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『時キャバ』(とききゃば)

えー、毎度バカバカしいお噺を一席、申しあげたいと思います。

昔は給料を現金でいただいてたそうで。今日みたいな寒い日でも懐に給料袋が入っていると、それだけでなんだか暖かく感じるものでございましょう。

そうなりますと気も大きくなりまして、普段は仕事仲間と飲んでもサッと帰るところを、ほろ酔いで夜の街をフラフラと歩いて行く、なんてことになりまして…

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ボーイ
「お兄さん!そこのお兄さん」

砂男「お兄さんって、俺のことかい?」

ボーイ「そうですよ、そこのかっこいいお兄さん!もう一軒いかがですか?」

砂男「何の店なんだい?ピンサロか?キャバクラか?」

ボーイ「うちはキャバクラでございます。どうですか?1時間だけでも」

砂男「そうかい、キャバクラか。悪かねぇな。じゃ、1時間だけ行かせてもらおうかな」

ボーイ「ありがとうございます!」


ボーイに連れられて細いビルの中に入っていき奥のエレベーターにスッと乗る。7階でエレベーターのドアが開くと、もうそこにはもうキャバ嬢が待っていた。

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キャバ嬢
「いらっしゃいませ~。こちらへどうぞ」

砂男「お、こりゃいいね。じゃ、座らせてもらうよ」

キャバ嬢「おしぼりどうぞ」

砂男「おぉー。おしぼりとは、こいつぁうれしいね。最近はどこも紙のおしぼりばかりだ。あれはいけねぇ、ペラッペラで手を拭いた気にならねぇんだ。そこへいくと、このアツアツのおしぼりはどうだい。気持ちがほっこりとするよ。いや~、たいしたもんだ。やっぱりおしぼりはこうでなくっちゃな」

キャバ嬢「え~うれしぃ~。おしぼりでそんなに喜んでくださるなんて。ありがとうございま~す」

砂男「いやぁな、俺くらいのキャバクラ通いになるとな、おしぼり一つ見ただけでその店の質がわかっちまうんだよ」

キャバ嬢「すご~い、はい、どうぞ。水割り」

砂男「おっ、早いね!俺がこうやってペラペラしゃべってるうちに水割りがスッと出てくるなんてのは、気持ちいいね~。こいつぁ、うれしいや」

キャバ嬢「いいえ~。これくらいの事は。いつもやってますから」

砂男「いやー、さすがだよ。お、これはまたドレスが、なんとも艶やかだね~。モノは器で食わせる、女は服で魅せるっていうだろ?中身は俺にはわからねぇけど、こんなに綺麗なドレスが似合うってのは、そりゃすごいんだろうねぇ~」

キャバ嬢「そう?」

砂男「そうだよ~。その腰の細さはどうだい。田舎にいくと猪みてぇな胴回りした女がたくさんいるもんだが。ハァー、こりゃすごい。スタイルがいいなんてもんじゃねぇ」

キャバ嬢「ウフフ。ありがと。ちょっと鍛えてるんだ」

砂男「また、どうだい、その指の細さは。かぁー、驚いた。よく白魚のようなんて言うが、白魚より細くてキレイじゃねぇか。強く握るとポキポキって折れちまいそうだ。どれどれ」

キャバ嬢「いやーん、大丈夫ですよ、ほらぁ~」

砂男「これまたあったけぇ手をしてるなぁ~。いやぁ~極楽だ。おや、このいい香りはなんだ?ドルチェ&ガッバーナかい?」

キャバ嬢「わかるの?」

砂男「ああ、これほど上品な香りはそうはねぇよ。俺にはすぐわかるんだ。またこの香りが似合う女ってのもすごいじゃねぇか。いい女だねぇ~」

キャバ嬢「えー、ありがとうーうれしぃーー」

砂男「おっと。その胸の大きさはなんだい。本物かい? 近頃はね、どうかするってぇと、偽物の詰め物をしてる女がいやがるんだよ。ちょっと触って…」

キャバ嬢「ダメ!もぅ~、触らなくても見てわかるでしょ?本物です!」

砂男「そ、そうだよな。こりゃ、本物だ。やっぱり本物は、いいもんだねぇ~」


そんなこんなで調子よく遊んでいますと、時間はあっと言う間に過ぎていきます。


キャバ嬢「ねぇ、もう1時間たっちゃった」

砂男「ええ?もう1時間かい?うまい酒にいい女がいるとあっという間だな。延長してぇところなんだがな、あいにくここ来る前にさんざんっぱら飲んで来ちまってな。今日は1時間で勘弁してくれ」

キャバ嬢「ええ~、そうなの~?しょうがないな~、わかった~」

砂男「悪いな~。いくらだい?」

キャバ嬢「1万6,000円」

砂男「そうかい。えっと、ちょっと待っとくれよ。給料日でな、お札がたくさん… あっと、千円札で払ってもいいかい?」

キャバ嬢「いいわよ」

砂男「じゃ、1枚ずつ置いてくからな、手を出してくれ」

キャバ嬢「はい」

砂男「えっと、千円札で16枚だな。じゃあ、いくぜ。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、今何時だ?」

キャバ嬢「12時」

砂男「13、14、15、16と。じゃ、ありがとよ」


そう言うと、すっとエレベーターに乗り込み下に降りていった。

それを見ていたボーイ。


ボーイ「なんでぇ、あの兄さんは。散々女の子を褒めて持ち上げといて、いい気分になったところで、1、2、3、と千円札を出しやがって。
9、10、11、今何時?なんて言ってやがったな。
お?ちょっと待てよ。10、11、今何時?12時。13、14… 
あの野郎!やりやがったな!」


追いかけるボーイ。エレベーターで1階に降りると、ビルを出たところで、砂男をつかまえた。

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ボーイ
「ちょっとお兄さん!」

砂男「な、なんだい?」

ボーイ「お金!1,000円足りないんだよ!」

砂男「1,000円足りない?」

ボーイ「千円札、アンタの出したのは15枚!途中で時間を聞いて1枚ごまかしたろ!」

砂男「いやぁ~俺は知らねぇな。現金その場限りって昔から言うじゃねえか。足りねぇなら、あの女がちょろまかしたんだろ」

ボーイ「なんだと、この野郎! 客だと思って黙って聞いてたら調子に乗りやがって。あのな、ちゃんと見てたんだよ!それからな、うちの店は店内に防犯カメラがあるんだよ!」

砂男「 …くっ… 防犯カメラがあったのか… 」

ボーイ「それを確認すれば一発でわかる。アンタがやったことはな、犯罪だよ、犯罪!このまま警察に一緒に行くか?!」

砂男「いや、それは… たかが1,000円くれぇで。警察は勘弁してくれ… 払うから、払えばいいんだろ?!」

ボーイ「おいおいおい、物を盗んでおいて返せば罪に問われないってのか?そいつぁ、調子が良すぎるぜ。とにかく事務所に来てもらおうか」


ボーイに腕をつかまれてエレベーターに乗り込み7階へ戻ると、そのまま事務所に連れていかれた。

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ボーイ
「まあ、座んな」

砂男「ちゃ、ちゃんと払うから。警察は勘弁してくれ」

ボーイ「何もこっちも事を荒立てたいわけじゃねぇんだよ。ただな、1,000円払えばそれで許してもらえるって、そんな訳にはいかねぇよな。アンタも大の大人だ。けじめのつけ方ってもんがあるだろう」

砂男「か、金か? い、いくら払えばいいってんだ」

ボーイ「そうだな~。あんたがちょろまかした1,000円の。百倍返しで、10万ってところでどうだい」

砂男「10万?!そりゃないよ~」

ボーイ「いやなら警察でもいいんだぜ」

砂男「い、いや、すまん… わかった。は、払う。けどな、今は持ち合わせがねぇんだ。あとで…」

ボーイ「何言ってやがんだい!さっき給料日だって言ってたろ。わかってんだぞ!」


そう言うとボーイは砂男の上着のポケットに手を突っ込んだ。


砂男「な、なにすんだ?!」

ボーイ「ほーら、あった。給料袋。ここから10万いただくぜ。いいな!」

砂男「わ、わかった、そのかわり警察へは…」

ボーイ「ああ、警察は呼ばねぇよ。じゃ、いただくぜ。1万円札で10枚だ。1、2、3、4、5、6、7、8、9、おっと今何時だ?」

砂男「 1時… 」

ボーイ「2、3、4、  」



お後がよろしいようで。



※今回は100%創作です。僕、キャバクラなんて行かないです。キリッ!
落語『時そば』のパロディですので、元ネタを知らない方は一度聞いてみてください。松井玲奈ちゃんの『時そば』を置いていきますね。

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