人気YouTuberが作った写真SNSのDispoとは一体?
「Instagramの再発明」
そんな言葉と共に、2日前からシリコン・バレーで話題になっているアプリがある。
その名もDispo(ディスポ)。
Clubhouseと同様に招待制のアプリであり、僕もまだインバイトを入手できていないので不明点が多いが、調べた範囲で分かったことを紹介していきたい。
全てはDavid DobrikのInstagramからはじまった
まずこのアプリを語る上で、David Dobrik(デイヴィッド・ドブリック)という男性の存在が欠かせない。
彼は2013年にVineで動画投稿をはじめ、Vine内で一躍有名になった後、2015年にはYouTubeに進出し、そこからVlogを投稿し続け、1,880万人のチャンネル登録者を誇る人気YouTuberとなった。
そして彼は2019年6月に、元々持っていたインスタグラムのアカウントとは別に、Disposable Camera(使い捨てカメラ / インスタントカメラ)で撮った写真だけを載せるインスタグラムアカウントを作った。
(見ての通り今では320万人のフォロワーがいるアカウントだ。)
このアカウントを開設してから1ヶ月後の2019年7月には、アメリカのファッション雑誌W magazineで、Davidはこのトレンドを生み出したとして特集された。
Davidは他のインフルエンサーにも、同じようなアカウントを作るよう促し、Tana MongeauやTrisha PayasもそのようなInstagramアカウントを作成した。
David's Disposableのローンチ
その後、2020年1月に、Davidは「David's Disposable」という名前のアプリをローンチした。
このアプリでは当然レトロ風の写真を撮ることができるが、なんと言っても最大の特徴はインスタントカメラと同様、写真を撮った後にすぐに中身を見ることができない点だ。1日待たないといけない。
アプリは100万ダウンロードを超え、アップルのアプリストアで無料アプリの人気トップにも入った。Disney+やInstagramよりも上位に食い込み、Appleが特集する「今僕たちが大好きなアプリ」のリストにも入った。
2020年9月には、David's Disposableのアプリ名を、Dispoに変えた。
$4Mを調達したシードラウンド
Davidはアプリをローンチすると同時に会社も立ち上げている。
起業家でありベンチャー・キャピタリストでもあるDaniel LissをCEOに据え、長年の友人でありビジネスパートナーであるNatalie Mariduenaを財務の責任者に、Twitterでマシン・ラーニングのエンジニアをやっていたRegynald Augustinを最初のエンジニアとして迎えている。
Reddit(海外の人気掲示板サービス)の共同創業者のAlexis Ohanianが設立したファンド、Seven Seven Sixが去年の秋ごろに最初に決めた投資もこのDispoだ。
Ohanianがリードした$4mn(約4.2億円)のラウンドには、Product HuntのRyan HooverのWeekendファンドだったり、女優のSofia Vergara、電動キックボードLimeのCEO Wayne Ting、有名DJ&アーティストのThe Chainsmokersなどの大物も参加した。
YouTuberのDavidが会社をたて、仲間を集めて、資金調達をして、プロダクトをローンチしていくというところが、なんともパッション・エコノミー、クリエイター・エコノミーの時代を色濃く反映している。
Z世代から最も注目を集め、Z世代と最も接点が多いのはやはりクリエイター・エコノミーの先頭を走る人たちだろう。
TikTokerなんかも毎日TikTokのコメント欄やインスタのDMを通して若い世代と絡んでいる。
なお、Reddit創業者のOhanianは、知人の紹介でDispo CEOのDaniel Lissと会い、アプリのコンセプトやユーザーデータを見て感動したが、
投資の一番の決め手になったのは、そのあとにDavid Dobrikに会ったことだと言う。
彼は自分のファンのコミュニティが、どのような(YouTubeの)コンテンツを欲しているかを理解しているだけでなく、ジェネラルにZ世代が何を欲しているかを、不気味なほど理解している。
これはSnapchat創業者のエヴァン・スピーゲルを彷彿とさせる。
Snapchatの創業ストーリーを描いた「How to Turn Down a Billion Dollars -The Snapchat Story-」には、エヴァン・スピーゲルが次のように描かれている。
彼はビジネスパーソン、CEOとしてのロジカル・シンキングや情報の吸収速度がすごい一方で、彼の一番のスーパーパワーは、ユーザーの頭の中に入り込み、まるでティーンの女の子のように考えることができる能力だ。
そしてOhanianは次のようにも語っている。
いいねやフォローにとらわれない、いじめの対象にもならないようなソーシャル・メディアの再発明のための機会に投資をした。
Dispoが想定通りにうまくいけば、これは10年でソーシャル・メディアの新しい世代の中心になる。
ティーンや大学生の創造力を捉える全てのモノの競合になりうる。
なぜいま急に話題に?
「Dispoが爆発している。バズっている。僕らは今ソーシャルの新時代にいて、Dispoが最高に好きだ。」
「おいお前ら全員Dispoに行くぞ」
2020年1月からあるアプリだが、ここ数日で一体何が起きたのか?
Dispoのリード・デザイナーのBhokaさんが2月13日にこんなツイートをしたのがおそらく発端だ。
「やあみんな、もしDispoのβ版に興味があるなら、TestFlightで限定招待できるよ。(iPhoneのみで、コメントくれたら、DMで電話番号を聞くよ。)」
Twitterを眺めている感じだと、このツイートがキッカケとなり、シリコン・バレーのテック界隈でバイラルが引き起こされたっぽい。
LinkedInで調べてみると、Bhokaさんの本名はBriana Hokansonさんで(BrianaのBと、Hokansonのhokaを取って、Bhoka。)、去年の2020年の9月からDispoのリード・デザイナーをしていることが分かる。
何が凄いのか?
撮った写真をすぐに見返せないという点は最初のDavid's Disposableと同じだが、やっぱりこれが本質なのではないかと思う。
翌朝の9時になったら写真が出来上がって見れるようになるというなんともエモい仕様。
朝6時になったらチャットが消えるNyagoを彷彿とさせる。
今回は逆に朝の9時まで見れない。
Snapchatがローンチした時、まだストーリーズというフォーマットが無く、送った写真が消えるというシンプルなアプリだったが、その時、
投資家だったり、スタンフォードの起業家講座の先生などから、
「一体誰がこのアプリを使うのか?」
「今まで見た中で最も馬鹿げている」
「写真が消えてしまうなら、インターネットの意味が全くないだろう、馬鹿か。」
という声が相次いだ。
Dispoに関しても、ある意味、時代に逆行する。インスタントに情報を生成し、インスタントに情報を消費できるのがインターネットであり、スマートフォンである。
撮った写真をすぐに見返せないというのはインターネットの文脈に逆らう。
だけど、すぐに見れないからこそ、その写真の希少性は高まり、写真を見ること、シェアしあうことへのワクワク感が高まるに違いない。
新しい写真アプリは時間と遊ぶのがポイントだ(時間と関係している)
Snapchat -消える
Stories -24時間
Dispo -また明日会おうぜ
Vineの創業者がこんなツイートをしている。
Dispoはクールだ。あと、投稿を見るのに1日待たないといけないのは、リテンション(アプリを継続して使うこと)の綺麗な小さいトリックだね
僕が学生だった時に、インスタントカメラの「写ルン」が流行った。女子高生とかもみんな使っていた。
僕も写ルンを買いに行き、遊びや旅行に持ち歩き、僕の写るんを使って友達と交互に写真を取り合った。ただスマホで取るのとは違って、一緒にいる人と、一緒に何かを作っていく感覚があった。
そして数週間後にワクワクしながら写真屋さんに写真を現像しに行き、出てきた写真を友達にもシェアする。最終的にインスタグラムにもアップする。
今思えばこの一連の体験の全てがソーシャルだった。
今見返しても、やっぱり普通にスマホで撮った写真とは一線を画す、その時の楽しい思い出が蘇るような、特別な写真たちだ。
そしてここからは、David's Disposableのアプリから、どのように新しく進化したのかについて。
Dispoは上述のシード・ラウンドで得た$4Mの出資金を、よりソーシャルな機能を拡充するために充当すると言っていた。アプリをリブランディングさせて、新しいモノに感じるだろうと。
その結果がこれだ。
今アプリストアにあるDispoのアプリは、β版のほんの一部のカメラ機能(写真を撮って24時間後にアクセスできる)だけのアプリだ。一方で、今話題になっているβ版の方のアプリは、全く新しいソーシャル・メディアのプラットフォームになっている。
どうゆうことかと言うと、例えば、アプリ内にRoll(ロール)と呼ばれる機能がある。
これはおそらく友達や他人と共同で作ることができるカメラ・ロールのようなものだ。
例えば下記のツイートでは、家族だけのプライベートなロールを作り、子供の写真をアップしていっている。
そしてツイートの写真内にもあるleaderboardという表示。これはおそらく、その共同カメラ・ロールに写真を一番多く投稿した人がランキング順で表示されていく仕組みだ。
当然写真をいっぱいアップするインセンティブにも繋がるし、このランキング自体が、Peloton(自宅で自転車を漕ぐオンラインフィットネス)のleaderboardと同様に、ソーシャルな要素になってくる。
カフェとかで友達とスマホのカメラ・ロールを見せ合いながらおしゃべりをしたことがある人は多いと思うけど、それをソーシャルに、よりおもちゃっぽくした感覚に違いない。
今後はクローズド・オープン関わらず、様々なグループ、テーマ、インタレストをベースにしたロールが出来ていくであろうことが予想される。
もちろん、Clubhouseに続いて、アメリカで招待制のバイラルで話題になったものの、そのあと全然聞かなくなったアプリも多い。
当然グロースハックだけではリテンション率が悪く、プロダクト自体に価値がないとすぐに使われなくなる。
だが、Dispoは海外ユーザーのTwitterの反応を見ていると、心の底から楽しんでいるように見受けられる。これはもしかしたらメインストリームに躍り出てくる可能性があるかもしれない。
やばい、Dispoめちゃくちゃクールすぎる。「使い捨てカメラアプリ」は何百回も試されてきたけど、全部こんなに楽しくなかったし、こんなにソーシャルじゃなかった。
(確かに日本でもHUJIというインスタントカメラ風のアプリが数年前に若い子の間で少し流行っていたし僕も使っていた。だがこれはツールにとどまっていたので、SNSには化けなかった。他にもそうゆうアプリはたくさんあるようだ。)
称賛する初期ユーザーの声が続々と。
はい、たった今DispoのTestFlightにアクセスできたけど、これはマジでヤバぁぁlあっぁぁぁぁl悪ぁぁぁ🔥🔥🔥
Dispoが秘める力
ここからは僕の想像の範囲でしかないので、参考程度に聞いて欲しい。(ユーザーとして使ったことない人間が語るのは滑稽でしかないが許してほしいw)
僕はInstagramのフィードでの写真投稿はおろか、ストーリーズにも投稿をしなくなってから数年たった。
何が楽しいのか全くわからなくなってしまった。
何のために写真や動画をアップするのか。
Instagramを使い始めてから数年してから、どこか旅行に行ったり、レストランに行ったりしたら、別にそこまでシェアしたくないけど、強迫観念かのようにInstagramを開いて写真や動画を撮ってアップしていた。
これは途中からはもう義務のような感じで、思考停止で惰性でやっているだけだった。
いいねとかストーリーズの足跡を見て、ほんの少しの承認欲求が満たされたような感覚になるのは、お腹が空いてる時にチロルチョコやうまい棒を食べてごまかしているだけかもしれない。
(もちろん、高校生層は基本的に高校という閉じられたコミュニティでしか繋がっていないので、彼/彼女たちのインスタグラムのストリーズはすごくはっちゃけていて、ありのままで、違和感は全く感じない。これぞソーシャルだなって感じがする。)
僕がInstagramで投稿をしなくなってから数年たった今、週1で友達数人とジムに通っている。
LINEの仲良し筋トレグループで、トレーニング中、あるいはトレーニング後に写真をアルバムに追加していってコミュニケーションを取るのはめちゃくちゃ楽しかったりする。
これらは一切 Instagramには出回らない、今の僕たちを最も表していて、最もソーシャルなコンテンツだ。
あるいは、誕生日パーティーでサプライズケーキが登場する瞬間にテーブルの全員がスマホを片手に、スマホを覗き込んでいる光景を見たことがある人はいないだろうか。
まるで、(大げさに言うならば、)祝うことよりも、その場の記録を残し、ストーリーズにアップすることを優先するかのように。
Instagramでは過去の写真を投稿する「過去pic」というハッシュタグなどが流行ったように、過去のコンテンツを投稿することもあるが、
ストーリーズでは基本的にはリアルタイム性が重んじられるので、その場でササっとテキストを加えたり、編集をしてストーリーズに投稿するのが普通だ。
せっかく友達と一緒にいるのに、一瞬、まるでInstagramに住んでいるかのようになる感覚、Instagramから顔を出して現実を覗いているだけという感覚になる時がないだろうか。僕自身がそうなっているように感じたときがあった。
DispoはそんなSNSの呪縛から人を解放してくれる可能性がある。
写真はすぐに見れないから撮って終わり。
ここまで語ってきたことは、Snapchatがもたらしたパラダイム・シフトに近いものを感じる。
Facebookがソーシャルで楽しい物ではなくなっていった時に、ありのままの今の自分を表現できる、本当にソーシャルな体験ができるSnapchatが台頭した。
同じように、DispoはInstagramを時代遅れなモノにする可能性がある。
2017年あたりにInstagramのストーリーズの面白味のなさに違和感を感じ始めた時、TikTokが出てきて感動した。
だがTikTokはまだまだSNSにはなれてない。TikTokはYouTubeと同じメディアの域にとどまっている。
そんな中で、「SNS」の領域で、Instagramの次っぽいものがようやく出てきたという感じがする。(Clubhouseは今のところ若者が仲間内で通話するアプリにはなっていないし、Z世代の声を聞いていても今後も難しいように思う。)
Dispoは多分細かいUI/UX含めて、実際に使ってみたらもっと様々な驚き、感心、見えてくることがあるに違いない。
アプリ内でどう見えるかよりも、現実世界で実際に何が起きているかによりフォーカスが行くようなプレビュー(画面?)がある
(追記:写真をとる枠がとても小さいので、撮るときに写真写りをスマホの全画面で確認できないようになっています。)
リブランディングとリローンチについて
去年の4月にアメリカで、Clubhouseがto Cサービス旋風を巻き起こしてから、to Cの黄金時代が来ているという声を何度も聞いてきた。
実際に1年弱で、次から次へとイケてるtoCアプリが出てきた。
例えば、最近は日本でもユーザーが少し増えてきた、音楽版ClubhouseのRoadtrip。みんなで一緒に音楽を聴けるというアプリだ。
こちらは実は数年前から存在していたプロダクトだが、Clubhouseの台頭をキッカケにUIやUXを大幅に刷新し、去年再度ローンチをしたものだ。
そしてそのRoadtripの元祖ともいえる、みんなで集まってDJが流す音楽を聞くTurntable FMが復活するという話も出ている。
音声系に限らず、位置情報をベースにしたGowallaも復活している。
SNSの成功の可否にとって最も大事なのはディテール(詳細)とタイミングだという声がある。
ディテールとタイミング。
過去にはうまくいかなかったアプリたちが、2020年代に再び挑戦しはじめている。
過去に大学生向けのグループチャットSNSを作り、WeWorkにバイアウトし、TikTok USのアドバイザリーも務めていたGreg Isenberg氏がこんなツイートをしていた。
僕は、複数回のローンチをせずに成功したスタートアップを見たことがない。AirbnbのCEOが「もしローンチして誰も気付かないのなら、もう一度ローンチせよ。僕たちは3回ローンチした。」と言っている。重要なのはローンチして、改善して、またローンチし直して、繰り返すことだ。
Dispoは、最初のローンチで誰にも気付かれないどころか、一度大注目を集めているアプリだ。そんな、最初から強いアプリが、ツールからソーシャル・アプリへと進化をし、Clubhouseが体現した招待制によるバイラル施策の威力も借りながら、再度ローンチをした。
また、過去のものをリブランディングしたものでは無く、全く新しいプロダクトもアメリカで大量に生まれている。
マニアックなので今回は紹介しないが、現地のテック界隈の人のTestFlightはC向けアプリでごった返しているし、アプリストアにも色々ある。
Clubhouseが日本に来るまでの10か月の間、「toCサービス来てる!」というのは話に聞いてはいたけどあまり実感がわかなかった中、ここ最近、日本にいながらもふつふつと感じるようになってきた。
春が来たという感じ🌸。
ヤバイよねって話だよね。
この明るい未来を謳歌していきたい!
(おわり)
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神様が降臨し、インバイトもらえました・・・。感想を追加的に発信していきます
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East Venturesの平田さんと、Stand.fmでスタートアップネタについて語る番組「ON AIR | オンエア」もやっています!!
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