ショートショート 03,コーヒーこぼした
コーヒーこぼした。盛大に。
ついてないな。いろいろ失った。
お気に入りの服。お気に入りのカーペット。お気に入りのソファー。
ははっ。そういやさっき彼女も失ってたわ。
喪失の日。このままでいいのか。自分に問う。
服だけでも。せめてもの抵抗。
こんなん洗った事ねえよ。
どんな独り言にも返ってくる言葉が今日はない。今日からない。
広くなった部屋に響く、アレクサを呼ぶ声。
いつも返事をくれていた無機質な機械も今日から返事はない。
受け止め難い孤独を感じ、唯一の相棒を手に取る。
いつもより頼もしさを感じる機械はすぐに返事をくれた。
洗剤を歯ブラシにつけて擦るといいらしい。
唯一の相棒をすぐポイっと投げ捨て洗面所へ。
歯ブラシが2本。
嫌でも浮かぶ4年間の思い出。これはなんで残るんだ。
西陽差し込む質素な空間。
消せないシミと思い出を、君の歯ブラシがへたるまでいつまでも擦り続けた。