「絶望」という名の地獄に堕ちた話


その日は

友人と映画を観に行く日でありました。もう予告からして怖い怖い怖い、ド・ホラー映画。

大いに楽しみ。るんっ♪

そんなちょっと高めのテンションで、集合時間はなんばパークスシネマに午後2時半のところを、早めに家を出てプラプラしようと午後1時過ぎに難波に着く。

なんばウォークをウォーキン途中、ある服屋さんでイイ感じのシャツを見つける。

店に入ってシャツを見る。

男性の店員さん(のちの話から店長さんとわかる)が接客にくる。


「よかったら着てみますか?」
「あ、お願いします」
「お荷物、こちらにどうぞ」

と、陳列棚の空きスペースに、カバン一式を置かせてもらう。

シャツをはおってみる。

絶妙にしっくりくる。

たまにあるやんか。服とか靴とか。
きみは僕のために生まれてきてくれたんだね!的な出会いが。

このシャツもまさにそれ。
もう今すぐ連れて帰りたい。

でも値段がちょっとばかり、いや、かなり高いんだわ。

そもそも今日は服を買う予定ではなかったんやし、

ここはやはり自制心を保って、このまま帰った方が……

「うわあ、すごくお似合いですね♪」


店長が絶妙の間でボディーブローをキメてくる。

「……もうちょっと大きい鏡ありますか?」

私、まんまと退路を見失う。

「ありますよ。どうぞ、こちらへ」

店長さんに促され、陳列棚の一列横の、大きな鏡の前へ移動する。

全身チェックする。

絶妙にしっくりくる。

「この色のこのサイズは、もうこれ1点なんですよ」


店長のカウンターパンチがアゴに入る。

ダウン寸前、足元フラフラなのだが

「予算オーバー」

その一念だけで辛うじて立っている。

えーっと、あのギャラはいつ入るんやっけな??
やとしても今月は行きたいライブが山盛りあるねんなー。
……はっ!!それに!!
今月、税金関係、怒涛の納税ラッシュやんか!!!
税金払ぉてライブ行ってとなるとだいぶ財布、厳しいな……

我慢するとしたらやっぱり服代しかない。

悲しいけれどこのシャツのことは忘れよう。
運命はいつも残酷だね。
こんな気持ちになるのなら、いっそ出会わない方がよかったよ。
さようなら……
さようなら……


悄然としてシャツを脱ぎ、

「すみません、また来ます……」

店長さんにそう言って、カバンを取りにさっきの陳列棚の場所に戻る。

カバンを取りにさっきの陳列棚の場所に戻る。

カバンを取りに……


あれ?

カバンがない。


ない。

ないねんってマジで。

あの、店長さん!私、さっきここにカバン置きましたよね!?

「はい、そこに……」

ないんです!私のカバン!!

「あれ!?カバン、ないですか!?えっ、えええー!!!」

店長、一瞬ピョンと跳ねる感じで驚き、大慌てで他の陳列棚の下やら横やらを探し始める。

私、必死で記憶を辿る。

落ち着け。まず、ここに置いたのは確かか!?

間違いない。確かにここに置いた。置いてから、向こうの鏡を見に行った。

そして……

あっ!

自分の記憶に血の気が引く。

向こうで試着してる時、カバンを置いた陳列台の列を、すーっと1人の男が店を出て行ったがな!!

やられた!!

あいつや!!

あいつがカバン持ってったんや!!!

真っ青になって店の外に飛び出す。

そこはなんばウォークの激しい人波。

男の姿はとっくにその中に飲み込まれている。

ぼんやりとポケットを探る。

家の鍵が指に触れる。

いや、家の鍵だけあったとて。

私にはもはや家に帰る電車賃もないのだよ。

財布もスマホも手帳も何もかも、失ってしまったのだよ。


耳の奥がキーンと鳴り、足元から地面が音を立てて崩れていくような感覚。

目の前を笑いさざめきながら歩く人たちが

ゆらりゆらりと陽炎のように見える。


私もさっきまでは向こう側の人間だったのだ。

でも

もうすべて終わりました。

私は

「絶望」という名の地獄に堕ちました。


耳鳴りを振り払い、残る思考能力を振り絞って考える。

まず、カードを止める。

警察に届ける。

それから、2時半になんばパークスに行って、友人に

「今日は映画を観れません」と言う。

とにかくそれが今やるべきことである。

その時、店の奥から

「あっ!!これですかね!?」

という声がして、店長さんが走り出てくる。

店長さん、私のカバンを持っている。

ああああそれですううううどこにあったんですかああああ

私、膝から崩れる。

「レジの奥にありました。スタッフが気を利かせて移動したみたいで……」

それなら一言ゆうてくれええええええ

とも思ったが、カバンがあったことの喜びが上回り

ありがとうございますううううう

とただただ涙目で言う。

無事、財布もスマホもすべて手元に戻る。

ホッとしていっきに気がゆるむ、ついでに

財布の紐もゆるむ。


気がつけばレジで

さっきのシャツと

さらにパーカーとTシャツを購入している。


うん。

ちらっとね、ちらっとだけ

これ、そういう商法ちゃうんか?

って人の悪い考えが頭をよぎったのは事実。でも

いやいやいや、それはないやろ

と友人に笑われたし

あの店長さんの真っ青な顔は演技とは思えんし

スタッフが勝手にカバンを移動したことについて平謝りで、そのシャツを社員価格の2割引にしてくれたし

結果どえらい散財になったけど、新しい服はどれもいい感じで心から買ってよかったし。

うん、結果オーライ。


最後に、本気の教訓な。

みんな!!

試着のときはくれぐれも手荷物に気をつけるんやで!!


というわけで以上、

「絶望」という名の地獄に堕ちたけど

逆バンジーのごとくビョイ〜ンと生還したんだよ!のお話でした。

あーしんど!!!!!


#ラ・ヨローナ  #泣く女 #ホラー映画 #新しいシャツ


























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