だから、雰囲気
星野源さんが「何か創り出そうぜ」と歌い出したとき、私も何かを創り出していた。『雰囲気』という読み切り漫画である。
年明けくらいだっただろうか。久しぶりに漫画を描こうと思った。どうせ描くなら、いつものようなギャグ漫画ではない何かを描こうと漠然と思い、ペンを走らせようとしたのだが、重大なことに気がついたのだ。
「あ、そいえば、画力なかったわ…」
ギャグ漫画でさえその画力をごまかしきれていなかったのに、他のジャンルの漫画となれば、そもそも描き上げることができないのではと気づいてしまったのである。
しかしここからが私の真骨頂。想像力というか、非常識の提案というか、あまりキャラクターを描かない漫画にすれば何とかなると思ったのだ。そんな漫画ないだろうし。それを漫画と呼んで良いのかわからないが、独(いち)を創り出すのだから、これでいいのだと。
そこで私が創造したのが、空気をメインキャラクターにした漫画である。主人公は空気だから、無色透明、姿がない。つまり、描かなくてよいのである。もうこれは発明と呼べるかもしれない。この柱(鬼滅じゃない方)が決まったらあとはすんなりとストーリーが見えてきたので、まずはラフをバーっと描き出してみた。実際の漫画を見て「え?これってラフじゃないの?」と思った方も多いかもしれない。気持ちはわかるが、それはラフではないのだよ。
※ここからはネタバレを含むので、まだ読んでいない方は先に漫画を読んでほしい。
主人公の鳴(なく)は、人間界から空気界に来たが、平和すぎる空気界に飽きて人間界に戻りたがっていた。毎日良いことも悪いことも様々な出来事がある人間界の方がなんだかんだ言って楽しいや!で終わるのが普通というか、救われるような気持ちになるが、この漫画は空気界に残るところで終わる。鳴にとっては空気界の方が良かったのだ。その理由はあえて描いていない。鳴はなぜ残ったのだろうか。この先どうなるのだろうかは自由に想像して創造して楽しんでほしい。ちなみに私は、何となく残ったんだと思う。なぜなら名前が南塔鳴だから。