かちかち山、または人と自然のせめぎ合い
『「カチカチ山」とかいう和製サウスパーク、いつからヌルくなったのか』という動画をたいへん興味深く拝見。教育的あるいはコンプライアンス的な理由でのストーリーの変遷は人文社会科学的におもしろいが、僕は環境倫理的なおもしろさを感じた。
老夫婦は、畑を荒らすたぬきをつかまえて、たぬき汁にしようとする。しかし知恵のあるたぬきは縛られていた縄から脱出し、老婆を殺し、ばばあ汁をつくる。
非常に凄惨な描写だが、人間がたぬき汁をつくるという当たり前なことと、たぬきが老婆でばばあ汁をつくるという異常なことが、うまく対になっている。人間は自然(たぬきを含めて)を支配する権利はあるのだろうか。人間もたぬきも、お互い生きるために必死になって命の奪い合いをしているだけではないだろうか。そもそも動物が生きるってそういうことじゃないだろうか。そして、人間はその土地を畑にする権利があるのだろうか。もともとたぬきのすみかだったのかもしれぬ。
かちかち山のストーリーは、人類の発展と自然の衰退の方向に進む。それは、ハッピーエンドとバッドエンドの双方の意味を包含する。自然サイドのプレーヤーだったはずのうさぎが人間サイドに寝返ってたぬきを殺す。こうして人間は安全に支配できる畑の領域を拡大する。これは、『もののけ姫』のエンディングに類似した、人と自然のせめぎ合いを表しているように思う。
力と知恵で他者を圧倒し繁栄するというのは、人間にかぎらず多くの生物にみられる特徴だ。そこに善悪は無い。ただ、制圧される側の立場に立って考えるということも重要だと思う。
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