オールの小部屋から⑪ 編集部員紹介 シマダさんの巻【前編】
いつも自分の話ばかりだと広がりがないので、急遽、突然、思い立って、編集部員インタビューをお届けします!
精鋭5人。いま「オール讀物」編集部ではどんな人が、どんな志を抱いて働いているのか、その実態に迫りたいと思っています。
記念すべき第1回ということで、1999年生まれの最年少部員、シマダさんをお迎えしました。聞き手・構成は石井が担当します。
シマダ どうぞよろしくお願いいたします。入社2年目になります。去年の4月、新卒で文藝春秋に入りました。入社からずっとオール讀物編集部におります。
――入社するまで、どんな大学生活をおくってたんですか。
シマダ 私は本当にのんびりした学生だったんですけれども、ウクレレサークルに在籍し、アルバイトにいそしみ、コロナ前にはタイに留学して、アジア政治を勉強していました。大学3、4年生の間はずっとコロナ禍だったので、いろいろ本を読んだり、就活したり、本当に平均的な大学生生活を送っておりました。
――東京出身なんですよね。
シマダ はい、東京出身です。高校卒業後、W大学に進んで、大学のウクレレサークルって日本に4つぐらいしかないらしいんですけど、そのうちの1つ、けっこう大きいサークルに入りました。みんなでウクレレを弾いて歌ってみたいな感じの毎日でした。
――どうして出版社を受けようと思ったんですか。
シマダ もともとは記者志望で新聞社を受けていたんですけれども、本を読むのが好きだったので、出版社も受けてみようかなと思い立ちまして。ひととおり新聞社が終わった後に出版社の選考が始まり、何社かエントリーシート出して面接を受けたら、たまたま文春から内定が出た。大丈夫かなって一瞬思ったんですけど、せっかく入れるなら入りたいなと思って入社を決めました。
――新聞社にも内定があったそうですね。もしかしたら新聞記者になっていたかもしれない。
シマダ そうですね、新聞社で働く道も目の前にあったけれど、ひらめきで出版社を選びました。なんで文春に決めたかといえば、もともとどんな会社なんだろうって不思議に思ってまして。最初は硬そうな会社なのかと思ってたんです。でも、どうやらそうでもないらしいみたいな話を聞いて(笑)。
――どういう噂を聞いたんですか。
シマダ 噂というより、実際に就活のイベントで、社員の方が喋ってるのを聞いたんです。当初のイメージは「文藝春秋」という四文字熟語の社名のとおり、きっちりした感じの会社なのではと思ってたんですけど、どうも違うぞ、意外とゆるっとしたところもあるのかしらと就活生目線で思いました。お話を聞くにつけ、和やかめな会社なのかなと感じるようになりました。
――入るなら、和やかな会社が良かった?
シマダ そうですね。ピリピリしてない会社がいいなと。まあ、就活イベントのトークなので、一面しかわからないぞとも思ったんですけど、実際に面接試験に進んでみると、そんなに厳しい質問もされず、優しい会社なのかなと思ったりして。イメージと違っていい会社かもって(笑)。
――面接試験のこと、覚えてますか。
シマダ 覚えてますね。一次面接、二次面接はオンラインだったんですけど、三次面接以降は、実際に対面で面接を受けました。その三次面接のとき知り合った子が、いま会社の同期だったりするんですけど。なかなか出版社の人と対面で話をする機会がなかったので、面接自体、新鮮で楽しかったですし、面接の内容も笑いあり、和やかムードでした。
最終の役員面接もわりとほんわかしていて、たまに笑いが起きるみたいな雰囲気だったので、「頑張って笑い取らないとな」と思いながら面接を受けてた覚えがあります。私、特技欄に「高速またたき」って書いたんですけど、「やってみて」って言われてやりましたよ(笑)。
他社のエントリーシートにも「高速またたき」って書いてたんですけど、私が「やります」って言っても「やんなくていいよ」って止められたことがあったんです。文春の人は「やってみて」って。すごいな、やっていいんだと思って、頑張ってやった思い出があります。
――入社を決めた時点の志望というか、文春でこんな仕事をしたいってのはあったんですか。
シマダ ノンフィクションの書籍をつくってみたいというのが自分の就活してたときの志望でした。文春文庫から出ている星野博美さんの『転がる香港に苔は生えない』という本を読んで、めちゃくちゃ面白いぞと感動しまして、こういう本をこれから自分がつくっていけたらいいなというふうに思ってたんです。
――実際に文春に入ってみてどうでしたか? 最初、2週間ぐらい研修がありますよね。
シマダ ありました。経費精算の仕方を学んだり、各雑誌の特徴とか、文芸編集者の仕事とは? とか、座学で講義を受ける内容が多かったです。1日ずっと話を聞く研修だったので、いろんな社員の方に会えて、こういう仕事もあるんだなとわかったり。でも、実際のところ、出版社ってどういう仕事してるんだろうっていうのは本当に気になりました。
――そもそも新入社員の数が少ないですよね。同期は何人?
シマダ 私は同期8人。
――あ、けっこう多い。
シマダ 最近、多いですよね。8人でずらっと座って研修を受けて、最終日(3月31日)に配属が発表されるんですけど。「シマダさんはオール讀物編集部です」と言われて、思わず「えっ!」てのけぞるくらいびっくりの配属決定でありました。動揺してたんですけど、その後すぐホールで新入社員のお披露目会があるので、面白い挨拶をしなければいけないというミッションが課されて、怒濤の3月31日でしたね。
――4月から現場で働き始めます。「ゆるっとしてる」という事前の印象は当たってましたか。
シマダ ゆるいところもあるんですけど、当たり前なんですがもちろん会社なので、ゆるくないところもあって。自分が想像していたのと同じくらいですかね。
――他社と比較できないからわからない前提で聞きますけど、文春のどのあたりがのんびりしていると思いますか?
シマダ まず、こんなに時間というものに縛られないのかと。定時がないというか。
――いちおう編集部門は完全なフレックスタイム制なんですよね。
シマダ 他の会社に勤めてる子に聞くと、1週間で何時間働けばいいという枠が決まっていて、月曜日は何時間働いたから、火曜は何時間働こうとか、そういうふうに日程を組むらしいです。週トータルで何時間勤務みたいな目安を持ってフレックスで働いてる。文春は同じフレックスでも、そういう枠もないというか。実際、一日どこにいてもいいし、タイムカードを押しに来なくても「働いた」とみなされる。会社に何時間いないといけない、というのがないし、在社時間をカウントしないところがありがたいなというか、縛られてない感覚があります。
そこは想像以上の自由さでしたが、当然、編集部内の連絡とか、同じ作家さんを担当してる人どうしのコミュニケーションはやっぱりきちんと取らないといけなかったりするので、基本チームプレーだなというふうにも感じてますが。
――オール讀物という部署はどんなところでしたか。
シマダ 配属された先では、もう研修とかないじゃないですか。先輩が何をやってるかは聞かないと教えてくれず、めいめいが黙々と働いてますよね。だから最初のうちは、ひたすら言われた自分の仕事をやる。雑誌といっても、自分の担当しているページ以外はわからない。担当外のページには一読者として関わるものなのかなというふうに思ってました。1年半たっても、いまだに実態を知らないところはあるかと思います。
少しして最初の校了を迎えて、初めて編集部員5人全員が揃った。そこで、あ、他にこういう記事が載るのか、こういう小説が載るのかとわかってきました。
――オールで一番最初にやった仕事を覚えてますか。
シマダ いつも10日くらいから校了が始まるんですけど、私が編集部に配属されたときには「読む台湾」特集の2022年5月号(4月22日発売)がほとんど完成してゲラになってる状態でした。だから、500ページぐらいあるゲラを全部読むのが最初のミッションでした。ページが多すぎて、決められた時間内に読み通すのが難しいって気づいたのが最初の衝撃。小説誌ってこんなにいっぱいページがあるのか、しかも本文3段組って半端ないなっていう衝撃。そんな洗礼を受けた初仕事でした。
――オールは小説雑誌なので、同僚よりも担当する作家と一緒にいる時間のほうが長いくらいだと思いますが、初めてプロの作家と会ったときのことを覚えてますか。
シマダ 担当ではないんですけど、ブックトークっていうインタビュー記事がありまして。坂木司さんの『ショートケーキ。』がちょうど出たところで、坂木さんのインタビューをやらせていただいたのが初めて作家さんにお会いしたときかなと思います。仕事としてお会いしたのは坂木さんが最初だったんですけれど、それより前に編集部の席に座ってたら阿川佐和子さんがふらっと遊びにいらして、「職場体験?」って聞かれた思い出がありますね。
――それはシマダさんがあまりに若く見えたから?
シマダ フレッシュな感じがあったのか、「学生さんかと思った(笑)」と言われました。偶然にお目にかかった感じなんですけど、有名な方がこんなにもふらっと編集部にいらっしゃるのかと驚きました。「職場体験ではなくて、会社に入ったばっかりなんです」みたいなお話をさせていただきました。
――入社して1年半たち、当初の印象と何か変わったことはありますか。
シマダ 配属されたとき想像してなかったこととしては、いろんなイベントがあったり、出張に行ったり、作家の方のアテンドをしたり、雑誌をつくる以外の仕事がたくさんあるんだなということ。それは雑誌を読んでるだけではわからなかったことで、原稿をいただいてそれを載せてっていうこと以外に、いろんな仕事が陰に日向にあるのだなということは働きながら日々、実感しております。
――いま「灯台を読む」というリレーコラムを連載していますけど、シマダさんも日本各地の灯台を作家のみなさんと巡る取材に行きましたよね。
シマダ 私は阿部智里さん、門井慶喜さんと、2泊3日の取材を2回行きました。灯台があるところって海に突き出した岬の突端で、とんでもないところに建っていたりするので、難所というか、ふつうには行けないところにお仕事で行くのは楽しかったし、非常に勉強になりました。
――いま、作家の人と泊りがけでずっと一緒に行動する機会はあんまりないかもしれません。
シマダ 出張に行くと、旅先でいろんなご飯を食べたりだとか、楽しいことがあるんだなと実感しました。事前にいろいろ調べるんですよね。灯台だけでなく、プラスアルファの部分もぜひ記事にしたいとお話をいただいていたので、灯台の近くにどんなスポットがあるかなって考えたり、灯台から次の灯台へ移動する間に立ち寄れそうな面白そうな場所はどこかあるかとか。あとは、1日目に頑張ってここまで行っておけば、次の日の移動距離が稼げるなとか、コーディネーターみたいな仕事もあります。作家の人に泊まってもらうならどこのホテルをとろうとか、夜のご飯をどこで食べようとか。車が苦手な方もいるし、飛行機にはぜったい乗らないって方もいるし、みなさんそれぞれですから、事前に考えることも多いんです。
――家族の人は心配してないですか。「週刊文春」のイメージが強いので、危険な目にあうんじゃないか、訴えられたりするんじゃないかと心配されるご家族もいらっしゃるようですけど。
シマダ うちは大丈夫です。仕事内容を心配されるというより、「最近何食べた?」と聞かれるようになりました。
――食事をちゃんととっているか心配。
シマダ いえ(笑)。「会食のとき、こんな美味しいもの食べた」と話をしたせいか、「何か美味しいもの食べた?」って意味で聞かれるんです。オール讀物についてはほとんど聞かれたことがありません(笑)。
――会社にはいろんな部署がありますが、同期の8人で仕事の話をしますか?
シマダ 一緒にランチしたりするんですけど、実は仕事の話をしてません。仕事の内容って人に説明するのが意外に難しくて、しっかり話したり、逆に聞いたりっていうのはないです。ただ、オールのお隣の「別冊文藝春秋」編集部に同期がひとりいまして、傍で見て、別冊はこういう感じなんだな、とか、けっこう忙しそうだなとか、それとなく窺い知るくらいの距離感ですかね。日常会話の中から何となく仕事の様子を感じ取るみたいな。
仕事について語り合うことはなくても、自分の仕事をしてる中で、ふとした瞬間に同期の仕事に遭遇する機会があったりします。広告の部署に同期がいたんですけど、週刊文春の広告に自分の担当している作家の方が登場する企画があって、そのときに広告の担当者がどういう企画書を出して提案していくのかなどを見ました。
オールにいると、何となく同じ担当作家の方と打ち合わせするのが中心で、なかなかしっかりした企画書を書く機会が日常的にはない。きっちりと企業の広報の方に連絡したり、他社の方に企画の趣旨を説明して説得したり、まだそういう仕事をする機会があんまりないです。なので、同期の仕事ぶりを見て、大変だなって思ったりしました。
……と、だいぶ長くなりましたので、ここまでを前編として、以下、インタビューの続きは次回にご紹介したいと思います。
2年目の新鋭、シマダさん。ぜひみなさんも応援してください!
(オールの小部屋から⑪ 終わり)
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