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鷲羽山遺跡巡り①

以前岡山に行った時の事を書きます。2019年の冬の半ばを過ぎた2月に、岡山県鷲羽山近辺に一人旅に行きました。鷲羽山近辺は旧石器時代の遺跡が、海岸周辺の丘陵上に点在しています。この辺りの遺跡では、主に海を渡った坂出市国分台や五色台周辺で産出するサヌカイト(讃岐岩とも呼ばれます)でできた石器が多数見つかっています。サヌカイトは古銅輝石安山岩の一種で、1400万年前の火山活動でマグマが冷えて固まったものです。硬くガラス質で、縞目に沿って割りやすい性質から、旧石器から弥生時代までの石器の材料として重宝されていました。サヌカイトは香川周辺だけではなく、奈良県と大阪府野境にある二上山にも産出し、関西から四国、中国地方はサヌカイトの石器文化圏とも言えるほど愛用されていた石材です。僕は奈良の大学で旧石器考古学を専攻していたので、二上山のサヌカイトはとても馴染みのある石でした。最近は宅地開発などで見つけにくくはなりましたが、当時は何度も二上山に通い、サヌカイトの原石採集や旧石器を採集していました。しかし、同じサヌカイトでも、香川のサヌカイトの石器に触れる機会が無かったので、いつかは実物を見てみたいと思っていました。

倉敷考古館にて

発端は今から10年以上前の事になりますが、倉敷へ旅行に行った時、美観地区の真ん中の倉敷考古館に訪れました。当時は大学を卒業した後で、考古学から距離を置いていました。倉敷考古館は非常に小さな資料館ですが、雰囲気のあるナマコ壁の土蔵にぎっしり吉備地方の考古資料が展示してあり、特に鷲羽山周辺のサヌカイトを石材とする旧石器資料が豊富に展示してありました。鷲羽山の石器に使われたサヌカイトは同じサヌカイトでも、見慣れた二上山のサヌカイトとは質感が違う感じで、表面に凹凸があり、ザラっとした質感で縞状に石の目があるため、板状に割れやすそうな感じでした。今から1〜2万年ほど前は最終氷期で海抜が今より100メートルほど低く、瀬戸内海は歩いて渡れたようです。サヌカイトは人が歩いて鷲羽山まで持ち込まれたのです。

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上の写真が倉敷考古館。昭和25年クラボウの大原総一郎さんらによって設立されました。下の写真がサヌカイト製旧石器です。倉敷考古学HPより。http://www.kurashikikoukokan.com/exibits.html#

その時は考古学から距離を置いていた時期でしたので、長めに時間を取って見学していましたが、実際に鷲羽山に行く気持ちはなく、目の保養をしただけで帰りました。

櫃石島が気になる

2019年の冬、鷲羽山に行く事にしました。また、鷲羽山から伸びる瀬戸大橋で通る一つ目の離島も目的地の一つでした。この頃には考古学への興味が再燃しており、香川へ旅行に行った時に瀬戸大橋の上から見た橋の下に見た「櫃石島ひついしじま」という島が気になっていたのです。旧石器の研究をしていた時に、主にサヌカイトのナイフ型石器という狩猟用具の製作技法として、「櫃石島技法」という(石器の材料の割り方の技法)名前を知っていました。そのため、マリンライナーに乗りながら瀬戸大橋の上から櫃石島を見て、「こんな小さな島に旧石器の遺跡があるんだ。気になるなぁ。」と頭の隅にずっとあったのです。そして、ネットで櫃石島について調べてみると、櫃石島は塩飽諸島の離島ですが、瀬戸大橋があるにも関わらず、島民以外は自家用車では乗り入れられず、路線バスでなら行ける場所という不思議な場所であるのを知ったのです。「離島なのに路線バス?」というギャップと、なんだか近くて遠いエアポケットみたいな場所に行きたくなったのです。

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まずは宮田山遺跡へ

1泊2日の旅行は、まずは京都から新幹線で岡山へ行き、バスに乗り換えて鷲羽山の東にある宮田山遺跡という遺跡に行く事にしました。ここも鷲羽山近辺に広がる旧石器時代遺跡の一つで、風光明媚な海水浴場の後ろに面した小高い山の上にありました。この近辺は花崗岩地帯で、花崗岩が風化し、砂状の真砂まさと呼ばれる状態になっている山肌の露出した土壌が広がっており、宮田山遺跡はその風化の途中といった状況でした。そのため、砂地の足元が滑りやすく急勾配で、ネットで調べるとイノシシも出るとの事で、軽い気持ちで来たのが「これは遭難したら、本当にシャレにならない。」と、一気に緊張感をもって臨みました。

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宮田山の上から

冬なのに汗だくになってようやく山の上まで辿り着きました。そもそも登山道などの無い何の変哲もないその辺の山なので、人気もありません。山の上は少し平らな部分がありますが、風化や侵食によってか思っていたよりも人が住む場所という感じではありませんでした。恐らく旧石器時代の遺物を含む包含層は雨風で侵食され、流れてしまっているかも知れません。色々巡って足元を見ても、僅かなサヌカイトの欠片はあっても石器と言えるものは見当たりませんでした。しかし、山肌の剥き出しになった部分に取り残されたように花崗岩の巨石が点在しており、その上に登ってみたりして上からの眺めを楽しんでいました。巨石好きにはたまらない風景でした。

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岩の上に登ると、汗は一気に風で冷やされ気持ち良い。転げ落ちたらと思うと、肝を冷やします。海岸から見たら、結構な高さです。旧石器人はここでナウマンゾウとかオオツノジカが来るのを上から狙って、キャンプをしていたんでしょうか。

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結局、僅かな石器の痕跡を見たのみで下山し、海岸でバスを待って休憩しました。海岸では子供達が遊んでいたり、猫がゴロゴロしてたりと、冬だけど少し暖かくのんびりした時間が流れていました。「こういう時間好きだなー。」って思っていたら、自分の2メートル後ろくらいをチャッチャッチャッと何かの足音がしたので、何となく振り返ると「イノシシ!」。

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あまりに自然な感じでその辺にいるのに驚きました。時には命に関わる怪我を負う事もあるので注意しないといけません。本当に山の上で出会わなくて良かった。その後は何処かに姿をくらましていましたが。

1日目はこれにて目的地を見れたので終了。バスに乗って岡山駅まで戻り、その晩は炉端焼きの居酒屋で瀬戸内のお魚とお酒を味わって、ホテルでぐっすり寝たのでした。

鷲羽山遺跡巡り②に続く


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