007スタジオ製作のスパイ1年目映画『リズム・セクション』
007スタジオが”スパイ1年目を描く激渋アクション
『007』の制作会社として有名なイオンプロダクションが手掛けた女性リベンジアクション。プロデューサーも『007』シリーズのバーバラ・ブロッコリとマイケル・G・ウィルソンがしっかりクレジットされている。
『007』以外は滅多に製作しないイオンプロダクションが、ブレイク・ライブリーを主演にしてスパイ小説を映画化する…本作の制作発表のニュースは大きな話題を呼んだ。
ファンの読みと期待は“女性版ジェームズ・ボンド”だったはずだ。しかし実際に出来た作品は、“暗殺者1年目”を描く、派手さのない、地味で渋めなアクションだった。
教官ジュード・ロウが新人をスパルタ教育
主人公のステファニーは、3年前、飛行機事故で家族を亡くしたショックから自暴自棄に陥り、売春宿で働きながらドラッグ漬けの毎日を過ごしている。
ある日、彼女の前に1人のジャーナリストが現れ、飛行機事故は陰謀だったと告げられる。だが、そのジャーナリストは何者かに殺されてしまう。
恐怖を感じながらも犯人への復讐を誓った彼女は、ジャーナリストの情報源だった元工作員 “B”への接触を試みる。Bの過酷な指導の下、暗殺者としての訓練を重ね、復讐の遂行を目指す。
この元工作員Bを演じているは名優ジュード・ロウ(つい最近『キャプテン・マーベル』で主人公を戦士として訓練する隊長を演じたばかりだ)。
Bの訓練はとてつもなく過酷だ。寒中水泳をさせたり、食事中にいきなり殴ったり、壁にぶん投げたり…とんでもない内容だ。しかし「一般人がいきなり殺人者になれるか…」という往年のスパイ映画への疑問符もあったりするので、過酷な訓練は必要なシーンといえる。
本作のタイトル「リズム・セクション」は銃撃のトレーニングシーンで登場する。
「リズム・セクションを使え。心臓の音はドラム。呼吸の音はベースだ。」Bのアドバイス通りに呼吸を整え、ステファニーは能力が高めていくこの場面は彼女が後に“プロの暗殺者”になる予感をさせる。
「俺を撃ってみろ!」とBがステファニーに防弾チョッキを狙わせる訓練を終え、実践へのミッションに出る。
ジェームズ・ボンドやイーサン・ハントも1年目はこうだった!?
先述した「暗殺者1年目」というのはここからだ。
訓練を経て強くなったはいいが資金が無い。暗殺のためのスポンサー集めに苦労し、情報屋との接触や交渉にも手間取り、心理戦もギリギリだ。
初めての暗殺を何とか遂行するも、逃亡ルートを確保しておらず、怪しい行動が警備員にバレバレ。焦りながらもカーチェイスで敵を撒くのもやっとだ。
もし『007』のジェームズ・ボンドなら華麗で優雅にミッションをこなしていたはずだ。しかし、本作は違う。
敵を殺すことを躊躇し、ピンチの時はパニックになる。生々しいスパイの現実だ。描かれないだけで、ジェームズ・ボンドや、イーサン・ハントにこんな若手時代があっても不思議ではない。
興行的に失敗したが、何とか続編を作って欲しい!
本作は「復讐」が大筋ではあるが、事故で自分を失った主人公が「暗殺者」として社会復帰する映画でもある。イギリスの小説家マーク・バーネルの小説版ではステファニーが主人公のシリーズが「Rhythm Section」の他に3作品ある。
もし続編が作られれば、今回は弱かった1年目のステファニーが経験を積み、さらに強くなったら『007』のような映画になっているかもしれない。だが、本作は5,000万ドルの製作費を投じて、worldwideで598万ドルという大滑りをした作品なので、きっと見ることはできないだろう…残念だ。
いくら興行的には失敗でも、この映画は嫌いじゃない。
確かに地味だが、銃撃戦も肉弾戦もハイレベルで力強い。ブレイク・ライブリーが撮影中に腕を骨折するくらいガチのアクションだ。ブレイク・ライブリーのファッションもいい。薬物中毒で、貧乏ゆすり、地味でダサいシャツ、変なチリチリ髪…ライブリーのルックスやスタイルに頼らない演出にも好感が持てる。
『ゴシップガール』とは真逆のアプローチだ。日本ではVOD配信やビデオスルーになったので『007』のようなハイクオリティな映画を求める方にお勧めだ。
映画
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