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『Meninblackintokyo』The Stranglers

 ストラングラーズの公式ライヴ・アルバムというと、どのタイトルが頭に浮かぶだろうか? オールドファンなら『Live (X Certs)』に親しみを感じている人が多いだろう。キンクスのカヴァーがヒットしたときの『All Live And All of The Night』に思い入れのあるファンも少なくないはずだ。ポール・ロバーツがうたっていた『Friday The Thirteenth』もパフォーマンス自体はいいものだったし、ほとんどが80年代のニュー・ウェイヴ曲で占められた『Live At The Hammersmith Odeon 81』もおもしろいアルバムだった。

 デビュー以来、ライヴ・バンドとして活動し続けてきた彼らがこれまでに発表したライヴ・アルバムは少なくないが、特にバズ・ワーンが加入してからのリリースは多い。純然たるライヴ・パフォーマンスを収めたアルバムに加え、過去のアルバムの再現ライヴやアコースティック・ライヴなどの企画モノもあったりと、ライヴ・バンドとしてのストラングラーズを映した音源はどれもが聴きどころの多い、価値あるアイテムだ。

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 そんな彼らのライヴ・ディスコグラフィに新たな一枚が加わった。2019年11月の日本公演、そのフルステージをパッケージ化したこのアルバム『Meninblackintokyo』は日本のファンにはたまらないアイテムだ。

 このアルバムはそのライヴの様子を克明に映した素晴らしい作品である。特筆すべきは演奏から立ち昇ってくるその生々しさ。音源から伝わってくるその熱さ、ライヴのリアルな空気感やバンドのエネルギー、気合いなどが直接的に感じられる作品としては屈指で、過去のライヴ・アルバムを完全に凌駕しているといっていい。

 このときの彼らのテンションは異常なほど高く、緊張感と集中力が拮抗し、張り詰めた雰囲気をつくりあげていた。演奏はたしかに彼らにしては荒いところがあるし、ギスギスとした印象だが、ただそれ以上に演奏そのものの圧倒的で凄まじいエネルギーが信じられないほどの破壊力でこちらに襲いかかってくるさまは圧巻の迫力だ。この日のJJ・バーネルの異様なほどの気合いがどこからきているのかわからないが、このアルバムにはその空気感もしっかりと記録されている。

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 これと同じような収録曲のライヴ盤『Feel It Live』と聴き比べればその違いは瞭然だ。演奏は『Feel It Live』の方がきちんとしていて、どちらかというとこちらの方がいつものストラングラーズだ。ただ、いったん『Meninblackintokyo』を聴いた耳で聴くと、気迫やエネルギーの部分でここでのパフォーマンスは迫力不足のようにも聴こえてしまう。つまり『Meninblackintokyo』はいつものストラングラーズとは違う、異常にパワフルなストラングラーズが出た作品なのだ。ちなみにこの音源のミックスも『Meninblackintokyo』同様、彼らの常連プロデューサーであるルーイ・ニカストロがあたっている。ルーイはこの東京音源をどうとらえているのだろうか。

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 ライヴとはなにか? ライヴ・バンド、ストラングラーズのパフォーマンスとはどういったものであるか?
その答えはこのアルバムにあるといえる。これだけ生々しく、剥き出しのサウンドを出せるバンドはそう多くない。ましてや40年以上活動していながらこれだけのパワーを感じさせるバンドなどそうそういない。沸々と燃え上がる熱情を叩きつけるストラングラーズ。これは彼らの生きざまだ。『Meninblackintokyo』は掛け値なしの傑作ライヴ盤である。これを聴いて、またまたストラングラーズを好きになったし、またまたその熱いライヴを観たくなった。 

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石井達也
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