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オールの小部屋から㉙ 賞と編集者(前編)

 秋らしくなり、いよいよ読書の秋という感じがしてきましたね。
 オール編集部では、9月18日に「第14回本屋が選ぶ時代小説大賞」、9月20日に「第104回オール讀物新人賞」と、編集部が主催する賞の選考会を続けておこなっていました。
 時代小説大賞には、赤神諒さん『佐渡絢爛』(徳間書店)、オール新人賞には三重県在住の和泉久史さん「佐吉の秩序」が選ばれまして、無事に受賞作をおくりだせて、ホッとひと息ついているところです。赤神さん、和泉さん、おめでとうございます。
 さかのぼること1か月半前、8月に入った頃から、直木賞発表号である9・10月特大号(いま書店に並んでおります)を編集するかたわら、2つの賞の最終候補作を選ぶ下読みを進めていました。オール新人賞も現在は「歴史時代」にジャンルを絞って募集していますので、連日、歴史小説、時代小説を(書店に並んでいるプロの作品と新人賞の応募原稿という大きな違いはありますが)読んでいたことになります。
 時々、本を読むのが仕事なんていいですね、と言われることがあります。これはもう「役得」というほかありません。当たり前のことですが、勤務時間中、ずっと本を読んでいても怒られません(むしろほめられる)。何時間でも集中して活字を頭に入れることのできる人は、確実に編集者に向いていると思います。夜中に帰宅し、あすの昼の会議までにあと2冊、読んでおかねばならない。そんなとき、どんなに疲れていても、嬉々として活字の世界に沈潜していける「筋肉」の持ち主がうらやましい……。歳をとるにつれ、しだいに「筋力」のおとろえを感じる今日この頃です。

赤神諒著『佐渡絢爛』(徳間書店)

 小説の賞にもいろんなものがありますが、いま、オール讀物編集部がかかわっているものには、

 直木賞(日本文学振興会主催、1月と7月)
 ミステリー通書店員が選ぶ大人の推理小説大賞(オール讀物の企画、3月) 
 松本清張賞(日本文学振興会主催、公募の長編新人賞、4月)
 高校生直木賞(高校生直木賞実行委員会主催、5月)
 オール讀物新人賞(オール讀物主催、公募の短編新人賞、9月)
 本屋が選ぶ時代小説大賞(オール讀物の企画、今年は9月)
 本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞(オール讀物の企画、11月)

 ……と、けっこうありました。雑誌の企画として始めたものが多いので当然ですが、いずれもオール讀物が発表媒体で、すべてオールの編集長(=私)が選考会の司会をつとめます。直木賞は冬と夏に2回ありますから、年に計8回も選考会をやっているのかと、数えてみて自分でも驚いています。
 今年スタートしたばかりの「大人の推理小説大賞」から、第171回を迎えた直木賞まで、歴史も内容もさまざま。賞の準備や運営にはそれぞれに手間がかかります。
 公募の新人賞と、すでに世に出ている作品に受けていただく文学賞とでは、準備のしかたもだいぶ違いますが、私たちが主にやることは、
 ①選考委員をお願いする、②選考会の日程を決めて会場を手配、③候補作を選ぶ(予備選考)、④候補作家へ連絡して候補を受けてもらう、⑤当日の進行、⑥候補者に結果を連絡(受賞者に賞を受けてもらう)、⑦メディアへの発表、⑧選評の依頼、⑨受賞者インタビューなど誌面づくり、⑩贈呈式の準備
 ……こんなところでしょうか。いちばん準備が大変なのは直木賞ですが、直木賞と松本清張賞は、主催の日本文学振興会が運営面をほとんどやってくれますので、編集部としては当日の司会と、発表の誌面づくりに集中すればよい感じです(もちろん「予備選考」のお手伝い=下読みは重要かつ大変な仕事です)。
 雑誌の企画としてやっている賞のほうが、ぜんぶ自分たちでやらないといけないので手間がかかりますが(もちろん下読みや作品推薦などで多くの方の手を借ります)、よい作品を選ぶことで、誌面をもりあげるだけでなく、受賞作家、版元、書店、読者のみなさんに喜んでもらえるよう、さらには小説業界を少しでも盛りあげられるように、という気持ちで続けています。

第11回高校生直木賞 全国大会の様子(©文藝春秋)

 次は、11月に⑦「大人の恋愛小説大賞」の選考会が控えています。これと、②「大人の推理小説大賞」、⑥「時代小説大賞」の3賞は、現役の書店員さんに選考委員をお願いしてまして、毎回、司会をするのがものすごく楽しいです。なぜなら、プロの作家の選考と比べて、作品評価の切り口や議論のスタイルがかなり異なるからです。
 第一線の書店員さんが「推したい」「売りたい」1作を選ぶとき、その頭の中には、お店にやってくる常連のお客さんの顔が浮かんでいるように思います。つい先日の時代小説大賞でも、「人情の機微かキャラクターの魅力か」といった内容に関する議論がもちろん熱くなされたんですけど、それと並行して、この本を薦められる「お客さんの顔が見えるか」=ターゲット層が浮かぶかどうか/どういう層に訴求できるか、が、評価を決める重要なポイントになっている様子でした。「これ読んで! 絶対に面白いから」と言えるお客さん像がはっきり見えるか。その際の紹介のしやすさ(ひと言で伝えられるか)はどうか。価格や、装幀のアピール力まで含めて、選考の行方を左右するわけです。目の前で議論を聞いていると、各書店の店頭の空気感が伝わってきて、面白く、勉強にもなります。これら書店員さんが選ぶ賞は、高校生が選ぶ「高校生直木賞」と同じくらい私たちにとって新鮮で、新たな発見がありますね。

昨年『まいまいつぶろ』で第13回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞した村木嵐さん(©文藝春秋)

 本来、それぞれが唯一無二の魅力をもち、他と比べたりできないものが小説(芸術作品)だと思います。その大前提を踏まえた上で、あえて「どう比べていくか」。この無理を通していくところに賞の選考の面白さと難しさがあり、勝手さや乱暴さもあると思っています。同時に、小説って常に多様な読みに開かれている、じつに豊かなものだな、と実感できる機会でもあります。

(オールの小部屋から㉙ 終わり)

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