リーダーシップについて
昨今、いろいろな所で日本のビジネスパーソン(主に管理職)のマネジメント力・リーダーシップの不足が指摘されて来ていますし、私も感じます。9/20に発表されたスイスのビジネススクールIMDのまとめた「世界人材ランキング2023」によると、日本の人材ランキングは64か国・地域の中で43位となり、過去最低に低下したそうです。日本は特に「有能な上級管理職」が62位で、管理職のスキル不足が指摘されます。
時間はかかりますが、もともと優れた資質にあふれる日本人ですから、この弱みを改善すれば日本はもっともっと強くなれるように思います。
私自身の社会人経験ですが、他の方々に比べれば決して経験豊富な方だとは思いませんが、これまでそれなりに多様な環境で働いて来ました。
●グローバルな日本の伝統的金融機関で役員・部長・課長・・・等 の階層の中で長く働く。
●米国のフラットな小ベンチャー組織で外国人上司のもとで働く。
●グローバルな外資金融機関の日本法人で外人トップや外人役員とともに働く。
●マトリックスマネジメントの中で複数上司にレポーティングしながら働く
●異文化・異言語の人たちと一緒に働く
●大きな時差で隔てられ、対面コミュニケーション・リアルタイムコミュニケーションがままならぬ中で働く。
・・・等々。
以下、こうした自分自身の経験を通じ、またさらに昨今大小さまざまな会社や組織に外からコンサルタントなどとして関わりながら感じたことをもとに書きます。
リーダーシップはマネジメントとは違います。また、決して管理監督そのものではありません。どこまで自分が課題達成全体に対して主体性と責任を持てるか、言い換えれば「オーナーシップ」の強さとも言えます。部下がやらない、やれない時、社内で他の人にアサインし直したり社外からできる人を採用したり、あるいは最終的にはその目的に照らして真に必要な部分を優先して自分自身でやる、等、代替手段を含めとにかく最後まで自分でやり切る執念。
・・・もちろん、一定の権限やリソースを与えられなければ発揮できない部分も多いのですが。
自分のキャリアを振り返ってみますと、日本の大企業にいた40代、管理職になってまだあまり経験がなかった頃、大きな組織を任されながらもどうもしっくりせず、うまくいかない感覚を持っていた時期があります。今でもその頃のことがありありと思い出されます。たぶん、その頃の私は日本の大企業でリーダーという職にありながらも、本当の意味のリーダーではなかったのだと思います。「他人に任せる」ということがどういうことなのか、どういう任せ方をするのが適切なのか、など、自分の中に疑問や迷いがあったように思います。今ならもっとうまくやれる気がしますが、時間は前に進むのみです。
若くしてリーダーシップを持てる人間はさらに成長できます。
・まずは大きな目的(最近風に言えば “purpose”)を理解し、何が必要なのかを全て俯瞰的に調べて優先順位を考え、必要なリソースを見積もって確保する。
・スピード感を持ってアジャイルに実行し、1段階ごとに必ず次のステップで何をすべきかを考える。
・そして常に現状確認し、振り返り、先を見て都度軌道修正する。
・時には勢い余って自分の役割をはみ出してまでやろうとする。
主体性のない人間はリーダーシップを持てず成長できませんし、人頼みではリーダーシップは発揮できません。また、一定の範囲で「任せる」のもリーダーシップの一部ですが、業務を「手放す(任せきりにする)」こととは全く異なります。リーダーシップを発揮しながら行う適切な「任せ方」があります。
リーダーシップは「組織」に関するものではなく、あくまでも「人」の姿勢・資質の問題なので大企業でも中小企業でも同じです。そしてまた少し観点が異なりますが、現在は「女性の時代」だとも思います。これは世界的に(特に日本で)女性が伝統的に不利益を被ってきたことに対する反省・見直しであり、良いことです。様々な面で多様性を認めていかないと、企業は強くなれません。
多様性を推進するのも男女を問わず、リーダーの役割と言えます。
リーダーシップの資質獲得には経験を積ませることが最も重要です。いくらこの文章を読んでも身につきません。
大会社であれば、ステップとして子会社の社長を任せるなどが最も有益な手段です。
そして横から見本を見せること。
これは小さな会社であっても可能です。小さなプロジェクトでも責任者・リーダーを任せ、いつでも見ていて失敗したら早めに反省させることが大切です。
こうしたことの積み重ねが人を育てることにつながるのだと思います。
ピーター・ドラッカーの「企業文化は組織にまさる」というコメントを待たずとも、「人を育てる文化」が企業規模を問わず、特に日本の企業には喫緊の課題なのだと思います。
近年、日本では労働時間管理の過度な厳格化や中間マネージャーの力量不足などによって、特に大企業で若手の教育がおろそかになり、さらにリモートワークでコミュニケーションも不足しがちになって、「ゆるすぎる職場」が増え、成長させてもらえないが故に逆に若手退職者が増えているということも聞きますが、とても残念なことです。
リーダーシップは知識ではないので、その獲得は、単に研修を受ける等では望めません。
そしてどうしても時間がかかります。
経験が重要ですが、最初は誰もが経験を持っているわけではありません。
人の話を聞くことや本を読むことも役に立ちますが、良い見本を間近で見ることも大切です。しかし「見本となる人とともに一緒に働き、自分でやってみること」が一番です。私の場合、過去、いくつものいい経験をさせてもらいました(良い例が大部分でしたが、反面教師に出会ったことも皆無ではありません)。
そして自ら変わるためには、素直で健全な志と意欲を持っていることが大切であり、若ければ若いほど効果はあると思います。
「鉄は熱いうちに打て」・・・これもその昔、師から情熱を持って教えていただいた時のメッセージの一つです。
先日、湘南の、とある場所で飲んでいた時にカウンターの隣に座ったアメリカ人の中年女性教師(フロリダから日本に来て近くで小学5年生に教えている)は、「11歳という年齢は影響を与えるのに最良の年齢」と言っていました。私自身の経験を踏まえ、完全にagreeしました。私もその年齢でとても良い先生に出会えたことは幸運でした。
しかし小学生でなく社会人であっても、もちろん成長の機会は常にあります。若ければ若いほど良いですし、そうでなくても本人にその気さえあれば、何歳でも成長し、リーダーシップを身に付けることはできます。そしてリーダーシップを身に付けた後の成功体験は、別の失敗の経験・反省とともに、さらにその人を成長させるに違いありません。
かの中年女性教師はアメリカ国内の最近の情勢に辟易して(”too much hate”)日本にやってきたとのことでしたが、日本の美点としてまず第一に「勤勉に働く倫理性(Work Ethic)」を挙げていました(注)。
(注)ちなみに、他の二つは以下のとおりでした。
・Excellent Train System
・Technology including robot / AI
これら三点は、30年前に比べると多少衰えている面はあるかもしれませんが、引き続き日本の素晴らしい美点であることに全く異論ありません(なお、食事がすばらしいこと、そして最近は国際的に極めて安いことも追加しないといけません)。
平均的に極めて勤勉な日本人ですから、若者もビジネスパーソンもさらにリーダーシップ・オーナーシップを持つようになったら日本は全体としてもっともっと良くなると信じて疑いません。
リーダーにはビジョンと行動力が必要です。また評論家でもいけません。口先だけで自分で行動できない人は見本になりません。いつでも自分でもやれるが、それを他人に教えながらやる、そういう姿勢が大事だと思います。そして任せっぱなしにするのではなく、メンバーを頼りにしながらもしっかりとサポートしアドバイスし、軌道を確認させ、修正を手助けすることが重要です。
リーダーを引き受けさせる事は本人のプレッシャーにもなりますが、適切な進め方を身に付ければ成長を実感できて自信にもつながり、会社へのエンゲージメントも高まります。これはひいては組織として離職率の低下にもつながります。
そして社内各所で大小各々さまざまなリーダーシップが見えるようになった時、その会社は持続的に成長できる状態になったといえ、次のステージに進むことができると思います。
その時点で重要な企業文化の一つができたと言えます。
業種業態によって様々ではありますが、規模を問わず日本の企業が今後もますます成長発展して行くためには市場・人材・経営等あらゆる局面で、多かれ少なかれグローバルな視点、多様性の視点を持つ必要があります。それをリーダーシップと自信を持って進めていける若い有能な人材が日本の様々な企業で増えていってほしいと思います。
「中小企業の生産性が低い」などという評論家の一般的なコメントには私は興味ありません。私と接点(ご縁)のある「日本のごく一部の」会社や組織の心ある方々が自社・自組織メンバーのリーダーシップを開発し、強みをますます発揮して世界で発展していくことを願っています。
「人を変える」などと言うおこがましいことは全く考えていませんが、「人が自分で気付いて変わる」きっかけを提供することぐらいは微力ながらも引き続き私にもできると思っています。そうしたことを通じて周囲の人々(特に若い方々)の成長に少しでもお役に立てるのであれば、幼いころからこれまで私に良い影響を与えてくれた方々への恩返しになると思っております。