さよなら、わたしのお姫様(2)
2023年10月13日、愛猫を亡くした。
16年間、一緒に生きて生活した家族だった。
前回記事はこちら。
10歳差の猫たちの追いかけっこを、
いまでも懐かしく思い出す
我が家の二匹の猫たち、白猫は16歳、黒猫は6歳だった。
若い同居猫の黒猫が遊びに誘うと、大抵は面倒くさそうに追い払うが、何回かに一度は付き合って、激しい追いかけっこをしていた。
年齢差が10歳もある二匹が互角に追いかけっこする時点で十分驚きだが、白猫氏のほうが、ずっと立場が強いのも面白い。いつも黒猫氏が逃げる側で、白猫氏が追いかける側だった。
見かけるたびに「まだあんなに走れるんだ…」と感心したものだ。
黒猫は、生後2か月くらいの頃に夫が助けて連れ帰った元野良猫だ。
おそらく母猫が深い場所に落としてしまったあとに引き上げられず、見捨てられてしまったようだ。まだ足元もおぼつかないくらいの子猫だった。
我が家にはすでに10歳の白猫がいて、もちろん、真っ先に考えたのは白猫のことだった。黒猫の健康診断がすべて終わるまでは二匹を完璧に隔離して、その後も白猫のストレスにならないように少しずつ慣らした。
残念ながら、そう仲良しの二匹ではないものの、一定の距離を保ちながら、同居猫としてそれなりに悪くない関係を築くことができた。
2023年8月25日
6月に病院で2回の点滴をしてもらった後、
白猫氏はすこぶる元気に過ごしていた。
腎臓ケア療法食のサンプルを大量にもらってきて、ひとつづつ、彼女にあげてみるのは楽しかった。
ずっと家の中で過ごす飼い猫にとって、ごはんの時間って、きっと一番の楽しみなのだと思う。旅行もイベントも好まない猫たちにしてみれば、毎日いろんな味のごはんが出てくるというのは、一種のレジャーだったんじゃないだろうか。ちょっとした贅沢をさせてあげられているような気もする。彼女が喜んで食べてくれるのを見て、私も単純に嬉しかった。
腎臓病の猫の常だと思うが、彼女もずっと口内炎があったようで、時々、大粒のカリカリが食べづらい状況になっていた。ドクターズ・ケア「キドニーケア」の粒はとても小さくて、口が痛い時でも、これなら食べやすそうだった。お肉の好きな彼女は、チキン味を喜んだ。
今年の夏はめちゃくちゃに暑かった。高齢の白猫氏には堪えるだろうと、一日中、外出時もエアコンをつけっぱなしの日々が続いていた。
お盆を過ぎても気温は35度あたりをふらふらして、異常な暑さが続く。人間のほうもすっかり夏バテ状態で、何も食べたいものがなく、だけど仕事はいそがしく、受験生の娘にもサポートが必要で、私は忙殺されていた。
そんな中、また、白猫氏の食欲が落ちた。
人間と同じで夏バテ気味なのか、いつもの食べムラなのかわからないが、カリカリを食べようとするようなしぐさをして、やっぱり食べるのをやめてしまう。ずっと後になって介護と看病に慣れたころ、これは、吐き気がするときのしぐさだったのだなとわかった。気付けなくて、対処が少し遅れた。
もっと早く対処してやれたらよかったと思うけれど、当時の私の体力と時間的余力を考えればきっと無理だった。それに、少々早かったところで結果は変わらなかっただろう。それでも、やっぱり彼女のために最善のことができなくて、申し訳なかったと思う。
どうにも調子が戻らないので、8月25日、不本意そうな彼女をキャリーに押し込んで病院に連れて行った。
上が前回、6月の検査結果。そして下が、その日の血液検査の結果だ。
血中尿素とリンの値は突き抜けて計測不能になってしまった。ものすごく数値が悪くなっている。
腎臓の機能が落ちている。先生の説明も少し沈みがちだった。
これだけ病気が進むと、いま点滴をしても、6月のようにすっかり元気!というわけにはいかないだろう、とのことだった。
もともと、腎機能が低下するのを治療する方法はなく、腎臓ケアのフードは状態を維持するためのひとつの方法に過ぎなかった。点滴も同じで、積極的な治療ではなく、脱水を防いで体調を維持するためのものだ。
「腎機能の低下がこれだけ進んでいるのを考えると、
常時脱水の状態でずっと体調も悪いと思うし、
自宅で毎日、皮下点滴をやってあげるのがいいと思うんです。
でも、これは維持のためで治療のためじゃない。
それを延命だと言って嫌がる飼い主さんも居ますし…」
先生の言葉は、私の感情への気遣いがありながら、
いつも簡潔で回りくどくなく、さすがプロの言葉遣いだった。
「わかりました。
彼女といつまで一緒に居られるかということは
実は、頭の片隅にはずっとあって、
その時が来たら、苦しいことや痛いことを
なるべく取り除いてあげられたらとは考えてきました」
「皮下点滴の処置自体は簡単で、練習すれば皆さんできるようになります。
大丈夫と思えるまで練習してもらっていいので、そこは安心して。
ただ、この子は病院大嫌いだし、大変ですよね。
石田さんはどう思われますか。ご自宅でならできそうですか?」
「それなんですよね……」
家で点滴をするとなれば、私が扱いを覚えて、夫に保定してもらう必要があるだろう。いま、病院でプロの看護師さんが数人がかりでようやく保定できるような状態なのに、私と夫だけで同じことができるかどうか、わからない。中途半端なことをすると、猫も、私たちも怪我をしそうだ。
「私は練習して覚えたいと思いますが、
ちょっと夫の協力を仰いできます。明日、また来ます」と返答した。
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