レジ袋有料化は環境にいいの?
レジ袋有料化はもう10年くらいくすぶっていた議論。法の規制のもと、コンビニなどでも有料になったのは2020年7月からだが、イオンなど大手スーパーではもう何年も前から自主的に有料化していたと記憶している。
無駄なものを出さないのがいい、繰り返し使えるエコバッグがいいよね、という理論は誰もが理解できるところだが、そもそもレジ袋有料化がどのように環境の役に立つのか、実はこの10年余りで議論が変化してきたのでまとめておきたい。
私の記憶の範囲では、10年ほど前にスーパー各社が自主的にレジ袋有料化を進めた際は、二酸化炭素排出量削減というのが名目だったように思う。ところが近年は、マイクロプラスチックなどの海洋ごみ問題の緩和のためレジ袋をやめようというふうに、目的が変わってきたのである。
二酸化炭素の話でいうと、私たち日本人が出す二酸化炭素量のうちレジ袋が占める割合はごくごくわずかであり、自動車や飛行機などの乗り物が出す量の1%未満となる。勝手な邪推だが、名だたる大企業主体の自動車産業や航空運輸業をやり玉に挙げることがかなわず、レジ袋屋さんを狙い撃ちにしたのではないかという憶測を禁じ得ない。
一方、海洋ごみの削減という問題を考えると、たしかにレジ袋はそれなりに大きな原因となっていると考えられる。二酸化炭素は無味無臭無色の気体なので排出されてもいわゆる「ごみ問題」は引き起こさないんだけど(※でも温暖化も、地球規模の「ごみ問題」と考えることができるかもしれない。)、街角に捨てられたレジ袋はやがて劣化してボロボロになり、海に流れ出してしまうのである。というわけで、環境科学の専門家のはしくれとしては、海洋ごみ削減のためのレジ袋の有料化という措置は妥当だと考えている。
しかし問題なのはその周知の仕方であり、どうも市民はなんのためにレジ袋が有料化されたのかあまり理解しておらず、ただその不便さに不満を抱いているような気がしている。Twitterのつぶやきを観測したところでも、レジ袋有料化に好意的な発言というのはほとんど見られない。
レジ袋有料化が海をきれいにするという効果が観測されるにはしばらく時間がかかるだろうが、少なくとも現時点でも、何を目標としているのか、僕らで意識を共有する必要があると思う。その責任は、僕ら専門家、政府、そして小売業のみなさんで連帯して負うべきであると思っている。
なお、有料化と禁止は意味合いが異なっている。レジ袋についての環境政策としては有料化が妥当で穏便なやり方だと思う。エコバッグを持ち歩くのが面倒という人は3円なり5円なり支払えばこれまでどおりにレジ袋を入手できる。それはまったく合法なことである。一方、エコバッグを持ち歩く生活習慣を身に着けた人はレジ袋を買わずに済む。今回の有料化でそういう人の割合が大きく増えたことだろう。このように人間の多様性を認めつつ、社会全体として良い方向に持っていくための手段が有料化なのだ。
有料化は何かを「減らす」のが目的で、禁止は何かを「ゼロ」にするのが目的となる。たとえお金を払ってでもこれまでどおりレジ袋を使いたい人は一定数存在するわけだから、有料化ではレジ袋消費量はゼロにはならない。それでも日本全国で考えればレジ袋消費量は減少するので、環境政策として有効なのである。
このような手法はさまざまな環境対策で使われている。たとえばエコカー減税。燃費の良い車は減税の特典を受けられるという政策だが、裏を返せば燃費のわるいスポーツカーに乗っている人は相対的に高い税金を払うことになる。これをきっかけに、ライト層のスポーツカー愛好家はエコカーに乗り換えたかもしれない。しかし、筋金入りの愛好家は、今も変わらずスポーツカーに乗り続けているかもしれない。それもまったく合法なことである。
このように、市民にチョイスを与え、市民が自由意思で選択する権利を確保する。そのうえで国全体として環境に良い方向に持っていくのが「有料化」「補助金」「課税」など、お金をインセンティブとして用いる政策なのである。
ちなみに「禁止」が適切な対象もある。たとえばフロンガスとか、特定外来生物とか。これらは、一部の人の行為が大きな環境負荷をおよぼすことなので、一律に禁止するのが有効だろう。
このように、僕らの日常生活に影響を与える環境政策の意味合いについて考えるのも大事なことなんじゃないかと思う。
ちなみにこれは僕のエコバッグ。
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