ショートショート 06,夏の矛盾
全開の窓から流れ込む生温かい湿気を孕んだ空気。庭の木々でこだまするセミの声がより一層暑さをを知らせる。
夏休み、田舎のじいちゃんの家でいつもより遅い朝食を食べ、縁側でダラダラと過ごす。左手にアイス、右手にうちわ。風鈴の音色を聴きながら、その風に揺れる庭の木々を眺めて、夢うつつ、ぼんやりと過ごしている。
「あんた、夏休みの自由研究なんばすっとね!はよテーマば決めとかんぎ、最後の方でどげんかなっよ!」
母親の口から、そんな眠気も一発で吹き飛ばす魔法の呪文が詠唱された。
「自由研究か〜。確かにそろそろ始めないと大変そうだな〜。」
隣であぐらをかいて新聞を広げるじいちゃんをチラチラ見ながら、わざとらしく呟く。
するとじいちゃんはこんなことを言い出した。
「夏が暑かとはね、セミが鳴くとけんてよ。」
「じいちゃんどう言うこと?」
「風鈴の音ば聞くぎ、涼しうなるていいよるとやけん、蝉の声ば聞くぎ、暑くなるとたい。」
そうかそれだ!
僕はじいちゃんの発言に則り、自由研究のテーマを「風鈴の音とセミの鳴き声を同時に聴いたら涼しいのか暑いのか」と題して、毎日記録することにした。
記録を撮り始めて1週間後。この日に暑いを記録して以降、毎日が涼しいと言う結論で僕の自由研究は完成した。