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夢路いとし喜味こいし・漫才台本(上巻)

演芸ファンの皆さま、こんにちは。こんばんは。おはようございます。
演芸作家の石山悦子です。

さて今回ご紹介するのは、時をスーンと遡りまして、2002年に書きました夢路いとし喜味こいし師匠の漫才台本です。

夢路いとし喜味こいし師匠。
言わずと知れた漫才界のレジェンドです。
お2人の漫才を初めて拝見したのは小学生の頃だったでしょうか。
確か昭和40年代のお茶の間のテレビでした。
「お茶の間」という実にほっこりした空間に
絶妙にしっくりくるほっこり漫才。
当時はドついたり見た目をネタにする漫才もたくさんあった時代です。
私はお笑いが幅広く好きだったのでそういう激しい漫才も好きでしたが、
親がちょっとイヤな顔をする。
そういう親を見て、子どもの私は緊張するのです。
のびのびと笑えない。
「人が人を叩いているのを見て笑う子と思われてはいけない」
そんなことを思う子どもだったのです。ツライノー
この抑圧が後々中学生頃に大爆発するわけですが、それはさておき。

いとこい師匠の漫才は、親も一緒になって笑っていて、私も安心して心から漫才を楽しむことができたのでした。
スーツ姿やのオジサンが2人出てきて、ポソポソと喋ってるだけ。やのになんでこんなにオモロいん??

話芸の滋味。

てな単語を知るのはもっと大人になってからだけど、とにかく大好きな漫才でした。

そんな風に親しんできた
いとこい師匠の漫才を書く機会が訪れたのは
2002年。演芸作家になって2年目の秋。

NHK上方演芸会のディレクターさんから
「今度、いとこいさんの漫才をお願いします」
とご連絡をいただいたのです。

すごい。

おめでとう自分!!

自分で自分を讃えまくったものです。

ちなみに初めての上方演芸会は
2000年の横山ホットブラザーズ師匠の漫才台本でございました。

ホット師匠の時は、3人の作家が一斉に書き、
いっちゃんええ台本が選ばれるというサバイバル・コンペだったんです。

あの時、私は桂文紅師匠という強固なライフラインを使い、卑怯にもコンペで勝ち残るという栄光を
    見事に
手に入れたのです!!

その時の顛末はこちらに克明に記してありますので
よければ寄り道してみてください⬇️懺悔込み。

読んだら帰ってきてね。

おかえり。


あのドガチャガから2年後。

今度はいとこい師匠の台本を書かせていただくことになったのですが、嬉しかったのは、今度はコンペじゃなくてあらかじめ演者と作家が割り振られていること。

この2年の間にも数組のコンビの台本の依頼をいただいてたこともあり、
ついに、いとこい師匠の台本を任されるようになったんやね!!

おめでとう自分!! 

またしても自分を讃えまくる。

もうホット師匠の時みたいにサバイバルせんでええんやな〜〜〜
あん時はめっちゃガツガツしたもんな〜〜〜

今回は、もぉ少し落ち着いて書けそうやな……


コンペやんか。



いとこい師匠の枠だけ、作家2人のコンペやんか。


なぜかは忘れた。

とにかく今回も、ま〜たまた勝ちに行かなあかんやないか!!
あの熾烈な戦いアゲイン。

そこでまず、私がとった行動は
「いとこい師匠を自分の中に入れるべし」
ちゅうことで、
ワッハ上方のライブラリーで
いとこい師匠の漫才を見まくる。
ありがとうワッハ。いつもお世話になってます。

※ただ、当時の台本と日記を読み返してみたところ
この時は文紅師匠のライフラインに甘えずに自力で最後までなんとかしたようです。

タイトルは「スーパー銭湯に行こう」。
当時、スーパー銭湯が流行っていたから、という単純な理由だったと思います。

なので
今回は、その第1稿を全編公開いたします!!

本編の後には、台本研究会のアドバイザーだった織田正吉先生、中田明成先生、大池晶先生からのアドバイスも記しておきます。

そう、すべてが大切な軌跡。

メンバーシップの今月は、以下の第1稿を「上巻」とし、先生方のアドバイスで最終稿がどうなったかまでを「下巻」としてご紹介いたしますので(来週予定)どうぞお楽しみに!!

駆け出しのひよっこ作家が、必死でいとこい漫才の空気感を出そうとしてるところにご注目。
「千と千尋」のくだりは必死すぎて可愛らしい。

メンバーシップにご参加くださると、
最後までお読みいただけます。ぜひとも。


2002.11.20「第2回BK演芸台本研究会」

第1稿

「スーパー銭湯へ行こう」


口演:夢路いとし喜味こいし
作 :石山悦子

いとし「きみは休みの日というのは何をしてます 
   か」
こいし「休みというたらまあ、家で本を読んだり、
   庭をいじったりしてるかな」
いとし「きみは相当ヒマな人やね。もっと他にする
   ことないのか」
こいし「なんでそんなこと言われなあかんねん」
いとし「休みの日にやね、家でお経よんだり、へそ
   いじったり」
こいし「耳遠いんか。読むのはお経とちゃう、本
   や。いじってるのはヘソやなしに庭」
いとし「どっちにしても一人でいてることに変わり
   ないがな。その点、僕なんか遊び仲間がぎょ
   うさんおるからね」
こいし「そないぎょうさんいとるの」
いとし「年齢も幅広いで。上は僕と同じ七十六歳か
   ら下は七十五歳まで」
こいし「おじんばっかりや。単に年寄りの集まりや
   ないかい」
いとし「そやけど趣味が合ういうのはええもんや
   ね」
こいし「ほう。きみはその友達とどんな遊びをして
   んねん」
いとし「そやね、春はテニス、夏はヨット、秋はバ
   イク、冬はスノーボード……」
こいし「知らなんだ。きみにそんな趣味があったと
   は」
いとし「それから、ハングライダー、ロッククライ
   ミング、スキューバーダイビング……、そうい
   う遊びは僕らできへんからね」
こいし「ほな言うなや」
いとし「まあ、もっぱら家の縁側でお茶飲んで話を
   してるわけや」
こいし「ほんまにおじんの集まりやがな」
いとし「けど、いつもお茶ばっかり飲んでてても飽
   きるから、今度みんなでスーパーへ行ってみ
   ようという話になりまして」
こいし「スーパー?」
いとし「仲間を募ったら十人ほど集まったんです
   わ」
こいし「きみら、スーパーマーケットへ行くのに、
   何で十人も寄らなあかんねん」
いとし「マーケット違うで。スーパーまんとう、い
   や、ひゃくとう……、じゅっとう……、」
こいし「また始まった。何やねんな」
いとし「あのね、ちょっと前によう流行った映画が
   あるわね。『ナンヤラと千尋のきんかくし』
   とか言うて……」
こいし「それを言うなら、神隠しと違うか」
いとし「そう、あれ、何と千尋の神隠しやったか
   ね」
こいし「千と千尋の神隠しやろ」
いとし「なに」
こいし「千と」
いとし「あ、銭湯ですわ」
こいし「すっと言えや。ほな、スーパーマーケット
   とちごて、スーパー銭湯へ行こうちゅうの
   か」
いとし「今よう流行ってるから」
こいし「スーパー銭湯は僕もよう行くけど、なかな
   か楽しいもんやぞ」
いとし「きみは行ったことあるのか」
こいし「もう何べんも行ってるがな」
いとし「兄貴の僕を差し置いて」
こいし「何でいちいち……、」
いとし「友達のおらんきみが」
こいし「ほっとけや。うちの家族と行くねん」
いとし「家族て誰や」
こいし「うるさいなあ。うちの嫁はんと孫連れて行
   くんや」
いとし「おかしいな。きみは、嫁にも孫にも嫌われ
   てるはずやのに」
こいし「人聞きの悪いこと言うな。私ら最近、スー
   パー銭湯よう行くねん」
いとし「僕、今度行くの初めてやから、ちょっと教
   えてほしいんやけど」
こいし「何やねん」

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