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引っ越しの準備の手伝いを終えて床にひろげるオリジン弁当|郡司和斗【一首評】

数ある好きな短歌から、今日はこちらの短歌をいただきます。

引っ越しの準備の手伝いを終えて床にひろげるオリジン弁当

引用:郡司和斗「遠い感」|短歌研究社(2023)

ほかの短歌鑑賞(一首評)は、こちらからどうぞ。


STEP1:ひとくち食べた印象やイメージ


「オリジン弁当」は、昔よく行った。

同棲していた元カレの家の近くにあった。

いっしょに帰って、その帰り道でオリジン弁当に寄った。

コンビニではなく、ほかほか亭でもなく、オリジン弁当がちょうどよかった。

***

オリジン弁当は当時、おかずが少しずつ入る小分けのトレイがおいてあった。食べたいお惣菜を自分でトレイによそい、そのトレイをレジに持っていくと、量り売りしてもらえた。

調べてみたら、どうやら今もそうらしい。

「オリジン弁当」は、1994年に、自分で自由に選べる量り売りのお惣菜がある新しいお弁当屋として誕生しました。店内調理にこだわり、毎日お店で作っている40種類以上のお惣菜をショーケースに並べ、30種類を超えるお弁当は、オーダーを受けて調理し、できたてをお渡ししています。

引用:店内調理で美味しいお惣菜とできたて弁当|オリジン弁当

コンビニやほかほか亭みたいに、ひとりで食べるお弁当が基本スタイルではない。もちろん、ひとりで食べるお弁当も買える。買えるけど、だれかと一緒に食べやすい仕組みになっている。

オリジン弁当を求める時は、だいたい誰かと一緒にいる時だった。

少なくともわたしの場合は。

***

「オリジン弁当」という単語は、なんだか不思議だ。

「オリジン弁当」は店名のこと。「オリジン弁当」って言ってはいるけど、弁当そのものよりは範囲が広い。

「オリジン弁当」には、一人用のお弁当ももちろん入るけど、おかずの集合体のトレイも入る。

ここで、「オリジン弁当」の代わりに「コンビニ弁当」という単語と使ってみる。

すると、急に範囲が狭くなる。

「コンビニ弁当」という単語は、明らかに店名の「コンビニ」とは違うし、弁当とつけただけなのに、そこに含まれないものがたくさん生まれてしまう。

例えば「コンビニ弁当」には、「コンビニで買った菓子パン」は入りにくい。さらに言えば、「コンビニで買ったおでん」も入らない。おでんはおでん。弁当とは違う。

「コンビニで買ったホットスナック」も、弁当だと思っている人…いるかなぁ。あくまで個人的なイメージかもしれないけど、やっぱり「コンビニ弁当」には入れられない。

なんだかんだで、「コンビニ弁当」はごはんなどとセットになったおかず、それも多くの場合は一人用を連想させるのだ。

***

引っ越しの準備の手伝いを終えて床にひろげるオリジン弁当

引用:郡司和斗「遠い感」|短歌研究社(2023)

引っ越しの準備の手伝いを終えて床に「ひろげる」としたら、それはオリジン弁当だろう。

コンビニ弁当は「ひろがらない」。

ひとつ、ふたつ、もっとあるかもしれないけど、それはおそらく人数分だ。


STEP2:食べ続けて見えた情景や発見


引っ越しの準備の手伝いを終えた作中主体は、一体だれなのだろう。

「引っ越しの準備」なのだから、引っ越す人はこれから遠くに行ってしまう。「手伝い」なのだから、一緒に行く予定の家族や同棲中の恋人ではなさそうだ。

でも、この歌全体からはさみしい気持ちはにおわない。

床にひろげた色とりどりの食べ物が、むしろ楽しそうな気持ちをにおわしている。

これでお別れというよりは、これからもずっと一緒にいる人(もしくは人達)のような気がする。

***

おそらく引っ越すのは仲の良い友人、もしくは付き合っている恋人で、引っ越し先もそれほど遠くない。

むしろ、引っ越す先で一緒に住む予定の可能性もある。

きっと、これからの未来のほうが近くなる相手だ。

「床にひろげるオリジン弁当」のせいで、これっぽっちもさみしくない。

どなただかわからないが、これからもずっと仲良くされることを勝手に願っている。


まとめ:好きな理由・気になった点


・弁当なのに「個人用」ではない単語「オリジン弁当」の特殊性
・「床にひろげるオリジン弁当」でにおう作中主体と相手の関係


とても好きな短歌のひとつです。

ごちそうさまでした。


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石井しい
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