見出し画像

オールの小部屋から㉖ 直木賞の夏

 こんにちは。気がつけば2か月ぶりの投稿となります。夏バテでしばらくグッタリしておりました。
 オールの夏、直木賞の夏――ということで、7月に入るとオール讀物編集部は直木賞モードに入ります。編集長である私は司会をつとめるため、候補作を再読したり、脳内でシミュレーションしたりしますし(あの委員はこう言うだろう、あの委員はこう言うだろう、とひたすら妄想を重ねる)、紙の雑誌はページ数が決まっているので、①1作受賞の場合、②ダブル受賞の場合、③受賞作なしの場合にわけて、誌面の構成をデスク(副編集長みたいな係)と相談したりもします。
 担当作家が候補になっている編集部員も、もし〇〇さん受賞だったら△△さんと対談してもらおう――などと、あれこれ考えるわけですね。「待ち会」の準備をする部員もいますし、選考会の本番まで、緊張の1週間を過ごします。

こっそり選考会場「新喜楽」の写真を。このカッパは、私に似ている(?)とのことで、桜木紫乃さんから選考会のお守りとしてもらったものです。

 ご存じのように、第171回直木賞は、一穂ミチさんの『ツミデミック』(光文社)の1作受賞と決まりました。惜しくも次点となった麻布競馬場さん令和元年の人生ゲーム(文藝春秋)については、賛否がはっきりわかれて激しい議論の応酬となったのですが(ぜひオール讀物9・10月号の選評を読んでください!)、『ツミデミック』は全委員が受賞に賛同し、満場一致の受賞となりました。
 いつものことですが、無事に受賞作を出せた瞬間は、えもいわれぬ安堵感に包まれます。同時に、特集をどうつくるかを具体的に考え始めます。
 今回、受賞記念対談をお願いしたのは三浦しをんさん。受賞決定の夜、記者会見を終えた一穂さん、お祝いにかけつけた三浦さんがそろったところで即、お願いしました。三浦さんは一穂さんが商業誌デビューなさった時から追いかけている筋金入りの愛読者なのです。お互いの作品を深く敬愛しているおふたりの対話が面白くならないはずがありません。受賞記念対談「底知れぬ物語の泉」をどうかお読みいただけたらと思います。

帝国ホテルでの記者会見風景(©文藝春秋)

 特集で、私がちょっとだけ頑張った(?)のは、グラビア撮影ですかね。
 受賞者の方には、記者会見の翌日、文藝春秋までご足労いただいて、贈呈式の打ち合わせ、各種ご挨拶、取材、写真撮影など、短時間にたくさんの用件を詰め込んで無理をお願いします。その中に、オール讀物の特集の打ち合わせ時間もありまして、一穂さんのように遠方にお住まいの方の場合、この日のうちにグラビア撮影までお願いしてしまおう、となるケースがあります。
 時は7月18日。外は40度近い灼熱の炎天。そして一穂さんはお顔を公開してらっしゃらない覆面作家です。タイトなスケジュールの中、できるだけ短時間で撮影できる場所はどこか? お顔を写すことなく、それでいて一穂さんの人間性、お仕事ぶり、作品の魅力まで読者に伝えることのできるお写真にするには? と、いろいろと考えました。その結果が、発売中のオール讀物の巻頭グラビア7頁です。
 すてきなグラビアになったのはひとえに一穂さんのおかげなのですが、私がごくわずかに頑張った瞬間は、撮影中、ほどよい木漏れ日を演出するために木の枝をもって炎天下の屋外に出て、脚立にのぼって腕を伸ばしつづけた(5分くらいですが)ことです。
 受賞者の方をお迎えするこの日、夏とはいえスーツにネクタイを締めております。この格好のまま外に立つのは、けっこう暑い。枝をもつ腕も、しだいにプルプル震えてきます。シャツを汗だくにしつつ、じっとカメラマンのOKを待つ――でも、私のへんな格好を見て一穂さんがクスクス笑うので、なかなかOKが出ない――というひと幕がございました。どんな写真になったかは、どうかオールをお手にとって、グラビア頁の最後の見開きをご覧いただけたら幸いです。

(オールの小部屋から㉖ 終わり)

いいなと思ったら応援しよう!