子どもと問う#12 〜わかり合えないってことをわかり合うのさ?〜
子どもと問う#12
〜わかり合えないってことをわかり合うのさ?〜
生きているとわからないことが増えていく、と感じる。
それなのに、「大人だからわかってる」と子ども達に思われるのは理不尽だ。
なんて、理不尽な進化に嘆いていても毎日は進む。
私たち大人は子どもに何を教えられるのだろうか。
我が家の子ども達が通う園で“新型コロナウイルスについて”という学びの時間が設けられた。
ウイルスは飛沫感染すること、手洗いうがいが大事なこと、密にならないようにすること、様々なことを先生達は教えてくれた。
園にいる間中、子ども達はマスクの着用が義務付けられている。
その学びの時間を終えてから、うちの息子3歳は家でくしゃみをする時「ハ、ハ、ハ」までは口を手で押さえているのだが「ハクシュン!」の時に口から手を離すようになった。
聞いてみたら「だって、ウイルスはくしゃみで出てくるんでしょ?お手手についたら洗わなきゃいけないんでしょ?だから手を離さないといけないと思った」とのこと。
息子の理解があさっての方向だったことに慌てて、私は彼の振る舞いを直した。先生達、すみません。
でも、私たちは新型コロナウイルスのことを本当にわかっているのだろうか。
世界がこのような状態にあることをどう説明したら良いのだろうか。
お友だちと集まってはいけないこと・動物園も水族館も閉まっていること・映画も観に行けないこと・・・この窮屈な毎日をどう過ごしたら良いのか、いつまで我慢すれば良いのか、みんなが何となくイライラしていて何となくギスギスしていて何となくプンプンしていること・・・。
私たち大人は、子ども達に何をどう説明したら良いのだろうか。
ビフォアコロナ/ウィズコロナなどと言われたりもするが、世界はCOVIT-19で明らかに変わって、私はその変化にまだついていけていない。
それでもコロナ禍の世界は容赦なく進み、我々はその中を生きている。
そんな中で子ども達に教えなきゃいけないのだ。でも一体、何を?
「対話が大事」なんて最近よく聞く。
もしかしたら、このわからなさをみんなで共有したり話し合ったりしたいという願望の表れかもしれない。もしかしたら、みんな誰かと話したいのかもしれない。対面が禁止されているから、せめて対話をということかもしれない。
でも、対話って何だろう。もし対話が大事だとしたら、なぜ大事なのだろう。
そのことを、みんなわかって「対話が大事」と言っているのだろうか。もしもわかっているのなら、どうか教えて欲しい。皮肉ではなく、真にそう思う。
私は哲学対話が好きだ。オンライン上だとしても、みんなで集まって話せるのは嬉しい。色んな人の話を聞き、私の話を聞いてもらえるのはありがたい。コロナ禍で、その有り難さを痛感する。
しかし、哲学対話をやっていると別のことも痛感するのだ。
こんなにも、他者とはわかりあえないものなのかと。
全く違った考えを持っている他者は大勢おり、理解は出来ても共感すら出来ない自分がおり、私は私のことをわかって欲しいと心底願っており、しかしそれは叶わないことの方が圧倒的に多い、とかなんとか。
だから、私にとって哲学対話はいつも痛みを伴う。終わった後にその痛みの意味をいつも自分に問う。
諦めてしまえば楽だ。でも諦めきれなくてまた参加する。その繰り返しで、私は哲学対話を続けている。
そんな私が子ども達に何を教えられるのだろうか。そのことを、問い続けている。
そして「対話が大事」という人達はなぜか「会話」を見下している気がする。
「会話」の上位互換に「対話」があると思っているように見える。「対話が会話に成り下がる」なんて言い方を聞いたこともある。
例えば、オープンダイアローグなどでは確かにそのような側面はあるだろう。
しかし日常生活において、私は会話より対話が大事と考えてはいない。
私は哲学対話も好きだが、「会話」もその中でも特に「挨拶」が好きだ。
対話を重ねれば重ねるほど、他者とのわかり合えなさを実感する。
それでも人は他者を求め、何とか関係を紡ごうと試みる。
その時に使う言葉が「挨拶」なのではないかと思ったりもする。
『シン・エヴァンゲリオン』で綾波レイが沢山の「挨拶」を学んでいた。日常初心者の彼女は「挨拶」を人の様々な想いが込められた“おまじない”だと学ぶ。
綾波レイは最初に「挨拶」を学んでいたが、私は対話に対話を重ねて最後に残るのは「挨拶」なのではないかとすら思っている。
ありとあらゆる言葉を知って何も言えなくなるなんて経験を我々大人達は散々してきた。
それでも、どうにかして他者と関わろうと、その希望を、ある光を、諦めきれずに発するのが「挨拶」なのではないだろうか。
おはよう
こんにちは
いい天気ですね
ごきげんよう
さようなら
おやすみなさい
私はまだ、これしか教える言葉を持たない。
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