ショートショート01,決意
僕は早く仕事を辞めて自由になりたい。でも今辞めてしまうと会社にも客にも迷惑をかけるし、このご時世、次の就職先が見つかるとも限らない。それに辞めることを上司に伝える勇気も僕は持っていない。僕は悩む。僕はきっとこれからも辞めたいと思いながらもなんだかんだ今の仕事を続けるんだろうな。心の片隅にそう思い今日も僕は退勤した。
僕は小さい頃から要領がよく大抵のことは一発で覚える優等生タイプだ。コミュニケーション能力もあり、残業に耐えうる体力、責任感も持つ。故に我が社からの信頼も厚く大型の案件もこなすようになってきた。
しかし、我が社は人の責任感につけ込んで僕を酷使する。全く、やめてほしい話だ。翌朝出社した私は、現在進めている案件で使う書類や、調査した会社資料を眺めながら尚、こう夢想する。
・・・こんな仕事辞めてやる。辞めて自分の人生を生きるんだ。辞めて上手くいかないことなんて構うものか。ここに縛られているのはただ辛いだけだ。辞めさえすれば、仕事から解放される。辞めるまでが仕事なのだ。だったら僕はそれを最後まで全力で実現したい。それが僕にとって本来の仕事の姿と言えよう・・・
なんて、自分の責任感の強さに感傷的になりながら仕事の作業に戻る。
しっかし、この会社はひどいものだ。業界他者の実情までは分からないが、きっとここまで酷くはないはずだ。
入社してまだ長くないのに案件だけでなく責任も押し付ける。酷い。さらに安月給で残業させ、休憩する時間もないのに勝手に給料から休憩時間分引かれる。給料面も酷い。あげく上司の口が悪く、部下との関係を深めようともしない。人間関係も酷い。客観的に見てこの会社には居たくない。辞める理由としては妥当だろう。もう我慢の限界だと。
僕は仕事を辞めるための電話をする。
僕は何度か電話でやりとりした程度しか関わっていない社長へ電話をした。
「お世話になっております。私、[イシマル]と申します。」
「あー君か。評判は聞いてるよ。成績がいいんだってね。」
「あー・・・」
覚えてもらっていた事、評価してくれていた事に驚き、次の言葉に詰まる。だがこの会社は辞めなくてはならない。意を決して次の言葉を言う。
「この会社を辞める旨の連絡をいたしました。」
「まぁ、君から電話がかかってくるとしたらその内容だろうなとは思っていた。では、担当に変わるから待っててくれ」
それから30分経っただろうか諸々の手続きを終え、スムーズにこの会社を辞めることができた。
これでこの会社を辞めた人は早くも3人目。
「僕もこれくらいスムーズに仕事を辞めることができたらな…」
そう呟き、最後の仕事を終わらせるためにまた電話をかける。
「私、退職代行サービスの[イシマル]と申します!」