下品な言葉が条例違反に。規制だらけの近未来アメリカを描く『デモリションマン』
スタローン主演作では『刑事ジョー』に匹敵する珍作
『ランボー』『ロッキー』など輝かしいフィルモグラフィーで知られる名優シルヴェスター・スタローン。演技だけでなく、監督も出来て、脚本も書ける…類まれなる才能の持ち主だ。そんなスタローンの出演作の中で珍作とされる『刑事ジョー ママにお手上げ』というコメディ映画がある。敏腕刑事のもとに、超過保護な母親がやってきてスタローンがあたふたするという微笑ましい内容だ。残念ながら、ゴールデンラズベリー賞で最低男優賞と最低脚本賞を受賞したのだが、『デモリションマン』は、それに匹敵する珍作だろう。
政府に統制された2032年のアメリカを描く
『デモリションマン』は2032年を舞台にしたSF映画だが近未来の設定は恐ろしく細かい。2011年、大地震によってアメリカの都市は壊滅状態に陥る。そこでサンタバーバラ、サンディエゴ、ロサンゼルスの3都市が合併してサン・アンゼルスという都市が誕生する。サン・アンぜルスでは銃の所持や、体に悪いとされるもの(アルコール、カフェイン、チョコレート、過激なスポーツ)も禁止されている。ガソリンも禁止で、車はすべて電気自動車だ。言論も統制されており、下品な言葉を使用すると「言語倫理条例違反」として罰金を課す制度もある。
接吻や性交渉は禁止され、代わりに頭に器具を装着し、超音波脳を刺激し合う行為がセックスとされている。子どもは研究所に申請して人工的に出産される。一方で犯罪は極端に少なく、14年間殺人が1件も発生していない平和な社会だ。有罪となった囚人は冷凍保存され、刑期中、更生プログラムを脳内にインプットされ社会復帰できるようになっている。世界は「愛」と「理解」によって平和が保たれ、20世紀は“野蛮な時代”と記録されている。
殺人犯vs熱血刑事!
冷凍保存から蘇ったマッチョ2名が大暴れ
しかし、この平和は続かない。2023年、20世紀に収監された殺人者サイモン・フェニックス(ウェズリー・スナイプス)が仮釈放によって解凍される。すぐに、研究所を容赦なく殺しはじめたフェニックスに手も足もでない警察署長は、無実の罪によって収監(冷凍)されていた20世紀の敏腕刑事スパルタン(シルヴェスター・スタローン)を解凍し、犯人逮捕を命じる。
サン・アンゼルスには自由がない。住民の手にはICチップが埋め込まれており、常に監視された管理社会だ。政府に反感を持つ市民たちはレジスタンスとして、地下で生活をおくる。この窮屈な世界で解凍された敏腕刑事スパルタンは20世紀を象徴する野蛮人として未来社会で暴れまわる。決まりはすべて無視だ。
下品な言葉をまき散らし、銃を撃ちまくり、人を殴りまくり、建物を爆破する。ディスピア的世界観は作り込まれているが、ギャグが満載で、映画のテンションは常にコミカルなのだ。スタローンのアクションも最高だ。名優ウェズリーと軽口を叩き合い、銃を撃ち合い、最終的に拳で殴り合う。アクションスターの対立構造はまさに王道にして鉄板である。スタローン主演作としてもっと知名度が上がってもいいくらいだ。世界観と内容のギャップが激しく、珍作の称号が相応しい作品だが決して退屈しない。
本作はある程度未来社会を予見している。SiriのようなAIが一般化、電気自動車が普及、紙幣が使われず電子マネーを使用、会議はリモート…細かすぎるディティールもやっておくと、的中するものである。