即興短編2『雷雪-らいせつ-』
前回に引き続き、辞書を引いてキーワードを決める。
今回は『竜虎』だった。え、なに竜虎って。
人生で戯曲のなかに『竜虎』って書いた記憶が一度もない・・・
----ここより作品----
『雷雪-らいせつ-』 石原美か子
登場人物
男 将校
女 将校(男の敵対勢力)
男の部下
女の部下
古城か屋敷のような廃墟。その一室。
舞台奥に崩れた暖炉。もとは高級品であろう椅子が散乱している。
天井に穴が開いているのか、雪がちらちらと落ちて来る。
椅子を向かい合わせ、腰かけている男と女。
それぞれ違う軍服を身に着けている。
傍には部下が直立不動で立っている。
男 あいにくのお天気で申し訳ない。
女 いや、雪を見るのも久々なので面白い。
男 ほう、あまりこちらにはいらっしゃらない?
女 敵地のど真ん中ですから。
男 たしかに。
男、部下に手で合図をすると、部下が出て行く。
女も同じく合図をし、部下が出て行く。
女 手短に済ませましょう。
男 暖炉の前で凍え死ぬのは悔しいですからね。
女 本日未明、南の国境近くで、我が軍とそちらの軍が激突した。双方とも総司令官が率いている、事実上の総力戦である。
男 ええ。
女 ・・・手はず通りだ。で?
男 突如乱入した属国不明の第三勢力により戦況は混乱、双方の総司令官は部隊から引き剥がされ、消息不明。・・・予定通り。
女 今夜、双方の国は揺れるだろう。竜虎相討つ、と。
男 ええ、そして眺めていた漁夫が利を占める。
女 爪も牙もない漁夫はこうするしかない。
男 ・・・ずいぶんと長かった。
女 ・・・ええ。
男 あの英雄たちのせいで、どれだけ戦が長引いたか。
女 拮抗した力はむしろ地獄を作る。国はもうボロボロだ。
男 こちらも同じ。どこから手をつけたからいいか。
女 あなたなら上手く導けるはずだ。
男 あなたこそ。
女 本来の英雄はあなたでしょうな。命を掛けて私に働きかけて下さった。お互いの国が平和になった暁には、あなたを英雄として我が国民に伝えたい。
男 私の申し出を承諾したあなたの勇敢さを、私もいつか国民に伝えましょう。
女 しかし、それは・・・
男 お互いがこの世を去った後。
女 これでもう、お会いすることもない。
男 ええ。私とあなたは出会ってもいませんから。
二人、握手を交わし、立ち去ろうとする。
そこへ突然、稲妻が照らす。
続いて雷鳴。
女 雷?
男 ええ。
女 雪が降っているのに?
男 このあたりでは冬の雷は珍しくありません。
女 冬の雷・・・
そこへ、男の部下が走り込んで来る。
男の部下 申し上げます!
男 何事だ?
男の部下 消息不明となっていた我が軍が見つかったとのことです。総司令官も生きていると!
男 なんだと。
女の部下、走り込んで来る。
手に新聞を握っている。
女の部下 申し上げます!
女 どうした?
女の部下 我が軍の総司令官も生きています。しかも軍を率いてここへ向かっています!
女 なに?
女の部下 国境近くでは、これがばら撒かれていると・・・
女、新聞を引ったくり、目を通す。
呆然と立ちすくむ。
無言で新聞を男に渡す。
男 ・・・まさか。
女 ばれていた、我々のことが。
男 馬鹿な。あの二人が・・・
女 手を組んでいた。どうして気づかなかった!
男 どこだ、どこから漏れた!
男、新聞を破り捨てる。二人、力なく椅子に沈み込む。
紙片の上に雪が降りしきるのを、しばし見つめている。
女 ・・・漁夫がいるのでしょう。
男 漁夫?
女 我々のほかにも。
男 ・・・なるほど。そいつのせいで、今度は我々が竜か虎にされた。
女 光を浴びた英雄も、国を裏から動かす陰も、ともに目障りなのでしょう。
男 そこで相討ちになれば万々歳と。思い当たる人間が1ダースほどいるな。
女 私もです。そうとわかれば、ここで火のない暖炉を眺めている場合ではない。
男 堂々と火の灯る会議室へ移るとしましょう。
二人、立ち上がる。
再び、稲妻が光る。すぐに雷鳴が響く。
女 真上か。
男 冬の雷は音もなく近づいて来るのです。
二人、部下を率いて出て行く。
部屋の中に降りしきる雪。
暗転
---自分感想----
・小説と違い、戯曲は竜や虎を気軽に登場させられないので難しい。
・長い作品の1シーンだけ抜き出したようなやつにしたい願望。
・ずっと関東在住なので知らなかったが、冬の雷は北海道や日本海側ではよく発生するらしい。勉強になった。
・私にとって「竜虎相討つ」と対になるのは「漁夫の利」なのだな、と自分でちょっとびっくり。
次回作品の資料代や取材費用にさせていただきます。よろしくお願いします⇩