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業務日誌202411_1 街裏ぴんく著『虚史平成』(と書籍版『奇奇怪怪』)

 先日、『虚史平成』(街裏ぴんく著、CDジャーナル)をご恵贈いただいた。

『虚史平成』

 TBSラジオで放送された街裏ぴんくさんの同名番組を書籍化したものだが、収録された虚実ないまぜの平成史はもちろん、脇を固める図版や企画や仕掛けの一つ一つにいたるまで素晴らしく技が決まっており、番組を超えて街裏さんの芸の精髄やそのたたずまい――同番組プロデューサー・松重暢洋さんが本書跋文で絶妙に言い当てているところの「存在のトロみ」と「生温かさ」――が見事に書籍化=本という形で表現されている、ちょっと類を見ないものだった。

 献本を手配してくださった編集担当の富岡蒼介さんによると、この本を作るに当たってベンチマークとなったのが、小社創業一冊目の書籍版『奇奇怪怪』(TaiTan/玉置周啓著、石原書房)だったのだという。
 なるほど本文の組み方には川名潤さんによる『奇奇怪怪』の超絶技巧組版の遺伝子が感じられるが、それが「街裏ぴんくの芸を活字で成立させること」に奉仕する形にこなされていて、本文以外の要素とともに「(音声でオリジナルが聴けるものを)活字にしてどうする?」というもっともな疑問への極めて具体的で洗練された回答になっている。感嘆した。

 このような形で、「○○(これまでに自分が作った本)を企画の参考にしました」と言ってもらえることがごくたまにある。
 仕事はリリースされた瞬間ただちに独自な運動を開始するので、それが思わぬものに繋がって不意に目の前に帰ってくることがある。自分の仕事がしっかり一人歩きして見知らぬ他者と関係を結び、驚くべきことにその仕事の触媒になってもいるということが実感できた時、刊行した本を読んでくださった方の感想に触れた時とはまた違った嬉しさと充足感を覚える。

 その書籍版『奇奇怪怪』を刊行して一月ほど経った2023年9月中ごろ、出先で都内某駅の改札を出たら、私のすぐ前を街裏ぴんくさんが歩いておられた。
 年来街裏さんの芸には魅了されていて、そのすこし前にTaiTanさんと玉置周啓さんの番組「脳盗」(TBSラジオ)で企画された「脳盗王」で街裏さんが王者となったことを知っていたので(『虚史平成』はそのグランプリの特典として始まった番組である)、図々しくも声をかけてしまい、書籍版『奇奇怪怪』を編集した者です、とあいさつすると大変丁寧なごあいさつを返して下さり、歩き去られる後ろ姿を振り返ってしばし見惚れていた。それから半年後のR-1グランプリ2024で、街裏さんは優勝を果たすことになる。

「R-1に夢はあるんですよ!」とあの舞台で絶叫した街裏さんのように、私も自分が仕事としていることには、個人的な充実感や面白みだけではなく夢もあると言い張りたい。その断言が重さと力を持つためには、やはり街裏さんのように頭脳を含む身体を目一杯使って地道によい仕事を積み上げ、遠くに見え隠れする緑牛駅を目指して自分の足で歩いてゆくしかない。

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