ギャスパー・ノエ、またも不条理『CLIMAX クライマックス』
毎回変な映画を作るギャスパー・ノエ監督作『CLIMAX クライマックス』は、期待を裏切らない奇抜な映画だった。ジャンルでいえば「ダンスパニック」や「ダンスホラー」といった類いだ。
込められたテーマは「ダンス凄い」「アルコール怖い」
キャリアこそ長いが、ギャスパー・ノエの監督作(長編)はわずか5本。ほとんどの映画は絶望的な結末だ。目を覆い隠したくなるショッキング描写も満載である。
しかし、ギャスパー・ノエは尖った映像作家ではない。
意外とテーマはストレートだ。物語も全く難しくない。むしろわかりやすい。前作『LOVE 3D』では元カノとの想い出をひたすら懐古するというラブストーリーだった(しかも無駄に3Dで…)。
確かに、初期の『カノン』や『アレックス』その後の『エンター・ザ・ボイド』も含めて映像・編集面は特異な作品に見える。特に『アレックス』のオープニングとエンディングを逆転させる手法はセンセーショナルだが、メッセージは「時間は元に戻せない」というシンプルなものだった。
そして、新作『CLIMAX クライマックス』のメッセージは、「ダンスすごい」「アルコール怖い」という2つのテーマだけだ。
超絶ハイレベルのダンスシーンから地獄へ…
物語の舞台は1996年のある晩。有名な振付師によって選抜された22人のダンサーたちは雪の降る山奥の廃墟で海外公演の最終リハーサルを行っていた。練習を終えたダンサーたちは打ち上げパーティーを始まる。
サングリアを飲みながら、ダンサーたちはフロアで踊り狂う。しかし、用意されていたサングリアには何者かによってLSDが混入されていることがわかる。ダンサーたちは次第に集団トランス状態に陥っていくのであった。
今回、ギャスパー・ノエが力を入れたのはダンスシーンだ。22名のダンサーのうち、21名は演技経験のないダンサーが選ばれた。冒頭のダンスシーンは『ラ・ラ・ランド』のオープニングにだって負けないクオリティだ。
ストリートダンサーにはおなじみのサイファー(サークルになって互いのスキルを競い合う)が登場するあたりも、ストリートカルチャーを“よくわかっている”感がある。
そんなダンサーたちが、レベルの高いスキルを見せつけた中盤あたりで、キャスト、スタッフのクレジットが画面いっぱいに表示される。
すると映画は一変。LSDでラリったダンサーたちによる“地獄”が始まる。
パニック映画のシチュエーションを採用
ギャスパー・ノエは『ポセイドン・アドベンチャー』のようなパニック映画が好きだと語っている。
時代設定は1996年。舞台は山奥の廃墟。外にも逃げられない上に、携帯電話も普及していない時代は助けも呼べない。王道のパニック(ホラー)映画のシチュエーションだ。
この閉鎖的な空間で22人の男女が殴ったり、殴られたり、セックスしたり、燃やしたり、叫んだり、殺したり…惨たらしい事件が起こっていく。理不尽・不条理描写はギャスパー・ノエの持ち味だ。
撮影期間はわずか15日という低予算映画だが、ギャスパー・ノエは、前半はダンス、後半はパニックという構成でダンス映画の新境地を切り開いてみせた。ダンスシーンのすさまじさに没頭するあまり、97分の上映時間はあっという間にすぎる。刺激こそ強いが、ノエ・ファンはは必見の一本だ。