼らは結成50周年のアニヴァーサリー・ライヴで冷徹に演奏した。ストラングラーズのすごさはこういうところにある。

ウクライナでの争いはヨーロッパ諸国に大きな影響を与え、具体的な行動へと駆り立てた。それまで外交的な考えからロシアとの関係を保ってきた北欧諸国(フィンランド、スウェーデン)がNATO加盟へと動いたのは象徴的な出来事だ。両国は2022年5月にNATO加盟の申請手続きに入ったが、その動きにロシアは激怒、ヨーロッパの緊張は北欧にまで拡大した。その後、フィンランドは2023年4月に、スウェーデンは2024年3月にNATO加盟が認められた。

正確にいうと、スウェーデンのNATO加盟は2024年3月7日。奇しくも『Fifty Years In Black』ツアーが始まる前日だった。2ndラウンドが始まり、「North Winds」に替わる曲としてピックアップされたのが「Sweden (All Quiet On The Eastern Front)」だ。この曲は最初の世界大戦をテーマにできたものだが、その内容はいまの時代にピタッとはまっている。選曲としては絶妙だ。いや、ニュアンスとして絶妙というのは言葉が違うかもしれない。2つの曲が連作のように聴こえてくるのは、どちらかというとおどろおどろしく、不気味である。40年前の彼らの予言のように思えてくるこの2つの曲がもたらす不安は、いま世界が解決しようと躍起になっている大きな問題だ。「Sweden」は近年のライヴではよく演奏されているのでレアな選曲ではないが、頻繁に演奏されるようになったのはスウェーデンがNATO加盟を申請してから。ということは、彼らはスウェーデンのNATO入りをかなり気にしており、そのうえでライヴで取り上げているのだろう。「North Winds」が「Sweden」と入れ替わった、そのことを意識したうえで2つの曲を聴くと、いまの世界情勢の不安がのしかかってきて息苦しくなってくる。

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石井達也
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