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劇団四季デビューにはどの演目がいいのか問題

もしこのnoteを読んでいるあなたが、劇団四季を観たことがなく、「なんとなくだけど、この演目が見てみたいな〜」という気持ちが少しでもある方であれば、もう今すぐこのnoteを閉じて、劇団四季公式からチケットを取ってください
「この人にはこれをすすめたら面白がってくれるかな~」という心当たりがある方もです。

劇団四季見てみたいけど、演目がよくわかんないな……」というそこのあなた。
あるいは、友達に「今度劇団四季連れてって!」と言われた四季の会(公式ファンクラブ)のあなた。
劇団四季デビューには何をどうオススメしたらいいのか、うんうん唸るわたしの独り言を読んでくれるととても嬉しいです。

※2025年1月現在の情報をもとに執筆しています。

※このnoteに書いてあることは、すべて筆者の個人的な見解です。はじめての方にすすめるなら……という観点から劇団四季について述べていますが、特定の演目をけなす、否定する意図は一切ありません。あらかじめご了承ください。

「ミュージカル、いいじゃん」に近づくための3要素

これまでに何回か、はじめてミュージカルを観るという方に向けて劇団四季をおすすめして、一緒に劇場まで行ったことがあります。
レコメンドに成功したことも失敗したこともあります。

もちろんおすすめされる側にも趣味嗜好はあるので、人それぞれ1番ハマるであろう作品は違います。

ただ、そんな中でも共通して「ここを押さえると『ミュージカル、いいじゃん』と思ってもらえるんだなぁ」というポイントはありました。
それが以下の3つです。

  1. ストーリーが理解できる、納得感がある

  2. 「この曲知ってる!」となるシーンがある

  3. 生で観ることの価値がわかりやすい

ストーリーのわかりやすさ

ミュージカルは、情報量の多い芸術です。歌って踊って喋ってセットも変化するため、はじめてだと混乱しても無理はないかと思います。

そこで、「ストーリーがわからない」「そもそも今歌っているのが誰だかわからない」という状態になってしまうと、「楽しい」と思えるまでが遠くなってしまうのではないのでしょうか。

メインの数人が分かればなんとかなる作品や、そもそも原作が有名な作品のほうが、感想の筆頭が「よく分からない」になるリスクが低いのかなと思います。

ナンバーの知名度

「この曲知ってる!」は、個人的にかなり大切だと思っています。

先ほども述べたように、ミュージカルは情報量が多いです。
知っている曲や場面があると少し安心する……というのは、わたしがはじめて観る演目で感じやすい気持ちです。

ずっと気持ちが張り詰めっぱなしだと後半の集中力が切れがちなので、ほどよく力を抜いて、安心して盛り上がりながら見れる場面があるとより楽しさが増すかなと思います。

生で観ることの価値

そもそもミュージカルが好きな方は「全部価値があるだろう」と思われるでしょう。わたしも同じ気持ちなのですが、ここではあえて「わかりやすく価値が感じられる」ということに重点を置きたいと思います。

例えばセットがド派手とか、映画で見たあの衣装がほんとに存在するとか、一目でわかるハイパーテクニックのダンスが披露されるとか。

ひとつに絞れなくて申し訳ないのですが、まとめて言うと「現実なのに、非現実的」と感じさせる要素があると、心に残りやすいと考えています。
サーカスでダイナミックな技を見たときや、美術館で精密な彫刻を見たときに近い興奮といえば分かりやすいかもしれません。

さて、ここまで挙げた3つの観点を中心に、近年上演された作品について考えていきたいと思います。

アンドリュー・ロイド・ウェバー作品

ミュージカル音楽の巨匠、アンドリュー・ロイド・ウェバー(以下ALW)。
劇団四季との縁が深く、いくつかの作品はロングラン上演されています。

CATS

わたしはCATSから劇団四季にハマったので、正直何がなんでもおすすめしたいところではあります。

ただ、CATSはブックレス・ミュージカルと呼ばれるジャンルの代表格で、要するにこれといったストーリーがありません
「年に一度開かれる猫の舞踏会」という設定はあるものの、あとは登場する猫たちによる自己紹介が続きます。
映画やドラマのようにストーリーや展開があるものを期待して見ると拍子抜けするかなと思います。

ということで、ストーリーのわかりやすさという観点から見ると、初心者にはあまり積極的におすすめはできないかな……というのが所感です。

ただ、公演地ごとに作り込まれたセット、バレエやタップをはじめとしたダンスのジャンルの幅広さなど見どころは沢山あるので、なにかキャッツの特徴のうち興味関心が強くあるものがある場合はおすすめできると思います。

オペラ座の怪人

言わずと知れた有名作。

ナンバー「オペラ座の怪人」はたまにテレビで披露してたりするので、ALWの中では比較的「この曲知ってる!」となりやすい演目かなと思います。

基本的には三角関係で話が進むので、怪人・クリスティーヌ・ラウルの3人を抑えておけばおおまかなストーリーで混乱する場面はないかと思います。

セットや衣装がつくる重厚な雰囲気と人間味あふれるキャラクターが最大の魅力だと思うので、特に映画や小説好きにはハマりやすい作品かなと感じています。

反面、オペラ寄りの演目でダンスは少ないので、ダンス好きの方などには他の演目がおすすめかもしれません。

ジーザス・クライスト・スーパースター

※2025年の上演予定はありません。

キリスト最後の7日間を描いたミュージカルなのですが、はっきり言うとかなり特殊で人を選びます

この作品は聖書をベースとし、挑戦的な宗教解釈で議論を引き起こしました。
ただし、聖書に馴染みがない人が多い日本では、キリストがどのような運命をたどったのかをそもそもあまり知らない、この作品のどこに宗教的な新しさがあるのか分からない方も多いかと思います。
わたしもはじめ数回はよく理解できず、キリスト教についての初心者向けの解説本を読んでようやく作品の筋をつかめました。

あまりメディアに出ない作品なので、ナンバーも聞き馴染みがない方がほとんどではないでしょうか。

民衆の愚かさや為政者の権力争いもテーマに扱っている以上、「雰囲気が怖い」「難しい」と感じるリスクがあるのかなと思っています。

でもわたしは大好きです。

ディズニーミュージカル

圧倒的な知名度の高さが圧倒的な誘いやすさを生み出す、それがディズニーミュージカル。

ただし、ディズニー映画と四季ミュージカルは翻訳が違うため、コアなファンほど拒否反応を示すこともある点が共通して難しいポイントかなと思います。

ライオンキング

日本最長ロングランを成功させ続ける、唯一無二のミュージカル。

ミュージカルといえばライオンキング、というイメージを持っている方も多いので、素直にそれに従うのはアリだと思います。

ただ、もしお子さま連れで行く場合は要注意かなとも個人的には考えています。
ヌーの暴走や、スカーVSシンバなど迫力のあるシーンで泣いている子をよく見かけるのと、意外と話が重くてびっくりしたという感想も聞くので……。

逆に言うと「子ども向けでしょ?」と思われていることがなぜか多い作品でもあるので、大人こそ楽しめる作品なんだよということは強調しておきたいです。

アラジン

ブロードウェイでのロングランが、ディズニーミュージカルの中ではライオンキングに次いで長く、世界各国で愛されている作品。

ナンバーの知名度は、言うまでもないでしょう。

アラジンによる「フレンド・ライク・三―」のにぎやかな魔法の演出も、「空飛ぶじゅうたん」もバッチリ再現されているので、視覚的にも非現実を楽しめる要素があります。

ストーリーもコメディありロマンスありと多彩で、多くの人に受け入れられやすいのではないでしょうか。

ディズニーミュージカルの中では、一番バランスのいい作品かなと個人的には思います。

アナと雪の女王

筆者は初演の次の日に見に行ったのですが、「ありのままで」のときは明らかに空気が違い、会場が興奮でひとつになった感覚がありました。
そのくらい、「知ってる!」の力を持った作品といえるのではないでしょうか。

ただ、1幕(開演〜休憩まで、前半)に「生まれてはじめて」や「夏がきたら(あこがれの夏)」、「ありのままで」などの有名曲が多すぎて、2幕(休憩後〜終演まで、後半)では逆に「知らない曲ばかりでつまらないな……」となりかねない、やや盛り上がりのバランスが悪いという点は少し懸念です。

劇団四季の中では少数派の、オーケストラによる生演奏あり、完全アドリブシーンありの演目なので、全体的にライブ感が強く生で観る価値を感じやすいのかなとも思います。
音楽好きの方にはおすすめしやすい作品です。

美女と野獣

劇団四季初の、舞浜アンフィシアターでのロングラン上演が行われている作品。

なんといっても舞浜なので、ディズニー好きな方やディズニー目的で関東に旅行する地方の方にとって地理的なハードルが低いという点が他にはない特徴かと思います。
逆に言うと、それ以外の方には「舞浜に行ったのにパークに入らないの?」となる可能性はあります。

ナンバーの知名度もあり、ストーリーも分かりやすいので、その点では問題なし。

ただ、個人的にはディズニーミュージカルの中ではややこぢんまりした演出という印象を持っています。
ほかのディズニーミュージカルが、地面から迫り上がるセットありフライングありプロジェクションマッピングありと派手なため、あくまでもその中では比較的……という話ではあるのですが。
登場キャラクターの多くが「人間から他のものに変えられてしまった」という設定なので、衣装や被り物が複雑で、その結果多くのシーンが歌で魅せる構図になっているのが一因かと思います。

ファミリーミュージカル

地元の市民会館で、子ども向けに劇団四季が1日だけ来た。小学校の行事で劇団四季を見た記憶がある……。
それはきっと、ファミリーミュージカルです。

演目が多く個別に語れなくて申し訳ないのですが、子ども連れなら圧倒的にこのファミリーミュージカルがおすすめです。

というより、他のミュージカルだと話がどうしても複雑になるので、小さい子だと飽きてしまう可能性が低くありません。

子どもが来ること前提なので比較的客席の雰囲気は緩いですが、パフォーマンスは一流です。
子どもの付き添いだから……と思わず、ぜひ楽しんでください。

ただ、大人がひとりで観る初めてのミュージカル体験として選ぶのに最も良い選択肢か? と言われると、それも素直に頷けないというのが私の答えです。

客席が暗くなったり悪役が出てきたりする都合上、どうしても怖くなり泣いてしまう子などが一定数出てきます。
どんなに舞台が素晴らしくても、現実に引き戻されてしまう可能性が高いのは事実です。
地方であっても、大人向けの全国公演という選択肢もあります。安いしファミリーでいっか……という考えは少し勿体無いかなと思います。

それ以外のミュージカル

ウィキッド

アメリカの国民的童話「オズの魔法使い」のアナザーストーリーが描かれた作品です。

メガ・ミュージカルとも呼ばれる本作は、セットのド派手さではピカイチ。
主人公2人がそれぞれ異なる方法で空を飛んだり、魔法が繰り広げられたりと、非現実の演出がたっぷり楽しめます。

ただ、かなり複雑な原作をミュージカルにしていること、制作された地であるアメリカと日本では「オズの魔法使い」に関する基礎知識に差があることなどから、普通に「ウィキッド」を観ただけでは少し疑問点が残る部分もあるかなと個人的には思います。

たとえばこの舞台の周りの枠(プロセニアム)は「ドラゴン時計」と呼ばれるもので、主人公が魔法を使うときに煙を上げて動きます。

「ウィキッド」2024年大阪公演にて。
ドラゴンは吊るされていて、マリオネットのように動きます。

ですが、これが何かは劇中で一切触れられません。原作を読んではじめて分かるというやや不親切ともいえる設計です。

そして、メインストーリーは友情・努力・成長と非常に爽やかなのですが、脇を固めるエピソードが不倫・政治・偏愛……と、劇団四季にしては比較的重めな点に、わたしも初見の時は面食らいました。
そのようなエピソードが苦手な方はご注意ください。

マンマ・ミーア!

伝説的ポップスグループ・ABBAの曲を用いたミュージカル。
既存の曲でミュージカルを作り上げる、ジュークボックス・ミュージカルというジャンルの代表とされる作品です。

ABBAの曲はテレビや街中で未だによく流れているので、ナンバーを聞いて「このメロディ知ってる!」と思う方は多いのではないかと思います。
ただ、若い世代の中にはそのメロディ=ABBAという繋がりを知らない方も多いので、残念ながら「知ってるけどピンと来ない」にもなりがちかなと推測できます。

ストーリーも、かつて女性シンガーグループのリードボーカルだったママとその娘を中心に進みます。
このグループもABBAをモデルに作られています。

全体的に、ABBAという「元ネタ」を知らない場合はスムーズに理解ができないこともあるのではないかなという雑感です。

逆に言えば、「ABBAっていうグループがいて、ヒラヒラの服を着て歌ってるんだなぁ」くらいの認識を持ちさえすれば、かなりおすすめできるミュージカルではないかと思っています。

分かりやすい展開でコメディチックなシーンも多く、アンコールでは客席も巻き込むプチコンサート風の演出もあるなど、他の演目(特にディズニーとファミリーミュージカル以外)に比べて雰囲気が柔らかいと感じます。緊張せずに見れるという点は大きなプラスではないでしょうか。

ゴースト&レディ

『うしおととら』などを手がけた漫画家・藤田和日郎が、ナイチンゲールの生涯をもとに書いた『黒博物館 ゴーストアンドレディ』が原作の、劇団四季オリジナルミュージカル

劇団四季がこれまでに上演した作品の技術と知恵を注ぎ込んで作られた作品で、非常にクオリティの高い作品だと思います。

ストーリーも明快で、漫画原作なので比較的履修が容易という点もおすすめしやすいポイントです。

ただ、まだまだ新しい作品のため、劇中ナンバーはもちろん作品自体の知名度にも伸びしろがあります。
劇団四季ファンからの評価が高く、今後もしばらく上演されることが予想されるので、その中で知名度を上げていくともっと四季デビューの選択肢として挙がりやすくなるのかなと感じます。

結局、どの演目がベストなのか

強いて言えば、わたしが人におすすめするのであれば、オペラ座の怪人アラジンマンマ・ミーア!あたりを安定した選択肢として挙げるのではないかと思います。
はじめてでもストーリーが理解しやすい、知っているナンバーがある可能性が高い、演出に見どころが多いという要素をそれぞれ満たしていると個人的に感じているからです。

ただ、本当に人によります。たとえばバレエをしている人であればCATSが適役という可能性も十分にありますし、藤田先生のファンには確実にゴースト&レディをすすめます。
必ずしも私の挙げる3要素のみが重要ではないということは当たり前ですが、どうかご了承ください。

あとここではあまり触れていませんが、会場へのアクセス座席チケットの取りやすさ会場内の環境などももちろん考慮する必要があるでしょう。

人と環境による」という結果になってしまい本当に申し訳ないのですが、もし「何かおすすめの作品教えて!」と言われた際には、おすすめする人と「ストーリーのわかりやすさ」「ナンバーの知名度」「劇場で見て面白いと感じる要素」の相性について考えても損はないと思います。
はじめて劇団四季に行ってみたいな~と思っているあなたにも、このとりとめのない文章がお役に立てば幸いです。

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