小幡真子とフラワーカンパニーズ
5月、女子バレーボール日本代表として活躍していた小幡真子選手が現役引退を発表した。いつも熱い気持ちを感じさせる彼女のプレイ、その一挙手一投足に鳥肌を立てながら観ていた自分にとって、その報はただたださびしい「事件」だった。引退なんてまだまだと思っていたのに……。
守備の要リベロとしてチームの盾となり、ひたむきなレシーブで仲間を鼓舞し、チーム全体の闘志を燃え上がらせる小幡選手のプレイ。それは観ているこちらまでをも奮い立たせる気迫があった。試合を観ていて、拳に力が入り、手のひらが赤くなっていたことが何度あったことか。
厳しい闘いの場に持ち込む気迫は、時として味方を震え上がらせるほどの緊張感を生む。その緊張感が試合をピリッとさせ、ひとつひとつのプレイに熱がこもるものだ。その部分でカリスマ的な才能を発揮していたのが名セッター竹下佳江であり、往年の中田久美だった。ところが、小幡選手にはそういった緊張感のある、ピリピリした気迫とはまた違うムードがあった。彼女は、試合の厳しさ、激しさに立ち向かう闘志を表に出しつつ、チームメイトを後押しする、慈しみのような柔らかさがつねに感じられたのだ。もちろん、彼女のやり方は直接攻撃に参加しないリベロというポジションゆえのものではあるのだが、試合中、チームメイトに向ける彼女の泰然とした優しさは、チームの強みとなり、そしてまたチーム全体に還元されていたように思えてならない。
東京オリンピックで日本代表チームは結果を残せなかった。小幡選手も当然、自身のプレイに満足いかなかっただろう。しかしながら、オリンピック直後のシーズン、自身がキャプテンを務めたJTマーヴェラスはレギュラーラウンドで優勝を飾った。そのときのインタビューで、彼女がチームになにをもたらそうとしていたのか、チームの中での自身の役割りを多角的に考えていたことが示唆されていた。ただチームはその後のファイナルステージで敗れ、最終的にリーグ準優勝となってしまうが、彼女はベストリベロとして表彰された。それは彼女の選手生活にとって有終の美となったのではないか。
日本代表という視点で見ると、小幡選手の引退とほぼ同じタイミングで、彼女と同じようにチームに火を点ける闘将、荒木絵里香選手も引退。さらに、ガッツあふれるエネルギーの闘志、鍋谷友理枝選手も日本代表から外れた。いま、パリオリンピックに向けて新たな日本代表作りが始まっているが、今回のチームに熱いムードメーカーとなる選手がいないのは気にかかる。いまのところはまずベース作りといったところだろうか。
ところで、コートで躍動している小幡選手を見つめていると、いつも頭をよぎることがある。
「やっぱり似てるなぁ……」
自分のなかで、彼女の顔はどうしてもこの男の顔と重なってしまうのだ。
ネット検索すると、フラワーカンパニーズの鈴木圭介が小幡選手とそっくりだということをいう人はいないらしい。が、自分から見ると、試合中の小幡選手とライヴ中の鈴木圭介はほぼ同じ顔に見えて仕方ない。特に名曲「深夜高速」のライヴ映像はもれなく、試合中の小幡選手がうたっているかのようだ。ひとたび自分のなかで二人が同化してしまうと、両者に共通する点がどんどん見えてくる。バレーボールとバンド、それぞれ担うものは違うが、そこにかける熱い情熱、まっすぐな誠実さ、全力を振り絞る愚直さ、ビシビシと伝わってくる濃厚なエネルギー、気持ちをグイグイと前面に出す泥臭さは両者に共通するキーワードだろう。
もし鈴木圭介が女子バレーボールの選手だったら、きっと彼は小幡選手や荒木選手、鍋谷選手のような熱い選手となっていただろう。けして諦めず、踏ん張って立ち上がろうとする彼のポジティブなエネルギーは、なかでも泥臭さを必要とするリベロというポジションにうまくハマるはずだ。彼の身長は159センチ。その身長は歴代の日本代表でも屈指の名リベロ、佐野優子と同じだ。(ついでにいうと名セッター、竹下佳江とも同じだ) 鈴木圭介がバレーボール選手だったらレシーブの名手として名を馳せたかもしれない。
などと考えていると、逆にフラカンで小幡選手がうたうとなるとどうなるかも気になってくる。彼女の歌についてはどう検索しても出てこないので勝手なことしか言えないが、彼女もフラカンの歌にある不屈の精神は深く理解できるであろうし、一回共演したら意外にフィットするような気もする。まあ、フラカンがバレーボールをテーマに曲を作るなんてことはまずないだろうけれど。