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ショートショート 02,コミケ日和
今日は待ちに待ったコミケの日!
コミケ大好き、コミケのために日々を生き、コミケを生き甲斐にしてるコミケおじさんがコミケについて解説しよう!
「コミケとはコミックマーケットの略称で、世界最大規模の同人誌即売会のことである。多種多様な同・・・
・・・また多種多様なコスプレイヤーが参加することでも有名で、コスプレのまま会場を回ることもできる。」
Wikipedia調べ。
どうだよくわかったか?これがコミケというものだ!Wikipedia様々というツッコミは求めてないぜ?
そしてなぜ俺がこんなにもコミケが大好きなのか気になるだろう?なぜならコミケ会場では……
「コスプレが自由だからだ!!」
俺はとある大きな秘密を抱えて毎日を生きている。それは太陽を見ると狼に変身してしまうってことさ。
なぜ月じゃないかって?それは俺が一番聞きたいよ。この体のせいで夜と天気が悪い日しか行動できないからね。
狼になってしまうと、人の姿をベースに、全身から毛皮が生え、歯も鋭くなり、頭の上からケモ耳が。鋭い爪も生え、力も強くなる。幸いなことに、精神は狼にならず、自我を持ったまま変身するから、まだ誰にもこの秘密を知られたことはないし、迷惑をかけたこともない。
今日はそんな俺が白昼堂々と出歩くことができる日!
メイク、着替え必要なし!かかる時間たったの5秒!費用0円!普段は嫌気がさす僕の秘密も、今日だけは誰もが羨むとっておきの秘密っ!さぁコミケ会場に出発だ!
今日はコスプレ日和。雲ひとつない快晴。続々と集まる参加者の姿がとても眩しい。もちろんコスプレイヤーも次々と現れる。一番多いのはゲーム、アニメのキャラを模したコスプレ。他にも有名な一場面を切り抜いたり、ネットミームを表現したりした、ユーモア溢れるコスプレや簡単な被り物をしたコスプレなど様々だ。ケモノコスもあるにはあるが、僕のが一番リアル。なぜなら本物だからね!
もちろんコスプレイヤー同士の交流もある。今年は皆さんクオリティ高いですねなんて会話があちこちで飛び交う。そんな中でも、僕のリアルなコスプレにみんな大興奮だ。作り方、費用などたくさん聞かれるが秘密。もちろん触るのもNG。
もっと交流したいけどバレた時のことを考えるとあまり積極的に行けない。楽しいけれど、どこか心に隙間を空けながら短い1日が過ぎていく。
楽しい時間もあっという間に過ぎ、もう日没の時間だ。参加者の前で急に人の姿に戻るとまずいから、陽が落ちるまでは1人で過ごす。
コミケは大好きだけど、最後まで好きを語れないこの時間はとても虚しくなるから好きじゃない。いつかこの秘密も共有し合って、一緒に動ける仲間とコミケに参加したいなと実現不可能な夢を見ながら帰宅の準備をする。
すっかり陽が落ちた会場。参加者の多くはもう会場を後にし、僕と同じように帰宅の準備をしている人がちらほらと見受けられる。さっきまで話してたコスプレイヤーの素顔も見つけて、新鮮な気持ちになる。
ここで会場全体が大きな違和感に包まれた。会場のみんなも感じ取ったのか、一瞬無音の時間が生まれた。その間を不思議に感じたのか、みんなで互いを見つめ笑い合う。一般人には理解し難い瞬間。僕も何のことか分からなかったけれど、笑い合うみんなの輪に入り、今までのコミケではなかった人の姿での交流を楽しむことができた。
あぁ、人の姿での交流は何年ぶりなんだろう。感動で涙を浮かべ、ふと生まれた違和感に感謝しながら会場を後にした。
帰りのバス、相変わらず違和感の理由が分からずにいた。会場の風景、自分の行動、相手の行動。全てを思い返す。そして今の自分を見る。
「ああ…そういうことか、みんなは分かっていたんだな。みんな同じだったんだな……。」
視界が滲む。
僕も、みんなも、手ぶらで会場を後にしていたことに気づいたからだ。