マガジンのカバー画像

伊勢物語ドットコム アーカイブ

12
以前、伊勢物語ドットコムにあった伊勢物語の現代語訳と解説を載せています。随時更新します。以前作った頁の復元ですが、以前の背景や絵は使えませんでした。また解説など一部変えています。…
運営しているクリエイター

2023年5月の記事一覧

渚の院・後半(『伊勢物語』第82段)

渚の院・後半(『伊勢物語』第82段)

お供である人が、酒を従者に持たせて、野を通ってやってきた。
「この酒を飲もう」と言って良いところを探し求めて行くと、天野川というところに着いた。

皇子に、右馬の頭(うまのかみ)がお酒をさし上げる。
皇子のおっしゃるには、「『交野を狩して、天の河のほとりに着いた』を題として、歌を詠んで、盃をさせ(杯に酒を注げ)」とおっしゃったので、例の右馬の頭が、詠んで差し上げた。

 かりくらし たなばたつめに

もっとみる
渚の院・前半(『伊勢物語』第82段)

渚の院・前半(『伊勢物語』第82段)

昔、惟喬親王と申し上げる親王がいらっしゃった。(この京都から見て)山崎の向こう、水無瀬というところに離宮があった。年ごとの桜の花盛りにはその御殿へなあ、いらっしゃったのだった。

その時、右馬頭(右馬寮の長官)であった人を、いつも連れていらっしゃった。時が過ぎて久しくなったので、その人の名を忘れてしまった。

狩りは熱心にもしないで、酒ばかり飲み、飲みながら和歌を作っていた。

今、狩りをする交野

もっとみる
武蔵野(『伊勢物語』第12段)

武蔵野(『伊勢物語』第12段)

昔、男がいた。人の娘を盗んで、武蔵野に連れて行くうちに (男は)盗人だったので、国守(今でいえば県知事)に捕らえられてしまった。

(その時、男は)女を草むらの中に置いて、逃げてしまった。やってくる人が「野には盗人がいるという」と言って火を付けようとする。女はわびしく思って

  武蔵野はけふはな焼きそ 若草のつまもこもれり我もこもれり
 (武蔵野は今日は焼かないで!若い夫も隠れています私も隠れて

もっとみる
芥川(『伊勢物語』第6段)

芥川(『伊勢物語』第6段)

昔、男がいた。女で手に入れることができなかった人を、数年にわたって求婚しつづけていたが、何とか盗み出して、とても暗い時に(逃げて)きたのだった。

芥川という川を連れて行ったところ、草の上に降りた露を、
ーーあれはなに?
となあ、男に尋ねたのだった。

行く先は遠く、夜も更けてしまったので、鬼がいる所とも知らずに、雷までもひどく鳴り、雨もすごく降っていたので、荒れた蔵に女を奥に押し入れて、男は弓・

もっとみる