![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/36931418/rectangle_large_type_2_82ee671bc2e6c629603daf29ef5be9d4.jpg?width=1200)
『真打日和』 2020.10.17. 末広亭
これが十二月で豪雨ならば伊勢丹の交差点で椎名林檎も一興なのだが、あいにくの小雨だ。
2020年10月17日。
まだ時間があるので、背中で孤独のグルメ感を放ちながら東京随一のグルメスポットに訪れる。
「これだよ、これ」一年ぶりだ。
天一のラーメンにはビールが合う。昼から飲む背徳感を味わいながら、今日これからの予定をおさらいする。
「真打か… 」
【真打(しんうち)】
落語家や講談師の身分のひとつ。身分の中では最も高く、最高の力量を持つ者だけがなれるとされる。また、興行の最後の出番(主任=トリ)で出演できる権利を与えられる。
江戸落語の4団体では、真打昇進を披露するための興行が定席の各寄席を中心に行われる。興行では、新たに真打に昇進する落語家が主任(トリ)を務める。同時期に複数人が真打に昇進する落語家がいる場合は、交代で主任を務める。
仲入り後には口上が行われ、各団体の幹部や当該新真打の師匠などが出演する。
今日、末広亭で行われる真打披露興行の主役は
滝川鯉八、昔昔亭A太郎、桂伸衛門の三人だ。
以前から真打披露興行には興味があった。普段では見ることのできない 披露口上 がある。高座に新真打、師匠、その他諸先輩方がズラリとならび新真打の紹介などをするのだが、これが面白い。そして何しろおめでたい。口上のラストを締めくくるのは観客まで全員参加しての三本締めだ。
しかし、それだけに今年の8月に生れて初めて寄席に行った落語ド素人の自分には少し敷居が高いような気がしていた。
だが、ある人に何気なく話してみると事態は急展開を迎えることに。
「すいません、末広亭で始まる真打披露興行ですが、行ったらすぐに入れるもんですかね」
「興味あるのね。チケットあるわよ。行く?」
「え?いいんですか?じゃあ、お願いします」
「それじゃ17日15時に。末広亭前に来て」
こうして僕は今日、ここ新宿で、真打披露興行を観られることになったのだ。
15時。末広亭。
その人は現れた。
バイクを降りヘルメットを取ると、長い髪を揺らしながら僕に微笑みかけた。
「砂男さんね? お待たせ」
写真NGだというので、イラストでご勘弁願いたい。
その人とは、
さや香さんだ。
到着したさや香さんはすぐに状況を判断し僕に指示をした。
「今日は整理券を出してるから。1人1枚しかもらえないから、自分のもらってきて。私の分はもう確保したから」
「あ、はい」
「スタバで待ってるー!」
それだけを言うとさや香さんはノーヘルのままバイクにまたがり新宿三丁目の細い路地を駆け抜けていった。
末広亭の受け付けで整理券を受け取り、スタバに着く。
「こっちよ」
「あ、ありがとうございます」
「いいえ。ようこそ、新宿へ。末広亭は2回目ね?」
「はい」
「じゃ、これチケット。どっちの色がいい?」
テーブルに色違いのチケットが置かれた。
「えっと… どっちでもいいです」
「そう。じゃ、男の子らしく青にしたら」
「はい、そうします」
「あなた、ラッキーね。整理券が出なければ雨の中、ずっと並んで待ってなきゃならなかったけど。これで16時半までのんびりできるわ。こんなこと、めったにないのよ」
「そうなんですか。よかった」
「せっかくだから、少し打ち合わせしましょう。今後の事」
「はい、お願いします」
”今後のこと” 実はちょっとしたイベントを計画している。
その内容は今はまだ言えない。
16時半、開場した末広亭。
早くに整理券を受け取っていた僕らは前から3列目に座れた。
どん帳が上がる。
ステージではオープニングアクト(前座)から始まり、怒涛の勢いでアーティストたちがそのパフォーマンスを披露していく。
玉川太福はなんと浪曲だ。浪曲を見るのは初めてだったが面白い!
「江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ」「スシ食いねぇ」
聞いたことがあるフレーズだが、これがハマった。浪曲がこんなに面白いものとは。盛大に笑わせてもらった。
宮田陽・昇という年季が入っている漫才コンビ。名前も知らなかったが、面白い!大笑いした。
滝川鯉昇師匠。御年67歳。どんな話を聞かせてくれるかと思っていたら、落ち着いた雰囲気から繰り出される喋りに笑いが引き出される。この意外性!
笑点でおなじみの三遊亭小遊三の落語が終わると、中入り、しばしの休憩となる。
ここまで約3時間。映画なら「長いな」と感じてしまうのだろう。
だが、寄席は違う。飽きない。
それぞれ多彩なテイストを持つアーティスト達に、絶妙なタイム感でバトンが渡されていく。
飽きさせてくれない。
この一連の流れ、ステージングも芸の一つなのかもしれない。
中入り後、どん帳が上がり。口上だ。
めでたい。その雰囲気が伝わり、こっちまでうれしくなってくる。
掛け声が制限されている現在の状況。三本締めではその分思い切り手を叩いた。
さて、その後、三人の新真打のステージとなるのだが。
これが見事に三者三様で面白かった。
それぞれの芸にそれぞれの人間性が出ている。誰かになろうとしているのではなく、自分の良さで、自分のありのままで勝負している、そんな気がした。
その中でも僕が感動したのは滝川鯉八のステージだ。
このとぼけた男に笑わせられ、それだけでなく。最後に「あー、そうきたかー」と唸らされた。
そっと張ってあった伏線に最後まで気付かなかった。古典ではなく、自分で書いた新作らしいのだが、脚本としての完成度がすごい。
やられた。脱帽だった。
21時。
会場を出た僕たちは満足感でいっぱいだった。
「よかった?」
「はい、すごく楽しかったです」
「そう、それはよかったわ。じゃまた何かあったら連絡して」
あっさりしたもんだ。
だがそこが男前。
さや香さんを乗せたバイクは夜の新宿の街に消えていった。
♪ 新宿は小雨
誰か此処へ来て
青く燃えてゆく末広亭の日
ーーーーーーーーーーーーーーー
ということで、昨日の『新宿末広亭・真打披露興行』のライブレポートでした。(数か所作り話含む)
よかったですよ、鯉八さん。Amazonプライムでも彼の落語を見れるので、みなさまもぜひ。
あと近々イベントの発表があるかもです。お楽しみに!
------ セットリスト ------
【春風亭柳若】 反対俥
【ねずっち】漫談
【玉川太福】 石松三十石船
【春風亭伝枝】 壺算
【宮田陽・昇】漫才
【春風亭柳橋】 替り目
【滝川鯉昇】 馬のす
【東京ボーイズ】歌謡漫談
【昔昔亭桃太郎】 お見合い中
【三遊亭小遊三】 野ざらし
ー披露口上ー
【桂伸衛門】 時そば
【滝川鯉八】 おちよさん
【桂伸治】 初天神
【ボンボンブラザース】曲芸
【昔昔亭A太郎 】大工調べ
#落語 #瀧川鯉八 #新宿 #末広亭 #ショートショート #小説 #短編 #短編小説 #超短編小説 #ドキュメンタリー #実話 #コラム #エッセイ