ショートショート 05,コンプレッションドライ

「この製品はお湯をかけてご利用ください」
どんなものにもこのような注意書きがなされるようになった。

時は現代より少し先。世界中が一つとなり平和となった世界。その結果、どの国でも貿易が栄え、輸送業が発達し、一度に多くのものを運ぶことが必要となった。
そのために開発された技術。それが
「コンプレッションドライ」
物を圧縮・乾燥させ小さく・軽くする技術。
そしてそれは食品だけでなく、日用品、家具、電化製品までにも適用された。どんなものでもりんごほどの大きさまで圧縮され、お湯をかけるだけで即座に元の姿に戻る。この技術によりこれまでと比べ10倍の量を一度に運ぶことを可能にした。




ある日とある場所で大きな災害が発生した。
男は小さな体育館で避難所生活を余儀なくされた。水が必要不可欠であるが、飲料水の確保がやっとで嗜好品の使用が事実上制限された。


避難所生活もだいぶ経ってきた頃、男はお尻に少しずつ痛みを感じ出した。手元には昔くじでゲットした、コンプレッションドライされたかったいクッション。
男は悩む。飲み水をとるか、このクッションを復活させるか。
水分は我慢すれば耐えることはできるし、そもそも今、汗をかかないから飲まなくてもやっていけるだろう。ただこのけつの痛みはダメだ。元々痔を持ってるのもあり、我慢でどうにかなる物ではない。今まで耐えてきたが、もう我慢できない。この痛みに耐えるくらいなら死んだほうがマシだ!

けつの痛みと飲み水を天秤にかけ、断腸の思いでクッションに水をかける。


みるみるうちにクッションは復活した。だが期待したサイズにならない。
男は焦り所持する水を全てかける。だが大きくならない。どんどん濡れていく一方だ。

ここで男は埋もれていたタグに気づく。値段は100円。男の想像を遥かに下回るクオリティのびちょびちょクッションが誕生した。


男は水を無駄にし、びちょびちょのクッションを涙でさらに濡らしながら日常に早く戻ることを期待するのであった。

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