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内田美由紀
2024年11月19日 23:24
むかし 男がいた。都に居づらくなって、東国へ行ったが、伊勢の国と尾張の国の間の海辺を行く時に、浪がとても白く立つのを見ていとどしく すぎゆくかたの こひしきに うらやましくも かへるなみかな(さらに一層過ぎてきた方が恋しいのに、うらやましくも 帰る浪であることだ)となあ、詠んだそうだ。もうずいぶん前のことになるが、秋に研究会で名古屋に行った。一人で行動するのはいつもなのに、
2024年11月19日 01:30
昔、男がいた。(京都の)東の五条あたりに、とてもこっそり(女のところへ通って)行った。(そこは)秘密であるところだったので、門からも入れないで、子供らが踏み開けた築地(土塀)の崩れから通ったのだった。 人がたくさんいるわけではないが、(男が通う)回数が重なったので、家の主人が聞きつけて、その通い路に毎夜、(警備の)人を置いて、守らせたので、(男は)行くが、逢えなくて、帰ったのだった。さて(
2024年11月19日 01:07
昔、東の五条に大后宮がいらっしゃった その西の対に住む人がいた。その人を、本気ではないが、気持ちの深い人が行き訪ねたが、(その人は)正月(旧暦一月)十日位の頃によそへ隠れてしまった。 (その人の)いる所は聞いたが、人が行き通う所でもなかったので、よけいにつらいと思いながら、いたのだった。 次の年の正月に、梅の花盛りに、去年を恋しく思って、(西の対に)行って、立って見、座って見、見
2024年11月19日 00:48
昔、男がいた。思いをかけていた女の所に、ひじき藻というものを贈ると言って思ひあらば葎(むぐら)のやどにねもしなん ひしきものには袖をしつつも (もし思う気持ちがあれば雑草の生えた家の庭に寝もしよう。ひじきではないが引いて敷く物には袖をしながらでも) 二条の后が、まだ帝にもお仕えなさらないで、普通の人でいらっしゃった時のことである。万葉集なら「やど」は「屋の外」すなわち「庭」な
2024年11月19日 00:29
昔、男が初冠(元服)して、奈良の都、春日の里に所領がある関係で狩りに出かけた。その里にとても優美な姉妹が住んでいた。この男は垣根越しに覗き見てしまった。意外にも(その姉妹が現代風で)昔の都に不似合いな様子でいたので、気持ちが惑ってしまった。男は着ていた狩衣の裾を切って、歌を書いて贈る。その男は信夫摺りの狩衣をなあ、着ていたということだ。 春日野の若紫の摺衣 しのぶの乱れ限り知られず