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水彩画のヴァリエーション
透明水彩画というと、私は若い頃は細密画に近いものばかり描いていました。細密画は、細かく描けば描くほど、時間はかかりますが、その分、満足度は上がります。とても気持ちが良いものです。
しかし、70歳を過ぎた頃から、私にとって、細密画を描くのは難しくなってきました。
というのは、視力が落ちてきたこと、根気が長くは続かなくなってきたこと、また、筆が思った方向になかなか動いてくれなくなってきたこと、などの理由からです。
とういことで、やむを得ず、画風を変える必要が出てきました。とにかく、荒っぽい、大雑把な画風の絵に変える必要があります。
写実画と装飾画
私の場合、今のところ抽象的な絵はまったく描く気がありません。つまり、具象的な絵しか描きません。具象的な絵というと、大別して、写実的な絵と装飾的な絵に二分されます。
私の場合、荒っぽい、大雑把な絵ということで、写実的な絵よりも装飾的な絵に向いているのではないかと思います。
といっても、装飾的な絵にもいろいろな種類があります。どんな装飾画が自分にあっているのか、簡単にはわかりません。
一枚の写真から複数の絵を描く
そこで、一枚の写真から、いろいろな表現の透明水彩画を複数枚描いてみて、自分の好みや特性を調べる、といった試みをしばらく続けてみることにしました。
実際に始めてみると、これはとても楽しい作業だということがわかりました。若い皆さんも試しにやってみたら、面白いのですよ。
たとえば、以下の写真を元に描くことにしました。
(『素材辞典イメージブック4』(株式会社データクラフト発行)より)
この写真から、鉛筆で下絵をクロッキー用紙または画用紙に描いて、それを水彩紙に転写し、それに水彩絵の具で色をつけて、それぞれ違う表現で絵を仕上げることにします。
2種類の手順
これの手順をまとめると、
クロッキー用紙に鉛筆で下絵を描く
→ カーボン紙で水彩紙に下絵を転写する
→ 色を塗る
または
画用紙に鉛筆で下絵を描く
→ 画用紙からトレーシングペーパーへ下絵を転写する
→ トレーシングペーパーから水彩紙に下絵を転写する
→ 色を塗る
の2種類の手順が考えられます。
下記は、上記写真から作った鉛筆下絵です。
(鉛筆下絵 用紙: muse CROQUIS B4 Q-0354)
これを、転写紙を使って水彩紙に転写すると下図のようになります。
(水彩紙に転写した下絵 転写紙; ゼネラル・ゾル・カーボン紙 藍色、水彩紙: アヴァロン 中目 SM)
この下絵に絵の具を塗って、写実画1種、装飾画3種を描きいてみました。
3種類の装飾画
装飾画3種というのは、次のようなものです:
装飾画1 ぼかしを多用した、もっとも透明水彩画らしい装飾画
装飾画2 筆触を強調した、印象派的な、装飾画
装飾画3 線描を主に使った、墨絵やイラストレーションのような、一色の装飾画
この3種の装飾画を組み合わせれば、たいていの透明水彩の装飾画は網羅できるのではないでしょうか?
下図は写実画の完成例です。細密画ではないので、この程度の荒い筆致の絵になりました。
写実画
(水彩紙: アヴァロン 中目 SM 2019年)
ここで使用した絵の具は、ホルベイン固形水彩絵具・透明ケーキカラー24色セットです(下図参照)。私は、チューブ入りの水彩絵の具はほとんど使いません。
使用した筆は、下図のとおりです。
(上から、日本画用の菊花面相 大、ラファエル(Raphaël)製の6号丸筆8404 コリンスキー毛、日本画用の彩色(さいしき)筆(羊毛、大) 2本、デザイン用平筆 7号)
次に、装飾画を3種描きます。
今回も、下絵は、上記に示した写実画の下絵と同じものです。
装飾画1
まず、ぼかしを多用した、もっとも透明水彩画らしい装飾画を描きました。
水彩紙全体に水を塗っておいて、水が乾かないうちに絵の具を塗ると、このようなぼかしができます。こういう絵は、なれないと大失敗をしますが、コツさえわかれば短時間で描けますね。
装飾画2
次に、筆触を強調した、印象派的な、装飾画を描きました。使用した下絵は、写実画で使った下絵と同じものです。
写実画を更に簡略にすると、このような装飾画になります。
このような絵もコツをつかめば短時間で描けます。
装飾画3
最後に、線描を主に使った装飾画を描きました。これは、墨絵やイラストレーションに近い雰囲気の絵になります。使用した下絵は、写実画で使った下絵と同じものです。絵の具はブラック一色だけを使いました。
このように、1枚の写真から数種の絵を描ける技術を持っていると、絵の内容に合わせて技法を選べますので、とても便利です。
毎回こうした数種類の絵を描く必要はありませんが、このような練習を続けてゆけば、得意な技法を選ぶ際のヒントになるのではないかと思っています。
まとめ
年をとって細密画を描くのが難しくなったので、年齢相応の簡略な絵を描きたいと思い、画風を変えるための模索を始めました。
写実画と装飾画、それぞれ味わいが異なり、いろいろ試してみるのも楽しいものです。
最後に、透明水彩の写実画と装飾画の違いを簡単に考えてみます。